We Love Revue!
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次回の更新は、9/12です。
二人が祝福を贈るような客席からの拍手を背にはけていく。
代りに舞台袖から少女達が十人ほど、美空さんや凛花さんとともに舞台中央へ。
彼女達の背後には何処かの町の賑やかな広場の様子が浮かんだ。花びらが青空に向かって撒かれ、空へと白い鳥が舞い上がる。
色取り取りのカラフルな旗が風に吹かれて賑やか。
どうもお祭りの風景のようだ。
ピアノから始まる華やかな音楽と共に少女達が踊りだす。
白いブラウスに、小花の刺繍の散ったスカート。何処にでもいる町娘の格好だけれど、彼女達の身体がしなやかに動く度に裾も大きく花のように開く。
少女達が両腕を天に向かって突き上げ、それを左右に揺らし「貴方は踊れるし、ジャイブだってできる」と歌い出した。
これって文字通りダンスミュージックだよ。
前世のスウェーデンの四人組の歌手の歌で、ミュージカルの場面でも使われる有名な曲だ。
誰もが皆、カーニバルの王様で、女の子達は女王様。
音楽がかかれば皆身体が動き出す。そんな楽しい夜はチャンスがあれば!
その歌詞と共に少女達が客席を指差す。
それはまるで「貴方も人生を楽しみながら踊れるの!」とでも言うように。
楽団から聞こえるタンバリンの音に合わせて、客席でもほんの少し身体を音にのせて動かす人がチラホラ。
ビートにのって、楽しく人生の素敵な場面を過ごす貴方はとてもカッコイイ女王様!
歌詞は誰のどんな年代にもある青い春を讃えて、やがて音と共に踊る少女達と消えていく。
嵐のような拍手の中、背景はまた夕暮れへ。
一軒の宿屋。けれど宿場町の数あるそれとはどう見ても一線を画す、歴史を感じさせる趣と格調の高さを感じさせる、まるで貴族の邸宅のような……。
舞台の中央にダンスレッスン用のバーが設置される。
パラパラとメイド服の少女やコック服を着た青年、ホテルのベルマンを思わせる制服を着た青年やほんの少し仕立ての良いワンピースの少女、他にも様々な服の人がバーの後ろの客席に背を向けて並んだ。
パラパ・パラパラパラパという感じの軽妙な音楽が始まると、舞台の左右からタキシードを着たシエルさんとレジーナさんが現れる。
二人親し気に中央のバーの前まで来ると、その背後に並んだ人々が踊りだした。
そのダンスが帝国に新たな風を齎す。
とはいえ後ろ向きだからお客さんにははっきり見えない。
だから一番前にいるシエルさんとレジーナさんが『友よ、一緒に呑んでおくれ!』と歌いながら、背後の人々と同じステップを踏む。
つま先立の踵を内側に向け、つま先を外に向ける。踵を外側に向けるとつま先は内側、ハの字を描くように。その動作をしつつ前に二歩、後に二歩。
所謂ヒップホップとかにも使われるチャールストンっていうやつ。
このステップに、シエルさんとレジーナさんの後ろで踊っている子達は手の動き……胸の前で両手をくるくる回したり、左右にスイングしたりが加わる。
前で歌う二人は男友達が二人で盃を重ねているその楽しさを歌い上げ、かつダンスバーをカウンターに見立てて酔っ払いの愉快な千鳥足ダンスを披露して。
これって前世のミュージカル「グランドホテル」の一場面の再現なんだ。
物語自体の上演はまだ歌劇団の皆さんでも難しいけれど、見どころの一つであるこの集団チャールストンダンスの場面なら何とか出来る。
そうユウリさんが判断するだけあって、ダンスに一切の乱れがない。
レジーナさんが酔って寄りかかるような仕草を見せたシエルさんを、笑いながらバックハグする瞬間、後のダンサーたちがくるりと前を向く。
一段とステップの速さが上がり、振り付けもより複雑に。
その前で踊る二人も最高潮の盛り上がりに、レジーナさんがシエルさんを持ち上げてみせる。持ち上げられたシエルさんは、そのまま足を蹴り上げてはしゃぐ。
シエルさんを持ち上げたまま一回転したレジーナさんに拍手が起こる。
そしてシエルさんがレジーナさんの手を取ると、今度は二人でチャールストンのステップを。
音楽が最高潮を迎え、シエルさんが「愛しい友よ、一緒に呑んでくれるだろう?」と歌詞の終りを歌い、レジーナさんへと飛びつく。すかさずレジーナさんはシエルさんの膝裏に手を入れ、姫君を抱き上げるように支えた。
ジャンッ!
曲の終りに合わせて後ろのダンサー達も両手を客席に向かって広げるポーズでフィニッシュ。
大きな大きな拍手が客席から降ると、静かに舞台の照明が落ちていく。
いやー、良い。凄く良い。
舞台袖でため息を吐きながら見ていると、戻って来たシエルさんとレジーナさんが肩で息をしていた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。この後ロケットなので少し休めます。男役群舞がその後あるけど、デュエットダンスのために途中で抜けるし」
「私はロケットの後は男役群舞で終わりだから何とか。でもシエルさんはほぼ出ずっぱりだから……」
レジーナさんが少し心配そうにシエルさんの背を擦る。
そうだよなぁ、シエルさんは男役のトップで菊乃井歌劇団の絶対エース。彼女への負担は大きい。
娘役さんのトップはラ・ピュセルの初期メンが交代制でそれぞれの負担を軽減してくれてるんだけど……。
そんなことを考えつつ、二人にお水を渡す。あまり引き留めてはいけない、彼女達も着替えがある。
二人を楽屋に見送ると、ロケット……ラインダンスを行うダンサー達がリュンヌさんと一緒にやって来た。
今回の衣装はバラの蕾や花をイメージして作られたチュチュ。
ロケットの衣装はミニスカートっぽくて露出度が多そうに思うだろ? しかし、蜘蛛ちゃん達が作ってくれた透け感はあるけど透けない布で、フィギュアスケート選手の如く肌を覆った衣装になっているのだ。
淡いピンクやパールの光沢のある衣装の少女達が、ダンスの中に組み込まれたピケターンやアラベスク、そういう技やポーズで観客を魅了する。
チャララララッラララチャララチャララって感じのサックスで始まる曲は、ジャズ、スウィング・ジャズっていうのかな、凄く有名な曲だ。前世なら色んな番組や映画でも使われていたから、一回は聞いたことがあるだろう。そういう曲。
三人や五人の集団で舞台を狭しと踊る少女達のしなやかなこと。
そのうちダンスをしながら中央が中心になるような半円を描いて整列すると、肩を組んでの足上げが始まった。
右左と交互に音に合わせてあげられる足は、高さもテンポも何もかもぴったりと揃ってる。
観客の皆さんもあげられる足に合わせて手拍子で彼女達の勇姿を讃えてくれていた。
そして上げていた足を下ろして手を腰へとあてる。その動作が舞台の左端から右端へと波のように伝って。
音の終りと共にリュンヌさんが「帝都公演千穐楽!」と声を張れば、全員がその後に続いて「やー!」と声をあげ、それから右手は客席へ、左は空へと伸ばすポーズをとる。
ぴしっと揃ったフィニッシュに、客席も惜しみない拍手を注ぐ。そして暗転。
戻って来たリュンヌさんが団員達に声をかけた。
「娘役の子達は男役の子達手伝ってあげて! 急いで!」
バタバタと娘役さん達が一緒に踊っていた男役さん達の着替えを手伝い始める中、ロケットに出ていなかった男役さん達がレジーナさんに率いられ舞台へ。シエルさんはせり上がりで待機だ。忙しい。
そんな中で、一人。せり上がりの近くに待機する人がいた。
「行ってまいりますわ、鳳蝶様」
「はい、よろしくお願い致します」
青いドレスも鮮やかな、凛とした瞳の帝都の歌姫マリア・クロウ。
シエルさんが差し出した手に自身の手を重ねるその姿は、舞台の全てを支配する女王の貫録があった。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




