盾を構えて星で壊す 盾編
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次回の更新は、8/29です。
五本のナイフの切っ先に宿った魔力が線になり、それぞれの切っ先を結ぶ。
星は魔封じの図形を描いたけれど、ジークさんは気合でその陣を粉砕した。でもナイフの軌道全ては避け切れずに、その内の一本が彼の腕を傷付ける。鍛えられた鋼の筋肉に、すっとか細く引かれた赤い線。かすり傷としか言えないそれに、ナイフを投げたグレイさんが「駄目か」と呟いた。
「なんの真似だい?」
怪訝な顔そのままで、グレイさんに殴りかかったジークさんが問う。それにグレイさんは大真面目に答えた。
「ジークさんの固有魔術だけでも封じられたら、ちょっとくらい殴り合えるかなって」
「なるほど。アイデアとしては悪くないが!」
「駄目だったので、逃げます!」
パンプアップした腕の振り下ろされる瞬間に、グレイさんがリングを蹴って後退する。
すかさず走って来たビリーさんがジークさんめがけて剣を振ろうとするのを、杏さんの軽やかな蹴りが阻む。
魔術師二人はというと、互いに自パーティーのメンバーにバフ、相手にデバフの打ち合いだ。
そういうことすると、お互いの魔術を相殺しあうことになる。なので手数、つまり一度に使える魔術が多い方が有利なんだよね。
「だからあーたんがプシュケを使うのは、相手にとって凄く脅威ってことだね。オマケに空いてる手でもどうにか出来るし」
「あー、なるほど。だから先生達、若様の武器をああいう風にしてもらったんだ」
ヴィクトルさんの解説に、奏くんが頷く。
そう、私の現在同時発動が出来る魔術は最高十八種。両手で十、プシュケで六、歌で一、後一つは腰につけてる夢幻の王だ。先生達は私が何と戦うと思ってプシュケを作ったのかは謎。
シェリーさんとウォークライの魔術師・シャナさんの魔術の打ち合いは現在互角だ。
けど、うなじがちりっとした瞬間、風向きが変わる。
シェリーさんも気が付いたのか、眉を一瞬顰めた。けれど好機ととらえたのか、ウォークライに対する弱体化魔術を詠唱破棄したあと、同時に展開していた魔術を全て味方への付与に切り替えて。
シャナさんの組んだ魔術がシェリーさんの身体を戒めるように、光となる。けれどその光は狭まる前にバチッと音を立てて弾けた。シャナさんの顔が僅かに険しくなる。その後すぐにシャナさんの身体に、先ほどシェリーさんを取り巻いた光の戒めが浮かんだ。
観戦していたロマノフ先生が薄く笑う。
「これが、大巫女様と君が仕込んだ物ですか?」
「ええ、魔封じ限定の術者指定反射です。反射は基本的に術者になされる物ですけど、術者に指定するのがちょっとしたミソといいますか」
「つまりまだ色々仕込んでいる、と。たしかにこれだけじゃまんまるちゃんが自分の服に仕込む意味がないよね」
私の解説にラーラさんが肩をすくめる。
とはいえ魔封じなんて成功率はさして高くない。成功するとすれば、相手が確実に格下のときだけだ。
ぱきっとシャナさんに仕掛けられた魔封じが破られる。その魔封じを仕掛けている間も、彼はシェリーさんと同じく味方への付与に全力を注いでいたあたり、多分牽制。かかればラッキーくらいのアレだろう。弱体化対策もしているだろうしな。
そのあたりは識さんが気付いたみたい。
「シェリーちゃん、味方への強化選んで正解だよ」
「そうなのか?」
「うん、エラトマが言ってる。ウォークライの装備に、前に私達がご領主様に泣かされたアレっぽいのが仕込まれてるって」
「あー……あの『魔術師絶対殺す』っていう?」
ノエくんと識さんの視線が微妙に痛い。
アレは特に難しい仕込みでもないからねー……。
だけど、ヴィクトルさんが首を横に振った。
「あーたんのより、大分マイルドだよ。弱体化が二回重ねがけされたら無効化の魔術が発動するだけだし。『魔術師絶対殺す』じゃなくて『残念でした! 一昨日お出で!』くらいだよ」
「それは優しい」
「本当に」
識さんとノエくんの真顔に若干目線が遠くに飛ぶ。
いやー、アレは正直つけてる最中に楽しくなっちゃったから結構盛ったんだよね。それが思っている以上に効果が出ちゃってさ。しょうがないじゃん。
そんなことをこっちで解説している間に、リングで動きが。
魔術師それぞれ自パーティーの強化が終わったのか、攻撃魔術の打ち合いだ。
シャナさんから弾幕のように火の玉が飛んでくる。それをシェリーさんが水の魔術で打ち消してるんだけど、相手の炎の礫が多すぎてビリーさんやグレイさんが上手く動けない。
でも二人とも杏さんやジークさんと切り結んでいるから、凄くやり難そうだ。
そして打ち消し損ねた炎の礫がビリーさんの肩を掠める。その熱さと痛みで足を止めた彼を、ジークさんの剛腕が襲う。けれどこれはグレイさんがタックルするようにビリーさんを突き飛ばして、何とか回避。だが二人とも体勢を崩したせいで、今度はシャナさんの魔術を避けられない。
詰み。
誰もがそう思っただろう。しかし、二人とも諦めていない。だって打開してくれる人がいるから。
「天与の大盾、展開!」
その一言でぶ厚い防御壁がビリーさんやグレイさん、そしてシェリーさんを守るように現れる。
炎の礫は壁を焦がすことなく消え失せ、ジークさんの剛腕も壁砕くには至らない。
シェルターのような空間に隔離されたビリーさんやグレイさんは、すぐに立ち上がって得物を構え直す。仕切り直しだ。
が。
硝子が割れるような音を立てて、空からぶ厚い隔壁を破り矢が一本リングに突き刺さる。その後からまた矢が降り、数が増す。
「天与の大盾、破れたり!」
声を上げたのは杏さんだ。彼女の腕には見慣れないクロスボウのようなものが付けられている。傍にいたシャナさんがニッと口角を上げた。
「天与の大盾って、貫通を付与した物理攻撃に弱いって本当だったんだね!」
「ああ、貫通を付与しただけで通ったな」
なるほど、天与の大盾の弱点は知られているわけだ。まあ、菊乃井にいれば、奏くんが識さんの天与の大盾を弓の一射で貫通させたのは有名な話だし、耳にしただろう。
観客が騒めく。
シェリーさんやグレイさん、ビリーさんはほんの少し焦ったような顔だ。その動揺をベテラン達が見過ごすはずもなく。
シャナさんが貫通を付与する魔術を発動させると、杏さんがクロスボウを構える。
「菊乃井で見た技、使わせてもらうよ!」
杏さんの声がリングに響いたかと思うと、クロスボウの矢が天に向かって放たれて。
一直線に真上に討たれた矢に、「おやおや」とエルフ先生達が呟いた。
「ラーラの技じゃないですか」
「ああ、カナツムとシオン殿下に教えたやつだね」
ロマノフ先生の確認にラーラさんが頷く。
そういや、菊乃井冒険者頂上決戦でシオン殿下があの技を使って泥を降らせていたな。
「見ただけで使えるものなの?」
「まあ、センスがあれば」
ヴィクトルさんの問いかけは私達の総意だけど、こともなげにラーラさんは言う。
つまり杏さんはセンスがあったんだろう。
奏くんも紡くんも聞いてみたけど「コツを掴んだら簡単」だってさ。ただしコツを掴めないと一生できないらしいので、やっぱりある程度才能が必要なようだ。
とか話しているうちに、天に向けられた矢は無数に分裂して地上に降り注ぐ。シャナさんが貫通を付与していたようだから、このままだとジリ貧。
「天与の大盾、展開!」
再びシェリーさんの声とともに、障壁が希望の配達人達を包む。けれど降り注ぐ矢はその障壁を貫通し、まだ止まらない。
誰もが壁の破壊を頭に浮かべただろう。
だが。
「え?」
「なに?」
「これは……!?」
ウォークライの三人の顔に驚愕が浮かんだ。
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