本日はお日柄も良く園遊会日和
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次回の更新は、9/22です。
翌日。
本日はお日柄も良くって感じの青空だ。
園遊会をするには持って来いな陽気にもかかわらず、隣の少年少女はガタガタ震えている。
「ほ、本当に、この服貰っちゃっていいんですか!?」
「こ、こここここれ、こんなお高そうな服……!」
「おいら、気絶しそう」
今年の武闘会優勝者である希望の配達人パーティーの皆さんは、私が配布した服に身を包み真っ青だ。
ナジェズダさんお手製の礼服はタラちゃんの織った布に、出所不明のやたら魔力の籠ったビーズやスパンコールで刺繍されたそれ。
ファッション的な価値もあるけれど、魔術師であるシェリーさんが青褪めたのは、服に縫い付けられたその出所不明のビーズやスパンコールのせいだ。
神殿に漂うのと似た雰囲気を一つ一つの刺繍が持つ意味を、彼女は正確に読み取ったのだろう。
だからって返品は受け付けないけどな!
使わないとオリハル猫脚箪笥が横に膨れ上がるばっかりだ。ちょっと神気を吐かせてダイエットしないと、私の部屋が圧迫される。
それはそれとしてナジェズダさんは流石の手芸の腕だ。きっちり三人に似合う服を仕立ててくれて。
初心者冒険者講座ではラーラさんが接遇を教えてくれてるもんだから、最低限貴族の前にでても無礼だなんだって言われないような立ち居振る舞いも相まって、それなりの格を持てている。よくみりゃ顔は青いし震えてるけどな。
「その服はナジェズダさんからの個人的な優勝祝いだから返品不可ですよ。それと礼儀とかは気にしなくても大丈夫。貴方達優勝者は、この場においては無礼講。余程の不敬以外は目を瞑ってもらえますから」
「は、はひ」
「が、頑張って、最後まで気絶しないようにします……!」
「は、腹に力入れとかないと……!」
可哀想なほど緊張している希望の配達人パーティーの反対側には、ユウリさんとエリックさん、それからヴィクトルさんに率いられた歌劇団のお嬢さん方が整列。こちらは落ち着いたもので、並ぶ姿も堂々としている。
まあ、二回目だしな。
男役さんはスーツ、娘役さんは大袈裟にならないような上品なワンピース。お揃いの菫を模したブローチを付けていて、彼女達が何処の誰なのか一目で解る仕様だ。
この菫のブローチもコスチュームジュエリーの一種で、真珠百合の実や魔石の欠片などを使用したもの。勿論売り出す。
そのためにシエルさんには昨日の公演で使用した真珠百合とガラスで作られたイヤーカフを付けてもらっているし、ステラさんにはバラのチョーカーを付けてもらっている。
ザワザワと人の波が静かに蠢いて、やがて声が止んだ。
陛下と妃殿下のご来臨を知らせる侍従長の声に、こちらも姿勢を正す。
ゆっくり、参加者に声をかけつつ陛下と妃殿下がこちらにやってくるのが、遠くで起こるさやかな話声で伝わる。
そういえば春のこの記念祭の園遊会には、貴族だけでなく何処かで功を上げた騎士や冒険者も呼ばれてるんだよね。勿論芸術家さんも。
菊乃井のお食事会においでくださったルイーザさんが今回はお呼ばれしてるって言ってたかな。
そういえば、優勝決定戦の後ルイーザさんから手紙が届いた。
彼女、希望の配達人パーティーとウォークライの戦いは、ウォークライを応援していたそうな。だからって希望の配達人パーティーへの恨み言ってわけじゃなく、彼らの戦いにインスピレーションを受けたのでそれを元に創作するっていう、なんだろうな? 萌え語りみたいな手紙だった。
面白いからヴィクトルさんに後で希望の配達人パーティーをルイーザさんに紹介してくださるようお願いしておいた。
で、そんなことを考えている間に陛下と妃殿下がおいでに。
私が頭を下げると、ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさん、それからユウリさんやエリックさん、菊乃井歌劇団の皆が同じように頭を下げる。勿論希望の配達人パーティーもだ。
「皆のもの、面を上げよ」
威厳と深みを感じる渋く低い声に頭を一斉に上げれば、昨日ぶりに陛下と妃殿下のご尊顔を拝する。って言うか、最近結構な頻度で見てるので複雑だ。
「菊乃井侯爵よ。此度も帝都記念祭に花を添えたこと、並びに帝国の威信を他国にも見せる結果となったこと、見事である」
「は、ありがたきお言葉。臣の一生の宝と致します」
この辺のやり取りは予定調和なんだよ。
ここからなんだよねー……。
去年はここで陞爵をぶち込まれた。今年も何かあるのは決まってるんだよな。
ちょっと遠い目をしていると、陛下が後ろに控えていた梅渓宰相へと声をかける。そうすると宰相が巻き物を取り出し、するっとその封を解いた。
「菊乃井侯爵鳳蝶」
「は」
「此度の疫病に対しての一連の功を認め、汝にアルスター地方の天領の残り半領を与え、アルスター地方を完全に菊乃井家の所領とする」
「ありがたき幸せに存じます」
一応、こうなることは先もって知らされていたから、役所の皆さんには色々頑張ってもらってたけど、これから修羅場が展開されるだろう。
領内法の周知とか街道の整理とか、指揮命令系統の一本化とか、死ぬほどやることが出来た。ごめんよ、皆。落ち着いたらお給料アップするからね!
目を淀ませている私を知りつつ、先生達は「おめでとうございます」とか言うじゃん?
内情を知らない歌劇団のお嬢さん方や希望の配達人パーティーが、やっぱり「おめでとうございます!」って明るくやってくれるんだよ。
どういう顔したらいいんだろうな……。
とりあえずにこやかに「ありがとう」と手を振ると、静まるように宰相から声があった。
妃殿下が微笑み、陛下が再び口を開かれる。
「菊乃井卿の功績は本来もっと評価されるべきものである。しかし、現行これ以上の陞爵ないし領地の加増は、責務の増加も意味する。齢十も超えぬ身で、その肩にはあまりにも重い物ばかりを背負っている卿に、これ以上の負担は強いるべきものではない。よって幼年学校入学時に再びその功に報いることにして、今現在は保留とする。その間にまた此度のような功績があった場合は、それも加味するものとする」
「……身に余る光栄。謹んで陛下のご温情に感謝申し上げます」
だからマジで身に余るってばよ。
心の中で頭を抱える。
陞爵って言葉がでたな? これフラグじゃん。要らないよ、公爵位とか。
気分的には大きなため息を吐きたい気分だけど、そんなわけにいかない。
私へのお言葉はこれで終わり。
あとは歌劇団と希望の配達人パーティーへのお言葉だ。
やるべきことをしよう。
今年も見事だったと陛下からお言葉を賜って、歌劇団の全員が最上級の礼を取る。
「去年も華やかであったが、今年も見事であった。来年はもっと素晴らしい物になると期待している」
「我らはいつ如何なるときも、人の心に希望と夢と愛を灯すために全力を尽くす所存です。来年も皆様方のお目を楽しませることが叶いますよう、精進いたしたいと思います」
陛下のお言葉にエリックさんが胸を張る。いや、歌劇団のお嬢さん方皆が胸を張った。
彼女達の歌やダンスが、誰かの希望や夢や愛になる。その自負が彼女達を更に美しく輝かせていた。
その光景に妃殿下の唇が綻ぶ。
「素敵な覚悟ですこと」
「お褒めの言葉を賜ったこと、皆の誉と致します」
ユウリさんと共に歌劇団のお嬢さん方も頭を下げる。
妃殿下は皆に姿勢を戻すよう告げつつ、にこやかに小首を傾げた。
「素敵と言えば、皆さんのお衣装、とても素敵ね? 本物の宝石を使っているのかしら? 豪華ですこと」
「いえ、これは舞台用のジュエリーで御座います」
さて、ここから売り込みだ。
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