プレゼンと解釈違い
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次回の更新は、9/26です。
舞台用といってもコスチュームジュエリーは決してちゃちな作りではない。
ダイアモンドやルビー、エメラルド、プラチナとかの宝石を使用していないだけで、ガラスにしても宝石と同じようなカッティングを施したり、宝石に施すのに勝るとも劣らない技術を注ぎ込む。
そして菊乃井ではそういう宝石を使用したアクセサリーにも勝る宝飾品を作り出す職人に、宝飾師という称号を与えることにした。
宝石にも勝るとも劣らぬ輝きを作り出す職人と、その才能に相応しい敬意の表れとして。
「それが歌劇団男役トップスター・シエル、並びに今公演のラストダンスの相手役を務めたステラの身に付けるアクセサリーで御座います」
「まあ、素晴らしいアクセサリーなのね……」
妃殿下の目がうっとりと、シエルさんのイヤーカフとステラさんのバラのチョーカーを交互に行き来する。
ここからですよ、本番は。
というわけでロマノフ先生とラーラさんに目配せすると、二人とも何もない空間に手を突っ込む。
本当はこういうことすると近衛とかがすっ飛んでくるんだけど、先生達に関してはスルー。皇帝陛下も妃殿下も首を傾げるだけ。長きに渡る信頼と信用は伊達じゃないわけよ。
その先生方が何にもないところからそれぞれ取り出したのは、小さな箱。
ぱかっと中を開けると、そこにはシエルさんが身に付けているイヤーカフと、ステラさんの身に付けているバラのチョーカーの、それぞれ色違いが入っていた。
「皇帝陛下、皇妃殿下におかれましては、菊乃井における魔力クラウドファンディングにご協力下さり、臣は感謝の言葉もございません。つきましては皇帝陛下、皇妃殿下がクラウドファンディングにあたり、お望みになられた返礼品をこちらにお持ちしました。これこそご希望の菊乃井歌劇団グッズにございます!」
園遊会参加に際して、色々参加要項を読んだんだ。その中には園遊会で直訴や賂は禁止とあった。でもお礼品の持参は特に。だって直訴じゃないし、そもそもお礼品は先に陛下や妃殿下が魔力クラウドファンディングに協力くださったからの品物だもん。
にこやかにロマノフ先生とラーラさんが箱を皇帝陛下と妃殿下にお渡しする。
受け取った妃殿下は私の顔とアクセサリーを交互に見て、にこっと笑った。
「まあ、素敵。本当に宝石を一切使っていないのですか?」
「はい。特殊な製法で作ったガラスに特殊なカッティングを施し、作り上げました。非常に繊細な技術で作り上げられたものです。この技術を持ち、それを惜しみなくアクセサリー作りに注げるものだけが、菊乃井では宝飾師と敬意をこめて呼ばれるのです」
「それでは、随分高価なのではなくて?」
「職人に対する正当な対価としての値段にございます。しかし同程度の技術で宝石を使ったアクセサリーに比べれば、比較的安価。庶民にも手が出せる価格となっております。何故なら、歌劇団のグッズで御座いますから」
なんか通販のご紹介番組みたいなプレゼンだな。
いや、でも実際、最初は歌劇団のグッズとして売り出すんだ。ちょっとおハイソな皆さんがお求めやすい値段で、特別感のあるグッズとして。
庶民の皆さんにはお求めやすいキーホルダーなんかを考えてるよ。私じゃなくて、歌劇団の美術方面を頑張ってくれてる旭さんと、その辺の市場調査をやってくれてるヴァーサさんが。次回の砦での感謝祭には間に合うだろう。
因みにキーホルダーは推しの人のイメージカラーを何処かに入れる予定なので、応援したい人のカラーを選べるようにするつもりだ。
そんなことを話していると、妃殿下の目の色が変わった。
「そのお話、後で詳しく! それと、このアクセサリーですが、大変気に入りました。グッズ以外には使われてはいないのかしら?」
「今のところは。けれど完全受注でのオーダーメイドアクセサリーの注文であればお受けできるかもしれません。まだ宝飾師が少なく、そこまで大量に生産できるわけではないのです」
「そうなのね。その辺りも後ほど詳しく伺いたいものですね」
妃殿下が穏やかに箱からバラのチョーカーを取り出して、さっと首に巻きつけられる。すると手伝おうとした侍従を止め、皇帝陛下がチョーカーの留め具を付けてしまわれた。かと思うと、今度は妃殿下が陛下の持っていた箱からイヤーカフを取り出し、陛下のお耳に付ける。
その光景に並んだ貴族も歌劇団のお嬢さん方も希望の配達人パーティーも面食らって固まってしまった。
私? 統理殿下のせいで耐性あるから大丈夫。
陛下と妃殿下が仲睦まじいのは帝国的には大変よろしいことですよ。
お互いにアクセサリーを付けあって、陛下と妃殿下が微笑みを交わす。
「こうやって市井の夫婦のように過ごすのもいいかも知れぬな」
「はい。私もそのように感じました……」
良い感じに夫婦の会話が始まったところで、控えていた宰相閣下がそっと侍従長にもごもごやる。侍従長はそっと頭を下げると私の方に静かにやって来た。
用件はこのアクセサリーの購入窓口の件。とりあえずEffet・Papillonの窓口であるヴァーサさんの名前をだしておいたので、目的は達成されたみたい。
あとは社交界の花々がどうするか。
それはまあ、ちょっと置いておこう。
一頻り夫婦の会話を楽しんだ陛下と妃殿下は、次に希望の配達人パーティーへと話しかけた。
「優勝決定戦のあの激闘、素晴らしいものだった」
「爽やかな戦いでしたよ」
「「「あ、ありがとうございます!」」」
三人とも息ぴったりにお礼をいうんだけど、顔が強張っている。
ガチガチの三人の様子に、場の空気を和らげるためか宰相閣下も声をかけた。
「あの天与の大盾に破壊の星を使いこなす魔術師が現れるとは、宮廷魔術師の一人として驚きを禁じ得ませんのう。素晴らしいことだ」
「あ、あれは、その、侯爵様が……」
言いかけたシェリーさんに首を振ると、ビリーさんとグレイさんが誇らしげに胸を張る。
「シェリーは凄いんです。難しいはずの魔術を最初は一人で勉強して!」
「おいら達はシェリーを信じて守り抜いたらきっと勝てるって考えて、それを実行しただけで凄いのはシェリーなんです! だから侯爵様も凄い魔術をシェリーに教えてくれたんです!」
この二人、本当にシェリーさんが一番なんだな。
シェリーさんは二人に「そんなことない!」って首を振ってる。そしてそれは正解だ。宰相閣下が面白そうに私を見た。
「真実はどうなのだね、弟弟子よ?」
「シェリー嬢に下地があったのはたしかですけど、武闘会で使えると判断したのは前衛の二人がシェリー嬢の真価を知り、それを過不足なく引きだすために動けると判断したからです。シェリー嬢一人であれば、教えなかったでしょう」
これが私の本音だ。
魔術師がいくら強いって言ったって、一人では限界があるんだよ。それこそヴィクトルさんにロマノフ先生やラーラさんがいるみたいに、私にレグルスくんや奏くん紡くんがいるように。
ビリーさんとグレイさんがきちんと役目を果たせる実力と、シェリーさんに信じて賭けられる胆力がなきゃ、天与の大盾も破壊の星も意味をなさなかっただろう。私は無駄なことが嫌いだ。条件が揃っていたから教えたに過ぎない。
冷淡かもしれないけれどきっぱり言えば、皇帝陛下が苦笑された。梅渓の兄弟子様もそうだ。
こっちも慈善事業なんかしたくないからな。実利はきっちり取りに行く。
そういう感じだったんだけど、こっちを向いた希望の配達人パーティーの目が潤む。
「侯爵様の仰るとおり、あた、私はビリーとグレイがいてようやく一人前の魔術師なんです。二人は私の大事な仲間で、一番の力なんです!」
「シェリー……おいら達こそ、シェリーが一番の力なんだ。これからも一緒に頑張ろうな!」
「ウォークライや他の先輩達みたいに、三人で強くなって、色んな人に希望を届けような!」
そして三人揃って「ありがとうございます!」と私に頭を下げる。なんでや……。
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