後に菊乃井ティーパーティー社交と呼ばれる……か、どうかは定かじゃない Trois
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次回の更新は、8/4です。
この続きはWebで! っていう商法は前世でよくあったし、何より最近自分でやった覚えがある。Webじゃないけど、本で。
春の感謝祭のことだ。
自分でやる分にはいいけど、やられると辛い。それが身に染みて解った。
けど、これって結構な引きがあるからやるんだよね。つまり商売とか自分に注目を集めるには、やり方として正解なわけだ。
ノアさんに惜しみない拍手を送る。
それからノアさんに握手を求めると、彼は照れながら手を握り返してくれた。
「素晴らしい物語でした。続きが楽しみです。これからも是非仲良くしていただいて」
「はい! 私などでよろしければ!」
食いつくように返事をするノアさん。
その背後に皇子殿下二人が立った。
「俺達も続きが気になる。帝都住まいだ、続きが出来たらすぐに聞かせてくれるんだろう?」
「本当に。続きは十日後には出来ているかい? それとももっとかかる?」
「え!? それはちょっと解りませんが、早めに!」
皇子殿下方から声をかけられて驚くノアさんだけど、まだ他にも人がいるんだよ。
奏くんや紡くんも「面白かった!」とはしゃぎ、アンジェちゃんも目を輝かせている。ノエくんや識さんも二人で感想を言い合ってるし、ラシードさんはエマさんと「マンドラゴラに芝居させられるんじゃ?」とか話してるし。っていうか、マンドラゴラ芝居とか面白そうなんだが?
キャイキャイと喜ぶ皆を見てると、結果は上々。
ヴィクトルさんが傍にやって来た。
「あーたん、やったね」
「はい。新しい才能を手に入れましたね。ロッテンマイヤーさんのお知り合いの方以外に、作家さんの目途が立った」
「彼に名前を売ってもらったら、歌劇団で劇をやるときも話題になるよね」
「やだー、そんな腹黒いこと考えてないですよー。私は友人が名を成さしめる手伝いをしただけでぇ」
これはアレだ。「越前屋、お主もワルよのう?」「お代官様こそ」ってげへげへ笑い合うやつ。
そこへ艶子夫人とゾフィー嬢、乙女閣下とシシィさんとがやって来た。
「私達はそれとなくベルナール子爵家ご令息が鳳蝶様のお茶会に招かれたこと、彼の才能をお認めになったことを広めればよろしいのね?」
「皇子殿下方もすっかり夢中ですし、私も続きが気になって仕方ありませんもの」
「でも実際、面白い話だったよ。そういう才能の持ち主と知り合えるのは楽しいことだ」
「ええ、本当に。何より統理やシオンに良いお友達が出来そうで、嬉しいわ」
彼のお話は社交界で力を持つ女性方の心も掴んだようで、こちらこそ何よりだ。
ちらっと視線をやれば皇子殿下方だけでなく、レグルスくんや和嬢とも話しているようで。
「マンドラゴラはおはなしにでてきますか?」
「マンドラゴラですか? そうですね、出てくるかもしれません」
「ドラゴンやモンスターも?」
「二人の旅は危険と苦難に満ちていますから」
漏れ聞こえてくる話の断片がもう気になる。
心なし給仕をしながら物語を聞いていた宇都宮さんも、メアリーさんもスチュワード氏も、続きが気になっているようだ。卒なく色々こなしているけれど、耳はそこはかとなくこちらに向いてる気がする。
賑やかで和やか。
これぞサロンという雰囲気で、一つ思い出した。
噂を流してほしいのは、ノアさんのことだけじゃなく。
ポンポンっと手を打つと、全員が私の方へ向いた。
「本日のお菓子なんですが、お持ち帰りもできます。それで今日のメニューですが、実はレクスの伴侶のレシピノートからの出典でして」
レクスという言葉に統理殿下とシオン殿下がハッとし、ゾフィー嬢も「まあ!」と声を上げる。
菊乃井組は知ってたから「へぇ」くらいなもん。
驚く帝都組のなかでも、殊更良い反応を返してくれたのがノアさんだった。
「これがレクスの!? それは凄い! 心が湧きたちますね!」
そうだろう、そうだろう。
レクスもお芝居の題材になったり、小説の題材になったりするからね。
そういうわけで、そのノートに載っているレシピを元に大人のお食事会を催す。それを色々説明すれば、シシィさんがコロコロと笑った。
「夫がソワソワしているのよ、よほど楽しみなようで」
「私の夫もでしてよ? 空飛ぶ城に入れるのも嬉しいらしくて」
艶子夫人もつられたように笑う。
ゾフィー嬢も艶子夫人も、このことを社交界で触れ回ってくれるだろう。
これで基礎は出来た。
あとは本番のお食事会を成功させるだけなんだけど。
「お招きになる人はもう決まっているのでしょう?」
「はい。去年、歌劇団に関する曲を披露してくださった音楽家のアッシュベリーさんや詩人の朱火さん、画家のルイーザ・カサティさんや文筆家の涙香さんがおいでになる予定ですね」
「あら、少ないような?」
シシィさんが首を傾げる。
これにはヴィクトルさんが嫌そうに首を横に振った。
「本当はもっと多くの人を招く予定だったんだけどね、サロンで喧嘩になっちゃって」
これは正直私も驚いた。
お食事会の会場の食堂に入れる人数が限られているから、選抜になるっていう話をした途端に参加者同士で揉め始めたそうな。
普段は皆、ちょっと癖つよだけど和気藹々と飲んだり喋ったりしてる人だっただけに、ヴィクトルさんも驚いたって。
更に理由が私を書きたい、描きたいで順番争いになって……という、ちょっと信じがたい話だ。
あんまり揉めたのでヴィクトルさんが切れて「今、揉め事に加わってない人が最初!」って決めちゃったそうな。それでお招きする人が少なくなったんだ。
因みにこのお招きする皆さん、止める側に回ってた人と怯えて隅っこにいた人達らしい。穏やかな人達みたいだ。
そんな話をすると、お招きするお客様達と面識があるシオン殿下が「ああ、なるほど?」と話に加わる。
「多分だけど、朱火と涙香は君と気が合うと思うよ。癖強いけど」
「癖が強いのに……?」
私、そんな癖つよと付き合えるだろうか?
戸惑って零せば、シオン殿下が真顔になった。
「癖の塊みたいな君が、それを言うの……?」
「え? それどういう意味です?」
心外な言われようにシオン殿下を見れば、殿下の方も「何言ってんだ、コイツ」みたいな顔になって。
しばしお互い「何言ってるか解りませんね?」って顔で見つめ合ってしまった。
そこにてこてこと和嬢の手を引いたレグルスくんがやってくる。
「あにうえ、おちゃかいのなごちゃんのドレスはみずいろなんだって! おれもみずいろをどこかにいれたいな!」
「え? 水色? 勿論良いよ、任せて」
「ありがとうございます、おにいさま!」
「和嬢も可愛いシュシュでも準備しましょうか?」
「まあ、よろしいのですか……?」
二人揃ってニコニコいうレグルスくんと和嬢の可愛さに、ついついそんな申出をする。すると艶子夫人が「よかったわねぇ」といいつつ、すっと私に耳打ちをなさる。
「古龍の諸々はご遠慮申し上げるけれど」
「そんなこと仰らずに……!」
「姫神様からこちらもいただいているのです」
「え?」
「和の衣装代に、と。『ひよこも妾の眷属ゆえ、その許婚も同じことよ』と、似合うような物を誂えよとお手紙をいただきましたの」
「わぁ……」
その手紙には加護が重なると主に私に試練が向かうので無理として、その代わりに衣装代の古龍の諸々を……とあったそうで。
道理で真顔で衣装を作ることを宰相閣下から断られるはずだ。
「それは、なんと申しましょうか……」
「いえ、ありがたいことなのです。でも、ね?」
「ああ、はい。承知いたしました」
乾いた笑いが喉から出てくる。
うちの古龍の諸々の捌き先が、一つ減ってしまったことが地味に痛かった。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




