観に来たもの、視えた物
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次回の更新は、8/20の20時です。
書籍15巻発売記念SSをお送りいたします。
とりあえず私的な集まりとしてのパーティーは終わった。
今度新作が出来たら朱火さんはすぐに私に読ませてくれるって言ってくれたし、アッシュベリーさんも歌劇団のために曲を作ってくれるそうな。
涙香さんも菊乃井に旅行して、旅の記を出したいって。ルイーザさんは舞台の小物のデザインをやりたいって申し出てくれた。
彼等との繋がりが出来たから、次もしお食事会をやるならそのときは彼等の推薦した人を優先的に招くことになるだろう。繋がりって大事なんだよ。
そういえばノアさんからお手紙が来た。
梅渓の艶子夫人やゾフィー嬢、乙女閣下のお出でになったどこぞの家のパーティーに彼の親御さんも招かれていたそうで。
その席で先日のお茶会の話が出てきたらしい。
皇子殿下方やゾフィー嬢がノアさんを迎えに来ただけでも肝を冷やしていたご両親は、この席で更に肝を冷やすことに。
ノアさんは私のお茶会について、何を聞かれても答えなかったそうな。
そんな状況で、ご両親はパーティーから帰ってすぐ、ノアさんに再び詰問したそうな。
そこでようやく私との繋がりを話し、それを「何故言わなかった」と責めるご両親に涼しい顔で告げたという。
「文学という余計な物で出来た繋がりです、余計かと思って。それに文学を止めるなら、その繋がりも捨てることになるでしょうし」
ノアさんの言葉を聞き、親御さんはぐぬっと唸って「当主としての勉強との両立が出来て、かつ節度を持って嗜むのであれば小説を書くことを咎めない」と、ノアさんの趣味を認めたそうな。
ノアさんについても悪い結果にはならなかったので、良かったとしよう。これからノアさんはどちらも手を抜けなくなるので大変だろうが。
私としては、帝都に来たときに皇族の方々や高位貴族以外にも繋がりが出来たのはありがたい。
高位の方々には高位の方々の人脈があるし、そうでない所にはそうでない人脈がある。そこから思わぬところに繋がることもなくはない。
あと正月のバーンシュタイン家とのアレソレみたいなものを、事前に横の繋がりで把握している場合もあるしね。
それはそれとして。
武闘会の優勝決定戦が決まって、残る試合のオーダーは希望の配達人パーティー対ウォークライとなった。
菊乃井冒険者頂上決戦で行われた因縁の対決として、吟遊詩人の皆さんが歌を次々発表しているらしい。
大体は若い希望の配達人パーティーがウォークライの胸を借りる感じの詩なんだけど、対立を煽りたいのか何なのか、菊乃井冒険者頂上決戦での試合は卑怯な手段で希望の配達人パーティーが勝ったことになっているものもあったそうな。
しかし、冒険者の大半はあの試合を見ているし、希望の配達人パーティーが知略と死力を尽くしてようやくジークさんをリングに沈めたことを知っている。
なのでそう言う詩を歌う吟遊詩人さんは人気がないようだ。
まあ、帝都のメイド長・メアリーさんとか家令・スチュワード氏がそれとなく市井に、希望の配達人パーティーが私とした約束の内容を噂として流してくれているから。それもあって皆好意的。勿論ウォークライにも「希望の配達人パーティーの邪魔をする悪役」的な評判が付かないように配慮はしてもらっている。
実際帝都にいるカマラさんに聞いたら、ジークさん達も「俺達が勝っても、各地で初心者冒険者講座が流行ってくれたらいいんだが……」という感じだったみたいだしね。
だけど手加減はしないというのが、彼らのスタンスの現れなんだろう。
試合前の選手の控室にようやくお邪魔することが出来た。
決勝までに何かあったときのための予備日を二日を経て、今日は決勝戦だ。
レグルスくんや奏くん・紡くん兄弟、識さんとノエくんと一緒に控室に激励に来ている。
一昨年のエストレージャもそうだったけど、もうガッチガチ。いかにも緊張してますっていう青い顔をしてるわけだよ。
因みに去年のベルジュラックさんと威龍さんはどうだったかというと、ござる丸とタラちゃんの遊びに付き合わされていて緊張する暇もなかった。二人とも背が高いから、登り棒というかアスレチックにされていたんだよね。二人も子どもと遊んでいるような感じで、リラックスに良かったって言ってたけど、飼い主として一応お詫びはしましたとも。
変に緊張して実力が出し切れなくては困る。
そう思っていると、識さんが鞄からリボンを一つ取り出した。
「はい、シェリーちゃん」
「これ、は?」
「ナジェズダさんから預かったリボン。エルフの武運長久のお呪い付きだって」
「あ、ビリーさんやグレイさんの分も預かって来たよ」
ノエくんが鞄からやはりリボンを取り出す。
そうしてシェリーさんと並んで座っていたグレイさんとビリーさんに、リボンを手渡す。
ただのリボンじゃない。目を凝らせばぎっしり刺繍が入っている。
見ただけでも物理防御向上とか魔力向上とか、素早さ向上、状態異常無効とかそういうのに加えて、エグいくらい魔力が込められているのも。
アレ、なんの効果だろうな? ちょっと図形が見えない。
ソーニャさんの刺繍図案にはエルフ紋全てが記されているんだけど、それを暇があれば眺めている私でさえ知らない刺繍に好奇心が刺激される。
だから一緒に来ていたロマノフ先生にリボンを指差して「あれ、なんの紋です?」と聞いてみた
「うん? 君がよく使っている物理防御力向上に魔力向上、素早さ向上に状態異常無効では?」
「いえ、もう一つ。枝葉や根を伸ばした木のようなものが中ほどに刺繍されているでしょう? アレは見たことがないんですが……?」
そう、リボンの中央に枝葉や根を伸ばす大樹の刺繍があって、枝葉にも根にも何か単語のようなものが刺繍されている。
目を凝らして視ないと分からないくらい細い糸で刺繍されていて、時折糸が光るからそれで図形がようやく解る程度だ。
それを伝えると、ロマノフ先生もラーラさんも怪訝そうな顔をする。でもヴィクトルさんだけが、はっと顔色を変えた。
それからヴィクトルさんも目を凝らすようにリボンを見る。
しんっと控室が静かになった。
「あーたん、視えるの?」
「え? ええ。随分細い糸を使うんですね。時々光るから解るけど、光の反射次第では全然見えないです」
ヴィクトルさんの問いに答えると、ひょいっとレグルスくんと奏くんが横から顔を出してマジマジとリボンを見る。
それから揃って首を横に振った。
「あにうえ、なにもみえないよ?」
「うん。何処に模様があんの?」
「えぇ……? 真ん中あたり。左右に魔力向上と物理防御力向上の刺繍があるんだけど」
首を傾げれば、レグルスくん達も首を傾げる。
何だか奇妙な空気が控室に満ちた頃、ヴィクトルさんが眉間を押さえて「うーん」と唸って。
「後で詳しく話そうか。それより、そのあーたんが見た刺繍だけど、多分大巫女様しか知らないエルフ紋だよ。効果は特になくて、単に景気づけみたいな」
「ああ、お呪いの原点ですね」
識さんの言葉にノエくんも「ああ」と頷く。
ノエくんの一族にも、特に効果があるわけじゃないけれど着用者の無事や成功を願うだけの刺繍があるそうだ。
リボンを受け取った三人は、それぞれ思い思いの場所へと結びつける。
「私達、絶対勝ちます」
「うっす。勝って、ナジェズダさんや応援してくれる人に応えるんだ!」
「シャムロック教官にも恩返しするぞ!」
三人が仲良く揃って空に向かって拳を突き上げた。勿論私達応援団も、一緒になって鬨の声を上げる。
帝都の記念祭における武闘会。
その優勝決定戦の火ぶたが切られようとしていた。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




