お祭りも公務の一部のはずでは?
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次回の更新は、7/25です。
二度あることは三度あるって諺的なやつは、この世界にもあってだな。
菊乃井歌劇団公演も初日から連続三日の満員御礼の旗が翻り、楼蘭教皇国衛士隊が今年も武闘会で敗れ去った日のこと。
空飛ぶ城の主の間、ジト目の私の手の中には手紙が一つ。
ここ最近見覚えのある、凄く上等で手触りも良く、麒麟と鳳凰の透かしも美しい封筒で、便箋もお揃いのやつだ。
中身?
「君んちのご近所のオジサンと兄弟子のおじいさんに自慢されたんだけど、何やら面白いお食事会するんだって? 呼んでほしいなー。だってオジサンも君の兄弟子だよ? 仲間外れとか寂しいなぁ(意訳)」っていう。
差出人は鷹司佳仁さん。
おかしい。この時期は色々、各国の使者の歓待とかで陛下も妃殿下もお忙しいはずなんだけどな。
そういえば、北アマルナの国王ご夫妻が来訪されている。
春先、北アマルナは件の病の災禍に晒された。でも菊乃井のお祭りでの神々の祝福たる古龍の舞でそれも癒え、今ではもうそんな話も遠い昔のような雰囲気なのだとか。
けれどあの祭りで帝国民がネフェルティティ王女殿下に熱狂し、北アマルナブームが起こって今なお盛り上がっているように、あちらでも帝国&菊乃井ブームが起こっているらしい。
これも鷹司佳仁さんの手紙にあったんだけどね。
まあ、菊乃井にも北アマルナからの来訪者が増えてるもん。その辺は何となく察してた。
目論見通りブームが続いて、民間レベルでいいから交流が盛んになれば、奏くんが言うようにこちらから彼方への行き来も容易になるだろう。逆もまた然り。
北アマルナの国王ご夫妻も私との面会を望まれたようだけれど、国内には何故か私を危険視あるいは敵視する勢力がある。なので目立った動きはちょっと。そう説明すれば、ご夫妻はご納得くださったそうな。
代りに「成人したら会おうね? 絶対に(意訳)」ってお約束をいただいてしまった。
ネフェル嬢ともそのあたりはお約束があるしな。今より私周辺の状況が明るくなっていることを祈ろう。
それで希望の配達人パーティーだ。
今年も楼蘭教皇国の衛士隊は二回戦で散ったんだけど、散らしたのが希望の配達人パーティーだったのよ。
実に和やかなもので、試合開始前に両者は穏やかに握手。衛士隊からは「初級冒険者同士、全力で行こう」と言われ、希望の配達人パーティーは「こちらこそ胸をお借りします!」と礼儀正しくお辞儀したそうな。
爽やかな二者の様子が観客の皆さんの琴線に触れたようで、決着がついたときには両者に惜しみない拍手と健闘を称える言葉がそこかしこから送られたという。善きかな。
残りの選手はというと、パイラヴァチームとウォークライチームが順当に残っている。このままだと次の次あたりでパイラヴァチームとウォークライチームが当たるみたい。
希望の配達人パーティーの次の相手は、そこそこ冒険者として名前は通っている人達だ。でもエストレージャや去年のベルジュラックさんや威龍さんとは違って、希望の配達人パーティーはくじ運がいいらしい。
今のところ全試合観戦しているレグルスくんの見立てだと「シェリーさんたちのほうがつよいよ」だとか。
シェリーさんは未だにジェネリック天与の大盾とジェネリック破壊の星を温存している。
でも純正天与の大盾と純正破壊の星を披露したことにより、大魔術の使い手として認識されて、かなり警戒されているようだ。
彼女に対してのマークがきつくなる分、他の二人が動きやすくなって戦術にも幅を持たせることが出来ているみたい。
彼女の魔封じ対策は万全にしてある。
というか、彼女が今日もつけてるナジェズダさんの付け襟が。
これを仕込んだとき、シェリーさんは「そんなことしていいんですか!?」ってビックリしてたけど、逆に何で仕込まないと思うのさって答えた。だってレクスの衣装にもしてあるんだもん。ただ私を魔封じ出来る人間はほぼいないだろうから、発動しないだけだ。
勝ちに行く。
そのための布石は打った。
だけど彼女達が勝つのだって、私にとってはマイルストーンにしか過ぎない。
人を使って勝ちを得に行く戦いが続く。勝った本人達が喜ぶのはいいけれど、私がするのは兜の緒を締めることだ。喜んでる場合じゃない。
机に向かって手紙の返事を書く。
ご参加くださるなら「鷹司佳仁様」としてお出でいただく。まかり間違っても皇帝陛下にお越しいただくわけにはいかない。だって政治目的じゃなく趣味の会なんだから。
サラサラとカーバンクルの宝石筆で便箋を埋めていく。
空飛ぶ城にいる間、私の執務の手伝いは警備を兼ねてうさおとうさこが受け持っている。
部屋に備え付けのベルを鳴らせば、ちょこちょこと燕尾のうさぎがやって来た。
「うさこ、手紙を出してくれる?」
「承知いたしました。旦那様、後十五分ほどでフィナーレで御座います。お客様方のお見送りの準備を」
「ああ、ありがとう。劇場に行くよ」
今年も私はオーナーとして、観客の皆さんの入場と退場時には劇場の入り口に立っている。
劇場の観覧席の収容人数は少ないので、町の広場に設置されたスクリーンで生中継のパブリックビューイングもやってて。
他にも件の病の時に遠距離映像通信魔術のかかった布が配布されたけど、病の終息後に布を買い取った貴族の領地では公演の様子がやはり生中継されている。
当然菊乃井でも広場や歌劇団専用カフェでパブリックビューイングがやってたり。武闘会の様子も放映されているので、広場近くの飲食店は大盛況らしい。そういう報告書が役所から上がっている。
平和だと娯楽って強いよねー……。
そういえば菊乃井では件の病の騒動の際、スクリーンを領内全域に設置した。それを活用して、決まった日の決まった時刻に今週の内政状況や経済状況、人口推移、犯罪の有無、火事や事故の情報なんかの領内ニュースを流すのと同時に、幾許かの広告料をもらって「どこそこの何とか商店がアレソレのセールを何日までやります、皆来てね~」という情報を流したり、娯楽のために「今日のぽち」という映像を流したりしている。
今日のぽちってアレだよ。火眼狻猊のぽちが一日どう過ごしてるか追いかけてるだけの映像なんだけど、意外に皆もふもふ好きなのか評判がいい。
この調子なら教育番組とか作ったら見てくれるんでは?
まあ、でも、お金ないしな。稼ごう。
コスチュームジュエリーの話は手紙でゾフィー嬢や艶子夫人、乙女閣下に伝えた。
お三方とも新しい装飾品には興味津々だし、ハイジュエリーだけじゃなく宝飾品の選択に幅が出るのであれば、お洒落の幅が広がる。ひいては自分のセンスも磨かれるし、それで社交界において流行を作ることが出来れば、貴婦人としての名声も手に入る。
貴族って何も当主とか跡継ぎとかだけが戦っているわけじゃない。彼らに同伴する夫人やご令嬢も社交界で戦っているわけだ。そりゃ武器がほしいわな。
肉を切り骨を砕くだけが戦いじゃない。文化だって一種のマウント合戦だし、そこで菊乃井は天辺目指しているんだ。協力者はありがたいよね。
さて、そろそろ行こうか。
机に備え付けられたペン立てに宝石筆をしまって、部屋から出るために立ち上がる。
扉は私が部屋から出れば勝手に施錠される仕様だ。
お茶会やお食事会のときは、ほんの少しだけ城内ツアーをお客さんに開催するつもり。
同じ敷地内といっても、城の頂上付近の主の間から劇場まで歩くのは遠い。なので腰の夢幻の王に声をかけて転移魔術を使う。
転移魔術自体はもう使えるけど、城の結界をすり抜けるには夢幻の王に手伝ってもらわなきゃいけないんだ。
魔術使用に大歓喜を垂れ流す夢幻の王を無視して、劇場前の扉に降り立てばほんの少し中の人々の様子が窺える。
華やかな喜びに満ちた声と拍手の嵐が巻き起こっていた。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




