盾を構えて星で壊す 前哨
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次回の更新は、8/25です。
「あーたんの目、もしかしたら魔眼になりかけてるのかも」
「へ?」
魔眼、とは?
ヴィクトルさん以外皆きょっとーんだ。
いや、言葉は知ってるよ。魔眼って言うのはアレだ。魔力を纏った目のことで、ヴィクトルさんは【鑑定】の最上位の魔眼持ち。バーバリアンのウパトラさんが「透かし見」の魔眼持ち。「透かし見」っていうのは【鑑定】の下位互換。
他にもカトブレパスっていう魔物は「石化」の魔眼持ちだし、バジリスクって魔物も「石化」や「猛毒」や「即死」の魔眼持ちだって聞く。
あと伝説上の美女は「魅了」の魔眼持ちだったなんて話もある。
それが何で?
希望の配達人パーティー対ウォークライパーティーの試合が始まる前の一時、観客席に座った私達。
さっきの刺繍はなんだったのっていう話が、妙な方に転がった。
あの刺繍、私以外ではヴィクトルさんにしか見えない刺繍だったんだよね。
どんなに目を凝らしてもロマノフ先生もラーラさんも、ひよこちゃんや奏くん紡くん、識さんやノエくんの目にも映らなかった。ヴィクトルさんは封じていた目の機能を復帰させてようやく。
私にしたって見えているような見えていないようなではある。
それはこの刺繍が糸でなく、魔力で縫われているからなんだそうだ。やり方はエルフの里でも本当に重鎮しか知らない、いや、教えられないものらしい。ソーニャさんでも知らないそうな。
この情報だってヴィクトルさんの目が見た情報らしく、そんな刺繍があること自体、エルフ先生達も知らなかったという。
その情報をヴィクトルさんが見たことなかったのも、秘匿が厳重になされている技だからみたい。それが今になって見えたのは、これも神様から頂戴した物のお蔭だとか。
「僕らも強化されてるわけだよ」
「あー……なるほど」
つまり強かった先生達が更に強化されてるってこと。乾いた笑いしか出てこない。
私の目が魔眼になりかけているというのも、結局のところ天界由来の物をよく食べているからっていうのと【千里眼】の影響ではということ。
魔眼って別に先天的な物ばかりじゃないらしい。魔術師なんかは後天的に魔眼持ちになることがあるあるなんだって。
理由は簡単。精霊を見ようとしたり、未来を見ようとしたり、魂を見ようとしたり。本来見えない物を見ようとして研鑽しまくった結果、魔眼を開眼させちゃったりするそうな。
まあ、私、最近【千里眼】フルスロットルで未来を読もうとしてるもんな……。
とはいえ、私の目は今のところ魔力を視るというだけのことなので、それがどういう方面の魔眼になるのかは決まってないようだ。
人間の目だから石化とか猛毒、麻痺はないだろうけど……というのが、今のところのヴィクトルさんの見立て。
可能性として高いのはウパトラさんの「透かし見」か、ヴィクトルさんと同じ【鑑定】の魔眼だそうな。
どちらにせよ今より見える情報量が多くなるので確実に疲れる。
疲労を軽減するための眼鏡、いわゆる魔眼殺しが必要になるそうだ。
「眼鏡を作るんですか?」
「うん。専用の道具だから作れる職人も限られているから、今のうちに頼んでおいた方がいいね。そっちは僕が手配しておくから、なんか変な物が見えたら遠慮なく言ってよね」
ヴィクトルさんの言葉に頷く。
魔眼についてはとりあえずここまでだ。
客席がにわかに騒めく。何事かと思えば、選手の入退場門からウォークライパーティーが出てきたのが見えた。
ウォークライのメンバーがそれぞれ観客席を見回すと、ジークさんがこちらの方向を見て、それから急に走り出す。
近付いてくる彼は物凄い笑顔で手を振りつつ「閣下ー!!」って叫んでいて。奏くんが良い笑顔だ。
「あれ、若様のことじゃね?」
「えー……いやー……」
白いタンクトップのそこかしこ、ジークさんの筋肉が走る度にゆさゆさ。凄い。大胸筋サポーターが必要なんじゃ……?
ためしに手を振り返すと、更にスピードを上げてジークさんが近づいてきた。
「お久しぶりです!」
「あ、はい」
きらりんっとジークさんの白い歯が光る。
彼の後ろからは猫族の杏さんと魔術師のシャナさんが、困ったような顔で追いついて来た。
二人にもお久しぶりの挨拶をすれば、彼らも穏やかに頭を下げる。
それを横目にジークさんが爽やかに胸を叩いた。
「閣下、ここで優勝して次の菊乃井冒険者頂上決戦で優勝したあかつきには!」
「えぇ……でも破壊の星なら今から戦うシェリーさんも使えますし……」
「それも楽しみにしております! が! 閣下の破壊の星も! 是非!」
「おぉう……」
楽しみなのか、破壊の星。
何となく目を逸らすと、杏さんやシャナさんも苦笑するのが見えた。
私が視線を向けたことに気が付いたのか、シャナさんが表情を改める。
「閣下。私達が勝っても、初心者冒険者講座を世界に拡げていただくことは可能でしょうか?」
「ええ、勿論。というかこの試合、貴方達が勝っても希望の配達人が勝っても、私には何の損もありません。優勝が一番ですが、そうでなくても短期間で初心者冒険者が貴方達ウォークライのような上位パーティーに食らいつけた。その成果をもって、あらゆる場所に売り込んで行けますしね」
シャナさんも杏さんもホッとした顔に。
「そうですか、良かった……」
「うん、私達も元は初心者。後輩が危なくないなら、その方がいいですもん!」
私と希望の配達人パーティーの約束は意図的に広がっている。それに対しての確認だろうけど、彼等が気にすること等何もない。ただ全力でやり合ってくれたら、それに結果が付いて来る。
ウォークライの三人が頷いて「全力で参ります」と頭を下げた。対して私が返した言葉は「盛り上げてください、武運を祈ります」だ。
そうして三人がリングの向こう側に行ったかと思うと、今度は希望の配達人パーティーが近づいてくる。
その顔が何だか悔しそうな、嬉しそうな顔で。
「大きいよね?」
識さんがシェリーさんに向かって、にやっと口角を上げた。それにシェリーさんが苦く笑う。
「力だけじゃなく、心の中身もまだ追いつけないって感じ」
「ホントだよな、負けないけど」
「オイラ達も、いつか後輩にああ言える人間になんなきゃな!」
「俺も皆やあの人達のことを見習わないと」
ビリーさんやグレイさんも頭を掻きつつ言うけど、その目には闘志が宿っている。ノエくんは彼等三人に感化されたようで、同じくぐっと拳を固めていた。
「何にせよ正念場ですよ。ウォークライにはああ言いましたが、準優勝と優勝の間には大きな隔たりがある。解りますね?」
私の言葉に、希望の配達人パーティーが背筋をピッと伸ばす。
「勝ちなさい」
圧を感じるギリギリの強さでそう言えば、三人が手を胸に当てて「御意」と頭を垂れた。
そして彼らもリングへ。
レフェリーを挟んで左右に希望の配達人とウォークライが向かい合う。
今年の優勝決定戦のレフェリーも去年と同じで、帝都の冒険者ギルドの長が務める。その彼が腕を天へと高く掲げた。
向かい合う選手達がそれぞれに得物を握る。
「始め!」
気迫の籠った声と共に、上げられた腕が地面に向かって振り下ろされた。
同時にお互いの得意な間合いにばらけていく。
それぞれのパーティーの魔術師が後退して詠唱に入るのを、それぞれの前衛が守りに入ったり、或いは相手方を妨害するために動き出した。
その中でもやっぱりジークさんは己の筋肉を誇る固有魔術を展開させる。けれどそこに五本のナイフがグレイさんから放たれた。
それぞれの切っ先に宿る魔力。
ジークさんの眉が怪訝そうに跳ねた。
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