仕込みは上々
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次回の更新は、8/8です。
お茶会はこの後私やレグルスくん、奏くん・紡くん、アンジェちゃんで古楽器を演奏して、皆で焼いたホットケーキや料理長が焼いてくれたクッキーをお土産にして解散となった。
その席でノアさんはラシードさんに魔物使いの技の取材をしたり、識さんとノエくんの馴れ初めを聞いて創作意欲を燃やしたりと楽しそうだった。
識さんとノエくんの境遇に関しては乙女閣下や艶子夫人、ゾフィー嬢も色々考えてくれて。
特に乙女閣下というか、獅子王家は代々武人の家系だからか、破壊神討伐という使命に感じるものがあったようで、獅子王家所蔵の「屠龍」という魔剣を今度見せてくれると仰った。
その「屠龍」は名前からしてドラゴンキラーの剣らしく、獅子王家の始祖の佩剣だったらしい。
二人に帝都の屋敷にいつでも訪ねておいで、と声をかけていた。
そういえば美奈子先生のお弟子のエマさんは、二人の親友のハリシャさんへの手紙を託してたな。紙芝居を和嬢のために自分もやりたいんだってさ。
多少緊張することもないではなかったけど、お茶会自体は楽しかった。
丁度良い気分転換になったようで、翌日の寝覚めはスッキリ。
また政務の傍ら、歌劇団のオーナーとして公演のお出迎えとお見送りの日々が始まった。
そういえば、艶子夫人から聞いたけれど、梅渓家の跡継ぎは今年の皇子殿下方のお茶会にも不参加らしい。
去年は「馬鹿と話したくない(意訳)」というアレだったらしいけれど、今年は幼年学校の行事が重なったそうな。
本当に?
そういう疑問はあったけど、今回は本当。
件の病で色々滞りが出て、その解消のために本来ならこの時期にある記念祭休暇がなくなったから。
シュタ何とか家の長男もこれに引っ掛かって、今年はお茶会不参加となったそうな。首の皮一枚繋がって良かったね。
お茶会の間に武闘会では動きがあった。
希望の配達人パーティーは勿論、パイラヴァチーム、ウォークライチームが順当に勝ち上がったそうな。
希望の配達人パーティーは下馬評的に、今回当たったチームには勝てないっていう評価だったのを一気にひっくり返した。
次に当たるチームはなんと近衛騎士から選ばれた選抜メンバーだそうな。そしてパイラヴァとウォークライが当たる。
近衛のチームは去年の夏に菊乃井の砦でズタボロになった人達だそうなので、ちょっと危ういかもしれない。
ウォークライとパイラヴァは、若干パーティー編成の問題でウォークライが有利という予想だ。
ここでひよこちゃんの予想はというと。
「シェリーさんたちはまけないよ?」
「そうなんだ」
「うん。このえのひとたち、いったいいちにこだわりすぎ」
「あー……」
まーねー……騎士だからね……。
そういえば源三さんが去年の夏休みに統理殿下の太刀筋を見て、多対一に慣れてないって看破してた。
それは改めたらしいというか、少なくとも統理殿下は多対一の訓練を最近はしている。本人がそう言ってた。
じゃあ近衛隊の人達はどうかというと、魔物相手なら多対一でいいんだけど、どうしても対人だとタイマンやりたくなるらしい。冒険者相手にはとても分が悪い。
それでも勝ち上がってこれたのは、分の悪さをカバーする腕があったわけで。
その腕のある人たちが、こだわりを棄てないと今の希望の配達人パーティーには勝てないという。
上々じゃないか。
けどもそうなると、そういうこだわりを持たない、勝つことに対して執念を持つチームとは腕の差が問題になるわけだ。
「レグルスくん、パイラヴァとウォークライはどうかな?」
「ウォークライだよ。パイラヴァはつよいけど、ウォークライのほうがもっとつよいから」
「なるほど、シンプルだね」
ならば決勝に勝ち上がるのは間違いなくウォークライか。
これって菊乃井冒険者頂上決戦の因縁の対決ってやつじゃん。
彼等は互いに遺恨なんかないだろう。けれどそれがなくても競い合うことは出来るんだ。お互い意地はあるからな。
というか、色々あって希望の配達人パーティーの応援行けてないんだよなー……。
奏くんや紡くん、アンジェちゃんはラーラさんやロマノフ先生が、レグルスくんと一緒に応援に連れて行ってくれている。でも私はここに釘付け。
去年より公演回数を帝都側の要請で増やしちゃったせいだよね。
お嬢さん方とユウリさんからも公演回数を増やしたいっていう話だったから、渡りに船って乗っかったけど、これも考えどころだな。
踊ったり歌ったりって、存外体力を使う。そして観客の前だっていう緊張は精神疲労に繋がるんだ。働き過ぎ、良くない。お嬢さん方を消耗させるのも良くない。何より私の自由時間がほぼないのナニ?
瞳孔開き気味に武闘会の応援にも行けないことを詫びれば、シェリーさん達が首を横に振った。
「とんでもない! 侯爵様はお忙しいんですし」
「そうっすよ。決勝はみていただけたら嬉しいけど」
「弟様や奏たちが来てくれるし、その度に侯爵様も応援してくれているからって声かけられますよ」
お茶会の翌々日、準決勝の前に挨拶に来てくれた希望の配達人パーティーが慰めてくれる。
前日にウォークライはレグルスくんが言ったように、パイラヴァを破った。
決勝の相手がウォークライになることは確定、そしてこれから希望の配達人パーティーが決勝進出を決める予定だ。
彼等を激励して、城から送り出す。
今日のお茶も水差しのお水だったんだよなー……。
給仕に来てくれてたメアリーさんに、水差しの件言い忘れてたから。
誰にでもホイホイいうわけにいかないことでもあるから、うん。うっかりうっかり。
彼等を見送ったら、今度は劇場にいらした方々のお見送りだ。
扉が開いて中から観劇をした人々が出てくるのに合わせて、同じく並んだユウリさんや先生方と「お気を付けてお帰り下さい」と声をかける。
もともとお客さんの退場に合わせてざわめきがあるんだけれど、今日は一段と賑やかだ。
その中でも貴族と思しきアビ・ア・ラ・フランセーズの男性達やドレスの御婦人方が、愛想笑いで近付いて来る。
口々に「昨日のパーティーで小耳に挟んだ」というあたり、艶子夫人やゾフィー嬢、乙女閣下のお仕事が完璧な件だ。
個人的なお茶会を開いたこと、そこに皇子殿下方やお忍びで妃殿下がおいでになったこと、獅子王家の乙女閣下や梅渓家の艶子夫人と和嬢がいらしたこと。それからベルナール子爵家のノアさんと個人的に親しくしていて、彼の文章の才能を私が高く評価していること。
そう言ったことが気になるようで、あれやこれやと尋ねてくる。
極めつけは艶子夫人とゾフィー嬢が社交界にもたらした「レクス・ソムニウムの食卓と、それを再現したものが芸術家たちに振舞われる食事会がある」というもので。
本当にそんな食事会が行われるのか、或いは本当にレクス・ソムニウムの食したであろうレシピを持っているのか。
尋ねてくる彼らに、にこっと営業スマイルを浮かべた。ただし私の笑みはタダじゃないのよ、前世のバーガーショップと違ってな。
「ええ。本当にレクスの食卓を再現したもので、芸術家の皆様をお迎えしようと考えております。彼の方々は当家の歌劇団や活動に対して友好的で、それを正しく評価してくださっていますから。他にも日頃お世話になっているロートリンゲン公や梅渓宰相閣下もお招きしておりますが?」
招かれたければ菊乃井の役に立て。
仄かに暗示を笑みに乗せれば、御婦人方も男性達も夢を見るような目になった。
さて、どうなるかな?
私としては魔力クラウドファンディングの方に色々協力してくれるか、それか菊乃井の野菜や蜂蜜を沢山買ってくれれば御の字だけどな。
それくらいの暗示しかかけてないし。
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