希望は運ばれ、舞台の上へ
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次回の更新は、本日の20時です。
ジュニア文庫7巻発売記念SSをお送りいたします。
シャナさんは結界を使って杏さん共々魔術を防いでいるようだけど、魔力切れが近いようで蹲ってる。リカバリーのために杏さんが魔力を譲渡しているようだけど、何処までいけるか……。
けど特筆すべきはジークさんだ。
散弾のような礫を浴びても、その筋肉で弾き飛ばして突進を続ける。
バリバリとジェネリック天与の大盾を次々と破壊しては、その度にシェリーさんが壁を作り出す。
ジェネリック破壊の星も単に最下級の氷の礫の魔術に、目つぶし用の光を纏わせた物を沢山作りだして撃ってるだけなので、魔力消費はそう大きくない。だけど限度ってもんがあるんだよ。
杏さんの魔力もジークさんの魔力も略奪してはいるけど、魔術を二つ同時に展開していれば流石に消耗も早い。
「これが! 破壊の星か! なるほど!」
「~~~~っ!?」
突進しつつもジークさんは余裕。身体は氷の礫で射られていて、そこには小さな傷も視える。だけど余裕の様子。
かえって魔術を同時展開して、精密なコントロールをやってるシェリーさんに疲れが見えだした。
マズいな、予想以上にジークさんの魔力が多い。或いは固有魔術に使う魔力が少ないか。
既に六つ張った壁が砕かれ、七つ目の壁にもひびが入った。僅かにシェリーさんの魔力制御に動揺が出たのか、八つ目の壁の出現が遅れる。
七つ目の壁が破られた後に、八つ目の壁にジークさんの拳が入りすぐに砕けた。強度が足りない。これもシェリーさんの動揺の表れだろう。
ジークさんの拳に速さがのって九つ目の壁が出来る前に、シェリーさんへと振り下ろされる。万事休す。
けれどシェリーさんとジークさんの拳の間に滑り込むものがあった。
「うぉぉぉぉぉ!」
「このぉぉぉぉぉ!」
ビリーさんとグレイさんが復帰して、ジークさんの拳をそれぞれの得物で受け止める。
「シェリー! オイラ達が食い止めるから、破壊の星に集中しろ!」
「絶対! 此処からは! 下がるもんかぁぁぁ!」
ジークさんの拳を二人で受け止めながら叫ぶ。実際彼らの足は、ジークさんの突進力に押されてじりじり下がってるんだけど、何とか食い下がってる感じ。
シェリーさんがジェネリック天与の大盾を棄てて、魔力をジェネリック破壊の星へと回す。
「墜ちろぉぉぉぉぉ!」
叫びと共に一際大きな氷の礫がジークさんへと殺到する。杏さんとシャナさんは力尽きたようで、氷の礫の前に二人倒れ伏す。
けれどジークさんはまだ力尽きないようで、その拳でビリーさんを打ち据えると、グレイさんも投げ飛ばした。それでもビリーさんもグレイさんも彼の足に縋り、その歩みを止めようと立ち上がる。
それを何度か繰り返していると、星が徐々に少なくなり、完全に落ちるのを止めた。シェリーさんの魔力が切れたのか、膝から崩れ落ちる。
打ち据えられても蹴とばされても立ち上がろうとしたビリーさんやグレイさんも、とうとう力尽きて立ち上がろうとしてもできない状況に。
ジークさんが二人を踏み越えてシェリーさんの前へ。そして悠然と拳を上げた。
試合が終わる。
皆が息を呑んでその瞬間を見守っていた。
「……いやぁ、破壊の星。堪能したよ」
「え?」
「君のでこれだけやられたんだ。閣下の破壊の星は死ぬな!」
突然話しかけられて驚いたのか、シェリーさんが顔を上げてキョトンとする。ジークさんは晴れやかな笑顔だ。
観客もシェリーさんも呻いていたビリーさんやグレイさんも驚いたのだろう。闘技場は静まり返った。
そして、次の瞬間だった。
笑顔のまま、ジークさんが後ろへと倒れた。固有魔術が切れたのか、筋肉のパンプアップもおさまっている。
「え? ちょ!? え? ジークさぁん!?」
慌ててシェリーさんが声をかけたけど、疲労困憊で立ち上がるだけで膝が笑ってる様子。
戦いに巻き込まれないように退避していたレフェリーがやって来て、ジークさんの状況を見る。喉あたりに手を当てて、それからホッとした顔でテンカウントを数え始めた。
十数え終わってもジークさんは起きない。レフェリーは一つ頷くと、生まれたての小鹿のように脚をガクガクさせて立つシェリーさんの腕を取った。
「勝者! 希望の配達人パーティー!!」
わっと観客が沸き立ち、口々に希望の配達人パーティーとウォークライチームの健闘を讃える。
歓声の中で起き上がったビリーさんやグレイさんを、震える足で近寄ったシェリーさんが両手を伸ばし抱きしめた。
「やったよ! あたしたち、やったよ!」
「お、おお……そうか、やったぁ!」
「うおー! オイラ達、やったんだな!」
ボロボロの姿で三人が固く抱き合う。
その後ろで、いつ起き上がったのか杏さんがシャナさんに肩を貸し、ジークさんの傍にやって来た。
レフェリーはジークさんが気絶していることを二人に説明する。それを聞いていたのか、希望の配達人パーティーもジークさんに駆け寄った。
するとジークさんの閉じた瞼がぴくっと動き、暫くするとゆっくり開く。様子を見ていたシャナさんはホッとしつつ、苦い笑みを浮かべた。
「いやぁ、負けたね。きちんと略奪対策もしたのに、あっさり超えられてしまった」
「本当だよ。私なんか髪の毛の先をちょっと切られただけなのにさ。大方ジークにも、略奪かけたんでしょ?」
あっさり作戦を見抜かれて希望の配達人パーティー三人が神妙に頷く。
「お二人だけじゃなくジークさんも魔力が高いので、アレを何とかしないと勝ち目がないと思って」
「やっても、このざまですけど……」
「おいら達もちょっとは動けるようになったはずだけど、まだまだ壁は高いっていうか……」
試合に勝ったけれど、壁の厚さを再認識することになった。勝負には負けたように感じるんだろう。
起き上がったジークさんが二人の肩に手をおいた。
「君達が死力を尽くして壁となったから、俺の拳が彼女に届く前に魔力切れを起こしたんじゃないか。なあ?」
爽やかにジークさんがシェリーさんへと笑いかける。それにシェリーさんがブンブン大きく首を縦に振った。
「二人が全力でとめてくれたから破壊の星だけに魔力をつかえたんだよ! じゃなきゃ、もっと早くあたしの魔力も切れてたんだから!」
泣き笑う顔でシェリーさんがビリーさんとグレイさんの手を取る。
若い三人を祝福するようにジークさんやシャナさん、杏さんが拍手を送れば、観客もつられたのか拍手と祝福の言葉を希望の配達人パーティーへと送る。
「君達はまさしく希望の配達人になったんだ。君達も若いが、それより若い人や初心者のために希望を運んでやってくれ」
「頑張ってね!」
「僕らも初心に返って頑張るよ、お互い頑張ろう!」
「「「はい!」」」
希望の配達人パーティーの声が重なる。
万雷の拍手が新たな希望の誕生を祝福していた。
そんなこんなの武闘会から開けて翌日。
本日は菊乃井歌劇団の大千穐楽なり。
朝から念入りにリハーサルを行い、大千穐楽ならではの演出の確認を行っていた。
帝国の誇る歌姫マリアさんの参加に、私の影ソロ。
今日だけの特別演出だから失敗は出来ない。一発勝負だ。
この日は劇場に陛下と妃殿下、皇子殿下方とゾフィー嬢、記念祭に招かれた国賓の方々しか入れない。
そのためパブリックビューイングの会場に指定されている帝国劇場並びに広場は、公演を一目でも見たいという人々が犇めいているそうな。
「レグルスくん。応援しててね」
「うん! あにうえ、がんばってね!」
劇場の扉の前でレグルスくんが元気一杯に手を振ってくれる。
今日は空飛ぶ城の私の部屋で、奏くん達と公演を見るそうだ。
うさこに連れられて城に向かうレグルスくんを見送ると、ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさん、それから演出家のユウリさんや歌劇団のマネージャーのエリックさんがやってくる。
「開場します」
声をかければ皆が姿勢を正す。
劇場の扉が、今開け放たれた。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




