領営放送教育チャンネル、もしくはドラゴンさんといっしょ!
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次回の更新は、11/3です。
マルフィーザへの出発は流石にすぐにってわけにもいかず、奇しくも皇子殿下方がマルフィーザに出発するのと同日となった。
夏休みに入る前に、片付けておかなきゃいけないことがあったからね。
まず一つ目、お茶会で出会った菊乃井で将来働きたいご令嬢方の件。
これはルイさんに話せば、グレタさんが窓口になってインターンシップ的なことを今から始めてくれるそうな。
その結果有益な何か、或いは即戦力として見込める目途がたてば、その時点で私からの推薦状を出して、仮入庁も視野に入れるという話だ。
その二、町の区画整理。
去年建て替えた冒険者ギルドを中心に商業区を設定して、少し離れた場所に学校などを設定する。役所と歌劇団の専属劇場は学校地区と商業地区の間を取り持つように置けば……という案がでた。
そう言えば旭さんが建物の設計が出来る人と知り合ったそうな。
偶々菊乃井の町をスケッチしていた旭さんに、その人が声をかけて来たらしい。
柱や天井の装飾に対して深い造詣があったその人と旭さんは、芸術論を戦わせてお互いを理解するに至ったとか。
そしてその場に遊びに来ていたモトおじいさんも加わって、専用劇場の図面の話を勝手にしちゃったとかで私に対してエリックさんを経由しての謝罪があった。
「劇場や町の区画整理に関しては広く意見を求めているので、書面にしてもらえるとありがたいんですけど」
「お叱りについては?」
「ないない、ないですよ。別に区画整理も専用劇場も領地の機密という訳じゃなし、広く領民にも意見を言ってほしいくらいだもの」
現在定例会議中。
議題はやっぱり人手不足と町の区画整理が中心だ。
これに加えて今度領地として加わるアルスター地方もどうやって治めるかも入ってくる。
今回の会議は菊乃井の町の代表だけだけど、次回の会議からはアルスターの町の代官にも参加してもらう。
今のアルスターの代官は天領時代にお国が任命した人なのだけど、その人もアルスター出身の人だし、今更中央に帰りたくないということで引き続きアルスターの代官をお願いできることになったんだよね。勿論所属は菊乃井家になるので、お国から人材を引き抜いた形になる。
当然陛下にはご許可をいただいています。
というか、お国から「人材もつけるね(意訳)」というありがたいお申し出があったんだよ。
なお、アルスターの現代官は現在辞令云々のために帝都に出張中だ。
宰相閣下が任命した人なので、信用は置ける。信頼もおける。でもその人の糸目が開いたら何かが起こってる証拠だとかで、眠れる獅子とか物騒なあだ名があるそうな。
あちらも忙しいみたいだし、こっちもそうなので手紙で色々やり取りをしているけど、話の分かる人のようで助かっている。
ああ、そう言えば言っておかないといけないことがあった。
本日の会議会場は空飛ぶ城の広間、円卓を出しての会議で出席者は私、役所からルイさんとグレタさん、住人側から冒険者ギルドの長・ローランさん、歌劇団劇場支配人兼事務長のエリックさん、Effet・Papillonの番頭・ヴァーサさん、宗教・教育関係からブラダマンテさんがご出席。
最近、菊乃井の住人の間でこの会議が「円卓会議」とか呼ばれているらしい。前世の何処かの伝説の騎士団みたいでちょっと。アレは人間関係の縺れから色々破綻したんで……。
それはさて置き、劇場の建物に関してはちょっと頭の隅においておいてほしいことがあって。
「ラナーさんが観劇できる場所を考えておいてほしいんですよね」
「ドラゴンのお嬢さんですか?」
「はい。別に常時用意するのじゃなくて、ラナーさんがおいでになったときだけ、ラナーさんのお席に出来る工夫がほしいというか」
彼女には運河のアレコレで手伝ってもらうことになっている。そのお礼と言ってはなんだけど、ドラゴンが観劇できる席があってもいいと思うんだ。
そう言えば、困ったような顔でローランさんが顎を撫でる。
「町にドラゴンが来るってのは、冒険者ギルドとしちゃ微妙だけどな」
「え? そうです?」
「おお、いや、与しやすいとか人が御せるもんだとか、思わないヤツが大半だろうがよ。それでも相手の表面だけを見て、実力の有無を判断するような馬鹿がおらんとは言い切れないからな。あとはまあ、どのドラゴンとも友好関係を築けるなんて甘いことを考えるヤツとか」
「それは……。でもそれなら雪樹の皆さんの契約なさったモンスターも同じことではありませんか?」
ローランさんの話はもっともだけど、首を傾げるブラダマンテさんの意見もそうだ。
そこにヴァーサさんが口を挟む。
「それはどちらにせよ、教育でなんとかするのが望ましいのでは? 幸い大根先生をはじめ、シャムロック教官やラシード君がいます。彼らに協力いただいて、モンスターの生態を冒険者だけでなく、住民の皆さんにも周知してもらえるような教育をするとか」
それが一番良いだろう。
学芸技術都市を目指すのであれば、問題の解決法もそれに則った物の方がいい。
では具体的にどうやるか、だよね。
それに関しては私には思いついたことがあるんだ。
「異世界には『教育番組』という物があるそうです。なんでも広く知っておいてほしい情報や知識を、楽しめる形で大衆に広められる映像作品だそうで」
「それは……遠距離映像通信魔術のスクリーンで流している『今日のぽち』のような映像で、モンスターの生態等を学習できるようにするということですか?」
「ええ。ラシードさんや大根先生やシャムロック教官に協力してもらって、映像で領民や冒険者達に学んでもらうんです」
グレタさんの疑問に補足を入れる。
すると皆少し考えるような顔になったんだけど、急に城の窓が暗くなって室内に影が出来た。
それから窓が外から叩かれる音がして、全員がキョトンとする。だってこの城、一応浮いてるんだもん。
え? と思う間もなく、窓から爬虫類の目が覗いているのが見えて。
『なんやおもろいこと話してる~! うちも入れて~!』
「ラナーさん!? え?」
急いで控えていたうさおとうさこに窓を開けるように指示を出すと、すっと扉が音もなく開く。
そしてメタリックグリーンの鱗で覆われたドラゴンの顔が、窓からよく見えた。
「こんにちは~、ちょっと用事あって来てん」
「ごきげんよう、ラナーさん。ご用事ですか?」
「そう! 前言うとった羽根の件で寄せてもろたんやけど、近くまで来たらなんや面白い話してたさかい」
盗み聞きするようなことしてごめんやで。
そう続けるラナーさんは、余程そこいらの人間より人間に気を使ってくださっている。
ドラゴンの耳もエルフのそれに勝るとも劣らない地獄耳だそうで、劇場にラナーさんの席がほしい辺りからそっくり聞いておられたとか。
「ウチも人間のこと知りたい、あんさんらもドラゴンのこと知りたい。これ、両想いと違う?」
「えぇっと、たしかに?」
「せやから、その『きょーいくばんぐみ』いうの。ウチ、やってみたい!」
後ろ足に比べて短い前足をバタバタさせても、室内に風が来ないのは相当気を付けてくれている証拠だろう。
室内にいる人達を見回せば、ちょっと苦笑しつつ皆頷いてくれる。
「では、ラナーさん。ご協力いただけますか?」
「勿論! ドラゴンの他にも、ウチがちょっと怖いなと思う魔物のことも教えたるさかい」
「ありがとうございます。では後ほど打ち合わせしましょうね」
「うん!」
ドラゴンの表情ってあんまりよく解らないんだけど、ラナーさんの目が柔く細められたからきっと笑顔だ。
改めてよろしくとラナーさんから差し出された前脚の爪に触れて握手。
ほこほこした雰囲気に和んでいると、はっとラナーさんの肩? なんかそう見える部分が跳ねた。
「ちゃうし! 羽根の件、忘れるとこやった!」
お読みいただいてありがとうございました。
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