夢幻の王の食卓 Duex
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次回の更新は、8/15です。
ルイーザさんの質問を機にお茶もそこそこに、空飛ぶ城の内部ツアーに出発だ。
一々広いんだよね、この城。
玄関を照らすシャンデリアからして大きい。これドラゴンやワイバーンが死後魔石化した物を使用している。魔力の量次第で色や光の強弱をつけられる仕様だ。
廊下だって壁にフレスコ画があったり、天井には当時の星図が描かれてたり。これもその時代きっての名人や名工が精魂込めて作ったものだ。
レクスは当時紛れもなく、まつろわぬ人々の英雄だった。
権力を正しく振るうならともかく、そうでない民衆を圧するばかりの王へは真っ向から逆らい続け、逆に神の怒りかと思うような魔術で更地にしてのけた。
それ故に民衆から慕われ、城の手入れを頼めば喜んで引き受けてくれる職人や芸術家が多かったそうな。
レクス本人は目障りなもの、伴侶の安全を脅かすもの、伴侶の心を痛めるもの、その全てを力任せに振り払っているだけに過ぎなくても、だ。
私の後ろを歩く芸術家の皆さんやご近所のオジサン、兄弟子のオジサンとお爺さんも、うさおとうさこの説明に時に頷き、時に感嘆の声を上げる。
うさおもうさこも質問には積極的に答えていたし、お互いの説明に補足を入れたり。レクスの城は彼等にとっても誇らしいものなのだろう。実に楽しそうだ。
皆さんに集まってもらった応接間って三階にあるわけだよ。
その上は主の間と伴侶の間、それから図書館。
そっちは食後のお楽しみとして、三階から食堂に降っていく。
三階にあるのは玉座の間と客室だ。
客室は別棟にもあるんだけど、本館の客室の方がグレードが少し高い。
洞窟をくりぬいたようなバルコニーにベンチがセットされているのは、客人が歓談できるようにという配慮だ。
玉座の間に着くと、涙香さんが私に話しかけて来た。
「ここって、ベルジュラックにリッターシュラークしてあげたところでしょ!?」
「ええ、そうです。よくご存じですね」
「吟遊詩人が聞いて来たように話してるよ~」
ああ、エストレージャのときも吟遊詩人の大袈裟な詩が流行ったな。
というか、アレ。
レグルスくんに「リッターシュラークしてもらった!」って、ベルジュラックさんが言ったせいで、しばらくひよこちゃんの機嫌が最悪だったんだよね。
あのときに近くにいた人から、リッターシュラークの話が吟遊詩人に伝わったみたい。
忙しなく指を動かす朱火さんもルイーザさんも、アッシュベリーさんも、この玉座の間には興味津々だったみたい。
そこから二階に移ると、ここは控えの間と従僕やメイド達の部屋、広間なんかがあるんだけど、控えの間はレクスの拾った動物達の遊び場とかそんな感じだったらしい。
従僕やメイドの部屋にしても、作ったけども特に城にお手伝いさんを入れなくても精霊や妖精、レクスが作った魔術人形達だけで十分だったわけだ。
此処の廊下も壁や天井がフレスコ画や絵画、タイルなどで飾られている。
そのどれもが一級の資料で、歴史的・美術的価値ははかり知れない。
「あ、アッシュベリーくん。ここ地下に神殿があるんだけど、チェンバロあるよ」
「本当に!? あとで弾かせていただいても!?」
「ええ、どうぞ。他にも私の箏も安置してありますよ」
「それは、百華公主様からの!?」
「はい。良ければ触れてください。姫君様は佳き音楽を好まれますから、供物になりましょう」
ヴィクトルさんに声をかけられたアッシュベリーさんの頬が上気する。目がキラキラだし、姫君様の箏の話を出すと凄く喜んでくれた。
本当は全部ご案内してもいいんだけど、それだとお食事どころか丸一日潰すくらいじゃきかない。
というわけでやってきました、一階。
ここは厨房や物見やぐらのある騎士の館っていう別館への入り口がある。
レクスの城と王族の城の違いは厨房と食堂が一体化してるところだ。
これはレクスの伴侶が、自分の作った料理を温かい物は温かいまま、冷たい物は冷たいままで出したかったのと、レクスに作っている所を見せたかったから。
自分の食べるものがどうできるのか、それを見せて教える。食育だね。
あとはまあ、家族だから作ってそのまま食卓にっていうのが当たり前だっただけ。
パーティーとかは流石に広間にテーブルセットを置いてやったらしいけど、レクスの友人として招かれた人は等しくこの厨房兼食堂で一緒にテーブルを囲んだそうな。
そういう説明をうさことうさおがすれば、梅渓家のおじい様が髭を扱いて笑った。
「なるほど、今回はレクスの友人として招かれたていという?」
「はい。レクスの伴侶の遺したレシピノートは、日常レクスが食べていた物が書かれていました。それを今回はお召し上がりいただきます」
「魔導の王、夢幻の王の友人。私的な会には相応しいのでは?」
「ああ、実に面白い趣向だな」
ロートリンゲン公が頷くのに、鷹司佳仁様もゆったりと応じる。
これ、本当にシュタ何とか家やらに知られたら煩いんだろうなぁ。「陛下を友人とは何様だ!」とかね。こっちとら、弟弟子で臣民だわ。逆らえる立場じゃなかろうが。一応俗世的なアレコレは、こっちも慮っとるわい!
食堂にあるのは鏡面仕上げのダイニングテーブルだ。今回はレクスが友人を招いたときに使うテーブルを、うさおとうさこが準備してくれた。
食器も来客用の物を。
ただしレクスと伴侶が気に入って使っていた物、特定の客人にだけ出していた食器は飾るに留めた。
うさおもうさこもテディもめんちゃんも、やっぱり主達には思い入れがある。使わないで飾るだけと言ったとき、あからさまにホッとしてたもん。
飾った食器は簡素なもので、漆を塗っただけの椀や皿、素焼きの小鉢や茶碗など。
芸術家達はそれでも何か得るものがあるのか、飾られた食器にほうっと息を吐いた。
「何も、変わらないんだね。僕ら、ただの人間と……」
「うん。伝説やお伽噺に出て来ても、普通にご飯食べてお風呂入って寝てって生活だよね。不思議」
「どんな英雄も、家族の前では牙なんか抜けるのよね」
「そうですねぇ。変らぬ日常を愛するがゆえに、それを乱す者には苛烈だったのか……」
口々にそんな感想を言い合う芸術家の皆さん。首尾は上々かな?
皆さんに席に着いてもらうと、別に用意された二人掛けの小さなテーブルに置かれた燭台に明かりが灯る。
レクスと伴侶が使っていたテーブルだ。
そこから少し離れたところに私達のテーブルがあって、一応ホストとして主の席に私が座る。
そこから今回は上座下座を意識しないと宣言して、掛けてもらった。なんで鷹司さんが私の隣かはおくとして。
チリリとベルを鳴らせばお食事の始まり。料理がスチュワード氏を始めメアリーさんや宇都宮さん、オブライエン、うさおにうさこの手で運ばれてくる。うさお・うさこは魔術で皿を浮かせてるけれど。
「レクスの食卓は、伴侶の渡り人が育った家庭の形式を踏襲していました。ですので、今回もそのように再現しております。文化が少し違うので、違和感はおありでしょう。ですが、それもまた楽しみの一つとお考えください」
告げると、まずテーブルに大皿が。
うさおが運んできたのは、前菜に当たるシーザーサラダだ。
青々としたレタスを主体に、ルッコラやカリカリに焼いたベーコン、半熟卵を乗せて、にんにく、塩、こしょうにレモン汁、オリーブオイル、デジョンマスタード、ウスターソースを混ぜて作ったドレッシングに、パルメザンチーズを削ってクルトンを散らす。
本来のシーザーサラダはそう作られるものだそうだけど、ここは異世界。ないものが沢山あった。
デジョンマスタードとかウスターソースは諦めて、なんとかマヨネーズを自作して、ついでに牛乳もレクスに頼んで手に入れてもらい、にんにく、塩、こしょう、オリーブオイルにレモン汁でそれらしく。
レシピノートにはレクスの伴侶の努力の痕跡が残されていた。
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