繋がりが呼ぶ繋がり
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次回の更新は、7/1の20時です。
14巻発売記念SSをアップします。
翌日のこと、早速董子さんが屋敷に来てくれた。
昨日タラちゃんが届けた手紙を読んで、折り返しで「明日行きます」っていう返事をくれたんだよね。
料理長も交えてメニューのお話なんだけど、やっぱり料理長も董子さんもそのまま渡り人の料理を出すのはどうかって意見で。
「それをすると『渡り人の料理だから凄い』になっちゃうと思うんですよねー」
「自分もそう思いますなぁ。あちらの発想も新鮮ではあるんですが、こっちにもないわけじゃないですし」
「なるほど」
専門家の二人が言うならやっぱりそうなんだろう。
となれば何がいいのか。
それに関して、董子さんから提案があった。
「歴史上の人物の食卓の再現、ですか?」
「はい。空飛ぶ城の図書館で色々見つけたんですけど」
空飛ぶ城にはレクスが集めた本が収められた図書館がある。
そこをノエくんと識さんに虫干ししてもらったんだけど、収蔵された本が多岐に渡るとは聞いていた。料理の本もあることを二人から聞いた董子さんは、ちょいちょい図書館を利用していたそうで。
「偉人の日記にアレ食べたコレ食べたって結構出て来てて。探したらその料理のレシピの載ってる本もあったので、いけると思いますよ」
「そういや、そんな本もありましたな」
「料理長も知ってるの?」
「ええ、旦那様がバタークリームサンドを食べたいと仰ったときに、ヒントを探しに行ったんですよ」
「ああ、それはありがとう」
「いえいえ」
にこやかに料理長が返してくれるけど、私の食べたい物ってこういう見えない努力をしてくれるから出来るんだよな。
じんわり温かさを噛み締めつつ。
「では、その線で行きましょうか。ただ問題は誰の食卓を再現するか、ですね」
「それですよね。誰もが皆知ってて、なおかつロマンに溢れる人って誰っしょ?」
「食卓の再現もですが、誰にするか。そっちの選定の方が難しいかもしれませんな」
でもやる。
菊乃井の未来を拓くために。
それにいずれ菊乃井では歴史の研究も始まるんだ。この食事会がその先駆けになったっていいじゃないか。
学ぶことはそこに面白みを見つけることが切っ掛けになることもあるんだし。
というわけで、人物の選定に関しては董子さんと料理長にお任せ。
意見は随時求められることに。
これは董子さんが「英雄譚に興味ない人でも惹かれる人がいいと思うので」と、私みたいなタイプでも解る人の選考基準にするそうだ。
これで菊乃井家の記念祭の迎え方は決まった。
あとは帝都のスケジュールに合わせて、空飛ぶ城を動かす段取りや食事会の日取りを決めるだけ。
菊乃井歌劇団の帝都公演に関しては宰相閣下と打ち合わせで決めることだけど、何度かのお手紙で陛下とご家族の観劇予定は既に知らされている。
去年は大楽だけだったけど、今年は初日と大楽を御観覧になるそうな。
因みに武闘会は去年と同じく、歌劇団の大楽の前日に決勝戦が行われる。
出場者に関しての情報もチラホラ入って来てるんだけど、今年も楼蘭から衛士隊がくるそうだ。毎年のことなんだけど、今年はなんかブラダマンテさんに打診してお断りされたらしい。
ブラダマンテさん、そもそも冒険者でも衛士でもないし、説法(物理)は最終手段らしいから。
えんちゃん様のお声がけがあったから大会に出場しただけで、帝都の方は今のところそういうのはないんだってさ。
で、エストレージャやバーバリアンにも一応声掛けがあった。いや、打診を頼まれてやったんだけど、こっちもお断り。
エストレージャもバーバリアンも「鍛え直す時間がほしい」んだって。
まあ、来年も菊乃井冒険者頂上決戦はやるからね。もう決定事項なんだよ、それは。
まことしやかに帝都の記念祭の優勝が菊乃井冒険者頂上決戦のシード権につながるなんて噂が拡がっているからか、去年よりエントリー数が増えているとも聞く。
それも冒険者としての位階が上の下やら上の中やらの、本来ならエントリーしなさそうなパーティーのエントリーが。
その中で今大会の優勝候補は、ジャヤンタさんから参加の情報がもたらされたウォークライだ。
彼等の実力であれば予選突破は容易いだろう。
希望の配達人パーティー? 超大穴。彼等が菊乃井冒険者頂上決戦で見せたジャイアントキリングは、あの意表を突いた戦い方だったから。もうその手も通用しないとなれば、初心者に毛が生えた程度では……ということだ。
オッズがひっくり返ることで、どれだけの人間が泣いて笑うか、それはちょっと見ものだな。
粛々と提出された書類に目を通していく。
数字に関わることや、新しい取り組みに関すること。多岐に渡るものを読んで、自分の中で消化して落とし込んでいく。
地味なんだよねー……。
領主の仕事って九割方、書類や数字とにらめっこ。
去年の武闘会とかでやったような派手な立ち回りなんか、堅実に領内を治めてたら必要ないことだもんね。
あんな派手なところがクローズアップされて、貴族っていうのは大げさで云々っていうイメージがつくんだろう。けど実際の仕事なんか、本当に地味なんだ。毎日ほぼ同じことの繰り返しだから。
オマケにこっちは数字とか、本当に得意じゃないし。
その書類の中に、一つ喜ばしい報告があって。
今度の帝都公演のパンフレットを試作したんだけど、それが出来上がってきたのだ。
旅するエルフのキリルさんが紹介してくれた印刷所が、頑張ってくれました! 紙に幻灯奇術を固定するのが難しかったらしいんだけど、それをキリルさんが手伝ってくれたらしい。ありがたいことだよね。
出版社としても幻灯奇術を紙に固定する技術は是非ともほしかったらしく、お礼に菊乃井歌劇団や菊乃井家の持ち込む印刷物は安価でこれからも請け負ってくれることに。
物事が動き出すととんとん拍子に色々進んでいく。それも人と人の繋がりによって、大きく前進するんだ。
これって多分いただいた加護のお仕事なんだろうな。
菊乃井歌劇団関係でいえば、コスチュームジュエリーの試作品が上がって来てたっけ。
今度の公演のラストダンスを踊るシュネーさんが身に付ける物、それと全く同じ物を妃殿下に献上する。
使っているものはハイジュエリーではないけれど、丁寧なカッティングを施されたガラスの輝きは決して見劣りするようなものじゃない。
菊乃井の職人さん達の技術の高さが解るような品物で、私としては満足。
必要な物にはサインをして、あとでファイリングしてもらうように専用の仕分け箱の中に入れておく。
時間になればラシードさんが回収して、役所に持っていく分は持って行って、屋敷に置いておく分はファイルしておいてくれるのだ。
ぺらぺらと積み上げられた紙を処理する中に、さらっとお手紙が紛れ込んでいた。
正式な物でなく、ちょっと書いてみました的な。
メモといってもいいようなそれを読むと、書いたのはロマノフ先生だった。
内容はというと、奏くんの鍛冶のお師匠さんのモトおじいさんとお出かけしてくるっていう話で。
お出かけの理由は、うちの馬車をモトおじいさんのお知り合いの馬車職人さんとこに預けるためだそうな。
奏くんからうちの馬車の惨状を聞いたモトおじいさんが、知り合いの馬車職人さんを紹介してくれることになったんだって。
正直そこまで手が回ってなかったから、凄く助かる。
もしもメンテナンスどころかオーバーホールするんだったら、代替の馬車も用意しなきゃだし、困ってたんだよねー……。
人との繋がりって本当に大事。
それを心に刻んで、伸びを一つ。仕事はまだまだ片付きそうになかった。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




