仕事も遊びも両立してこそシゴデキなんじゃない?
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次回の更新は、10/31です。
翌日の朝食の席。
「マルフィーザか。吾輩は構わんよ。破壊神の件もあることだし、現地調査は学者の常だ」
「その他に皇子殿下方の護衛もあるんですが」
「そちらも任せておきたまえ。姉上に頼まれて三代目だったかの陛下の護衛を務めたこともあるし、これも何かの縁だろうさ」
昨夜の夜遅くにシェヘラザードのお弟子さんのところから帰って来た大根先生は、私の話を聞くと穏やかに返事をくれた。
っていうか、第三代皇帝陛下の護衛を務められたのか。初耳。
それは先生方もそうだったようで、口々に知らなかったことを大根先生に訴えてる。それを「聞かれなかったから」で済ませる辺り、やっぱり先生方と大根先生って血縁だなって思う。
ロマノフ先生なんて、今上の家庭教師だったことも教えてくれなかったし。
まあ、いいや。
昨夜神様方から教えていただいた情報は、この朝食の席で共有している。報連相は大事。
イゴール様の仰っていた魔女の末裔達の話は、先生方も御存じなかったそうな。
「僕、百年くらい前だったかな? 民族音楽の収集にあっちの方に行ったけど、そんな話は聞かなかったな……」
「そうですね、私も。もっとも私の方は滞在期間が十日ほどだったからかもしれませんけど」
「ボクは十五年ほど前に行ったけど、破壊神も魔女達の末裔も聞いた覚えがないよ」
「吾輩は……つい去年識達を迎えに行ったがね。滞在時間も何もないな」
という感じ。
「イゴール様のお話だと、イゴール様のご加護で一族の人達は見つかり難くはなっているそうです。でも探そうという意志を持って、なおかつ末裔さん達に敵意がないのであれば、簡単に探せるようなものらしくて」
イゴール様のマルフィーザ周辺への物凄く高い不信感はこの加護に根差すものだ。
魔女或いは魔術師狩りが終わった後、イゴール様はあの辺りを統べる時の権力者達に、魔女の末裔達を探し出して安息を与えるようにと託宣を下していたらしい。それはもう何度も。
でもその権力者達は最初こそ魔女の末裔達を探すものの、戦争を始めたり政争を始めたりで、イゴール様のお言葉そっちのけ。探している振りして、真面目には探していなかったわけよ。
末裔さん達は迫害がトラウマになっているから、自分からは出て来られない。だから迎えに行ってやれって託宣を下したのにもかかわらず、だ。
イゴール様としても本当は故郷の大陸で彼らが大手を振って歩けるようにしてあげたいのだろうけど、それを待つよりも私を動かした方が早い。そういう判断になったんだろう。
そういうことをつらつら話せば、先生方も「なるほど」というリアクションだ。
紹介状もくださることだし、それを持って探せば見つかりやすいだろう。
本日の朝食はパンペルデュ・サレ。バケットの甘くないフレンチトーストに、炙ってとろとろにしたチーズとハムを乗せたものと、レクスの伴侶のレシピで作ったシーザーサラダだ。
もしゅもしゅとサラダを食べていたレグルスくんが、不意に心配そうな顔で私を見る。
「あにうえ」
「ん? どうしたの?」
「ていとのきねんさいがおわってすぐなのに、ゆっくりできないの? つかれてない? だいじょうぶ?」
「え? あー……」
正直なことを言えば、記念祭の最中はブラック企業かと思うくらい忙しかった。
だって普段の仕事に加え、社交やその準備、根回し手回し、その他色々があったから。レグルスくんと一緒に過ごす時間も大分削られたよね。
そういう意味では本当に疲れた。だってひよこちゃんから得られる栄養素が不足してたわけだから。
レグルスくんにだって大分寂しい思いをさせてしまっただろう。それに一度もひよこちゃんは何も言わずにいてくれた。
でも産科に小児科も急務なわけで……。
レグルスくんとゆっくりしたい。だけどお医者さんは必要。
その二つに板挟みで天を仰ぎかけたときだった。
大根先生が「それなら」と言葉を紡ぐ。
「マルフィーザで夏休みを過ごせばいいんじゃないかね? 人探しをしながらでも、旅行や探検が出来ないわけじゃない。あの辺りには古エルフの遺跡があったり、大昔の滅びた生き物の魔化石が沢山ある谷もある。君達は件の病には罹らんのだろう? 楽しみながら、魔女達の末裔を探せばいいのだよ」
にこっと笑う大根先生に、ぽんっとヴィクトルさんが手を打った。
「ああ、なるほど。それなら破壊神の情報もついでに探せばいいんじゃない?」
「そうですね。奏君や紡君も誘って、去年のようにキャンプをしてもいいし」
「うん、マルフィーザの夜市も面白いよ。マグメルほど魔道具はないけど、代りに鉱石や化石を取り扱う店が多く出るんだ」
ロマノフ先生やラーラさんも、ワクワクするようなことを言ってくれる。
隣のひよこちゃんの顔を見れば、ワクワクしたような顔だ。私も多分同じような顔をしてるだろう。
「えぇっと皇子殿下方のマルフィーザ滞在はたしか……」
式典と楼蘭教皇国との調印の立ち合いに三日ほどと聞いた。
それなら護衛が終われば識さんとノエくんと合流して、破壊神に纏わる色々を探ることもできるだろう。
人探しは急務だけど、楽しんだっていいよね。
ひよこちゃんと顔を見合わせると、にぱっと笑ってくれる。
そういうことで、今年の夏休みはマルフィーザへ行くことで決定だ。
善は急げということで、朝食が終わったあとに早速各所に連絡を入れることに。
まず菊乃井のお役所、ルイさんに連絡すると「英気を養ってください」っていうお返事。
遠距離映像通信魔術で魔女の末裔さん達の話をしたんだけど、個人的にも菊乃井の代官的にもお医者さんが来てくれるのは助かるって言ってた。
ロッテンマイヤーさんはまだ産休前。産休に入るまでにはお医者さんに是非とも来てほしいところ。
ルイさんの後ろで一緒に話を聞いていた副代官のグレタさんも、何か凄くやる気で「閣下の夏休みはお任せ下さい!」って言ってくれた。
今一番忙しいのは役所の人達なのにありがたいよね。
次に連絡を入れたのは皇子殿下方。
識さんとノエくん、それから大根先生が護衛に付くのを了承してくれたこと、それから菊乃井家の人材派遣事業の一歩として三人を派遣することを伝えると、首を大きく上下させた。
日程やら色々は宰相閣下とやり取りをすることになったけど、二人とも凄くホッとしたような顔だった。
病に罹れば重篤化する条件に当てはまる人達を、その病が流行っている国に連れていかなきゃいけないって、本当にプレッシャーだったみたい。人の上に立つって、こういう時しんどいよね。
で、大きな根回し手回しはそれ位だったんだけど、もう一つ夏の重大事があって。
それを私に告げに来たのは、絹毛羊の王子様・ナースィルと星瞳梟のハキーマ、そして一匹と一羽の主のラシードさんだった。
「もうすぐ絹毛羊の毛刈りの時期なんだけど」
「ああ、そうか。それもあったね」
絹毛羊の一族の毛刈りの人、まだ見つかってないって星瞳梟の翁さんから連絡が来てたんだよね。
それでどうするかっていう話をしてたんだけど、ナースィルから「主達がやってよ」と言われたそうな。
ナースィルが言うには、ラシードさんとその一族の人にやってもらえたら安心ということだそうな。
私としては翁さんが良いと言えばいいんではという感じ。
そう話せばラシードさんも頷く。
「そろそろ一回ナースィルとハキーマも里帰りしても良い頃かなって思うし、それで話を付けてもいいか?」
「ええ、勿論。ラシードさんなら翁さんとも面識はあるし、ナースィルとハキーマが一族の人については保証してくれるでしょうし」
雪樹の人達の活躍の場があるのは良いことだ。
彼等のように魔女の末裔さん達も、菊乃井で穏やかに活躍しながら生きてくれるといいな。
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