夢幻の王の食卓 Uno
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大変励みになっております。
次回の更新は、8/11です。
夢見心地で去って行った皆さんがどう行動するか。
それが解るまでには一先ず時間が必要だろう。
その間にレグルスくんの予想通り、希望の配達人パーティーが近衛兵選抜チーム相手に勝利。決勝進出を果たしていた。
近衛兵も希望の配達人パーティーの戦力を分析して、タイマンに応じてくれる存在でないことは解ってたらしい。それでも癖が抜けないで、気が付けば多対一に持ち込まれて負けたそうな。
今朝の直通遠距離映像通信魔術会談で統理殿下が苦笑いしていた。シオン殿下は「もう一回菊乃井砦に放り込んでやろうか」って、凄い顔だったな。
因みに菊乃井砦での訓練の話を近衛の面子に聞くと、皆一様に「あれは……地獄でした」と、凄く溜めて言うんだって。
うちの兵士やエストレージャに聞くと「え? 普通のことしかしてませんが?」って、きょとん顔だ。
なんだろうな、この差は……。
ともあれ、武闘会の方も順調。歌劇団の方も順調に連続での満員御礼記録を更新している。
でもねー。本日はお休み。
今日は大人のお食事会の日だから。
まずお客様にはご足労をお掛けするけれど、帝都の菊乃井邸に一旦集合してもらう。
そこからロマノフ先生とラーラさんの転移魔術で、城の玄関へとお出でいただくことに。帰りも先生方が菊乃井邸へと皆さんをお送りする手筈だ。
私とヴィクトルさんはお招きした側だから、玄関でお出迎え。
お茶をしばし楽しんでいただいて、そこからお城ツアーを少し。食堂に着いたらお食事会の開始ってわけ。
玄関ポーチというかエントランスというか、屋敷とは大きさのかなり違う入口に魔術の気配を感じて姿勢を正す。
渦巻く光と魔力の奔流が収まると、そこにはロマノフ先生とラーラさんの他に見知らぬ人が四人と知ってる人二人、そして知らない振りしたい人が一人。
事前情報とすり合わせて、白髪の丸眼鏡に蝶ネクタイの優しそうなお爺さんが音楽家のアッシュベリーさん。高い背を猫背に曲げて両方の指を忙しなく動かしている青年が詩人の朱火さんで、髪の毛が前世で言うところの昇天ペガサスだかトルネードなんとか盛りって感じのタイトなドレスのお姉さんが画家のルイーザ・カサティさん。そしてこちらに向かってニコニコ笑顔で手を振る、緑のコートに黄色いマフラー……北欧の妖精さんのお友達のクール男子チックな、なのに髪型は同じく妖精さんのお友達のちょっとイケズな女の子みたいな玉ねぎお団子のお嬢さんが文筆家の涙香さんだな。
見た目からして癖つよだったりそうでもなかったり。
「皆さん、ようこそおいで下さいました」
声をかければ代表して、ロートリンゲン公が「お招きいただきありがとう」と返してくれた。宰相閣下にもお言葉を頂戴したけど、もう一人。
仕立ての良いアビの裾が揺れると、そこはかとなくいい香りがする。
その香りに覚えがあるのか、アッシュベリーさんがそっと目を逸らした。あ、この人知ってるな?
「……お出で下さいまして、ありがとうございます」
「久しいな、今日はよろしく頼む」
鷹司佳仁様ですよ。
凄くニコニコしてるけど、こちらとしては顔が引き攣る。
でも気にしたら負けだ。まだお客様との挨拶が済んでいない。
それぞれヴィクトルさんがご紹介くださって。
「ようこそ、菊乃井鳳蝶です。初めまして」
「お目にかかれて光栄です、閣下」
アッシュベリーさんに手を差し出せば、さっと握り返される。そういえば私、アッシュベリーさんの曲は聞いたことあるんだ。
あれよ、マリアさんが砦のお祭りで披露してくれた歌の曲がそうだったんだって。軽やかでマリアさんの春風みたいな爽やかさに良くあっている曲だった。
それを伝えれば、優しそうな顔がほころんだ。
「嬉しい限りです、閣下。次は菊乃井歌劇団の曲をぜひ書かせていただければ」
「それは私としても願ってもないことです」
「あの曲の歌詞は、ここにいる朱火君の詩なのですよ」
おっとりと視線を隣に立って、猫背を更に曲げている青年に向けた。
改めてヴィクトルさんが朱火さんを紹介してくれる。朱火さんというのは作家名なんだそうな。
「初めまして」
「は、はじめ、まして! あ、あの、お、おあいできて、こ、ここ、こうえいでひゅ!」
そんな緊張しなくても、取って食ったりしないんだけどな。
にこやかに手を差し出せば、ワキワキと忙しなく動いていた両手がピタッととまった。かと思うと、私は右手を出したんだけど両手で包み込まれた挙句に額に押し当てられて。
「か、感激です! 本当に、実在されていたとは!」
「あ、はい。生きてます、実在してます、ここにいます」
強烈だなぁ。
ロッテンマイヤーさんのお知り合いの作家さんだったりする?
でもそれだったらヴィクトルさんがそういうだろうしな。
手を握られたままでいると、横合いから「ちょっとぉ、朱火ちゃぁん?」と気だるげな声が。
ハスキーだけど暗いって感じではなく、どちらかといえば艶を含んだそれに、ばっと朱火さんが私の手を離した。
それから勢いよく頭を下げる。同じく気だるげな声の主、ルイーザさんも頭を下げた。
「あ、も、申し訳ありません!」
「申し訳ございません、この子閣下に一目会いたいとずっと言ってたもので」
「ああ、いえ、大丈夫ですよ。頭を上げてください」
そういえば朱火さんちょっと泣きそうな顔になったけど、アッシュベリーさんに背中を擦られて落ち着いたみたい。
ルイーザさんと、その隣に立つ涙香さんが揃って「お招きありがとうございます」と腰をおった。
「こちらこそ招待を受けてくださってありがとうございます。どうか楽しんで行ってください」
「はい、閣下。お城も美食も、閣下ご自身も堪能させていただきますわ」
「私自身の価値は、その目で確かめてください」
「ヴィクトルさんに聞いたけど、礼儀とかあんまり気にしないでいいって本当ですか?」
「勿論。人や物を傷付けるようなことは困りますが、それ以外は特に」
「わぁ、ヴィクトルさんの言ってたとおりだねー」
どんな話をしたんだ、ヴィクトルさん。
自己紹介も一通り済んだところで、ちょっとしたお茶だ。もうここからお食事会は始まっている。
サロンにも使える応接間に集まってもらって、そこで歓迎のお茶を振舞う。
このときに使われる茶器だってレクスやその伴侶が来客用に揃えた最高の物だ。レクスが伴侶から情報を得、作り上げた茶器は現在の帝国を代表する窯の作品と何ら遜色ないほどの色彩を持つ。
「これもレクスが?」
「然様です。レクスの伴侶がアイデアをだして、レクスが魔術を使ったり精霊に頼んだりして仕上げたものだとか。現在の器とほぼ同等の技術と見て間違いないですね」
ロートリンゲン公の疑問に答えると、そこかしこから感嘆の声が上がる。
この城、本当にオーパーツだらけだし、オーバーテクノロジーの塊なんだよね。今や失われた魔術もあれば、昔からしたらどんだけ高度だったのかっていう技術が載ってるんだもん。
解析を担当してる大根先生とお弟子さん達が、ドン引きしつつ報告を上げてくれるんだ。
「この色使いもかしら?」
「ええ、色自体は精霊に任せていたようですが」
「顔料や釉薬は残っていますの?」
画家らしい質問のルイーザさんに、うさおが発言の許可を求める。許せば胸をはってうさぎの魔導人形は答えた。
「釉薬も顔料も、全て保管してございます。この城は千余年前の芸術家たちの作品でもあります。修復の必要性が出た場合に、それ用の準備をしてございます」
「ンまぁ! 見せていただけまして!?」
「勿論ですとも。後ほど案内しますので、是非ご覧ください」
招かれた人々の目がキラキラと輝く。
こういう瞬間を見るのは、何よりも楽しいんだよねー!
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




