未来を拓くための宴
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次回の更新は、6/27です。
日々は順調に進んで、希望の配達人パーティーが帝都の記念祭にて開催される武闘会の予選に向けて出発する前日がやって来た。
快晴。
空飛ぶ城の中庭で本日は菊乃井歌劇団と希望の配達人パーティーの壮行会が開かれる。
それだけじゃなく、バーバリアンの皆さんも招いて約束のお食事会とあいなりまして。
礼儀とかお行儀とか、あんまり気にしなくていいようにバーベキュー仕様にしたんだよね。
勿論菊乃井家のお食事会だから、焼いたお肉以外にも料理長が腕を奮ってくれてる。
なので庭に置いた席のそこかしこで美味しい悲鳴が聞こえてくるわけだよ。
メニューは色々。
この日のために先生達が獲って来てくれた最高級のお肉とか、お魚とか、ござる丸達マンドラゴラ村の住人が育てた珍しい野菜やキノコなんかも。
バーベキューっていっても串に刺して焼くだけじゃなく、鉄板焼きみたいなのだってあれば、今や菊乃井名物となったタコ焼きっぽいのだってある。
中でも一番人気はリュウモドキのもも肉のロティ。牛だったらローストビーフって呼ばれるやつ。
肉汁で作ったソースも最高だし、付け合わせのマッシュポテトも滑らか。
「こ、こんなの食べていいんですか……?」
「いいに決まってるじゃん。希望の配達人パーティーだって討伐したやつなんだから」
「もう、ナイフ入れようとした瞬間から何か違うのが解るんだけど!?」
「一生食えないような高級品……!」
「頑張ればまた食えるんじゃね?」
リュウモドキのロティを前に挙動不審になりかけてる希望の配達人パーティーに、奏くんとラシードさんが軽く声をかける。
ガクブルしながらお肉を口に運んで、三人とも声にならない悲鳴を挙げつつジタバタ。
解るよ~。美味しいとなんかジタバタするの。
かと思うと、私の近くのテーブルではバーバリアンの三人がスフレオムレツや出汁蒸し卵……茶碗蒸しに舌鼓を打っていて。
「ちょいちょい御馳走になってるけど、やっぱり本家の料理よねぇ」
「そうだな。菊乃井家伝来のレシピという触れ込みでやってる店もあるが、雲泥の差だな」
「菊乃井領で食べるやつはまだ近いけど、他所の領のはやっぱりなんか違うんだよなぁ」
しみじみという声に「そんなに?」と聞けば、三人が私の方を見る。
それから三人とも顔を見合わせて教えてくれた。
「開示されてるレシピを元にしてるらしいんだけど、ホントなんか違うのよ」
「ああ。菊乃井領で食べるのはここの料理長の味にまだ近いけどね。特にフィオレの宿屋はそうだな。忠実に味を再現してるよ」
「材料はかなり違うかもな。前に泊まったヴィラの女将から、野菜の買い付け頼まれたくらいだしよ」
「ははぁ」
まあ、野菜はかなり違うかもしれないな。
菊乃井ではもう農業に魔術を使うのは常識になってるし、時期になると農業魔術が使える魔術師は大活躍だ。
それに菊乃井家の奥庭が姫君様の御座所と思ってる植物たちが、菊乃井の大地で頑張ってくれるんだよね。お蔭で育ちが良い上に味もかなりいいそうな。
でもそれに甘えてもいられないから、土壌に関する研究や品種改良研究は進めていかないとね。
そういえばこのパーティーの料理、董子さんが研究を重ねている猩々酔わせの実を使ったお菓子も出されている。
董子さんとジュンタさんの共同研究の結果、猩々酔わせの実って収穫してすぐ表皮を炙ると、一日はそれ以上劣化しないことが分かったんだって。つまり一日なら新鮮なままで出荷出来るんだよ。
そうなると今まで楼蘭で止まってた流通が、そこから一日は輸送が可能ってことになる。それだけでも大発見なわけ。
だって転移陣を使えば帝都にも出荷出来るってことだもん。これに菊乃井航空便の輸送力を合わせれば……。
まあ、そこまで言っちゃうと取らぬ狸のなんとやらだけどね。
きゃいきゃいと黄色い歓声が上がる。
賑やかなテーブルを見ると、料理長が鉄板を使ってクレープを焼いているのが見えた。アンナさんとカイくんが、皮が焼けたそばからデコレーションして、歌劇団のお嬢さん達に渡してあげてる。
パインやバナナなんかもこの世界にはあるし、ちょっと前にはプラントハンターのアントニオさん経由で、彼の知り合いからマンゴーっぽい果物も送られてきたんだよね。勿論美味しくいただけたので、この日のために沢山購入しましたとも。
この果物もちょっと訳あり。
やっぱり足が速くて、沢山収穫できても販路がそれほどないので売れないんだってさ。なので薄利多売になってもいいから売れるなら売りたいって感じだったのを、多少色を付けて引き取らせてもらった。
マジックバッグが手軽に使える物であれば、これも問題はすぐに解決するんだ。そうじゃないから、うちみたいに流通に独自性があるところなんかに頼らざるを得なくなっちゃうんだよね。とりまこの果物は、皇子殿下方に食べさせよう。いや、ゾフィー嬢かも。
和嬢のところにはレグルスくんが「おくっていい?」って言ったから、もうプレゼントしましたとも。
絵日記に「おいしくいただきました」って、可愛い絵と一緒に書いてくれたんだよね。艶子夫人や美奈子先生やエマさんからもお礼状が届いたし、アーディラさんからは雪樹の織物が届いた。
そんなことをつらつら考えていると、ふいに「ところでよ」という言葉が聞こえて。
ジャヤンタさんがレグルスくんに話しかけているところだったみたい。
「ジーク達も帝都の方の武闘会に出るんだってよ」
「そうなの?」
きょとん。
レグルスくんがぱちくりと瞬きを繰り返しつつ、首を傾げる。
それにジャヤンタさんが頷いた。
「おう。オレんとこに手紙が来てな。希望の配達人パーティーが出るつもりなら、出るってよ」
「ジャヤンタはおへんじした?」
「ん? 希望の配達人パーティーが出ることは教えたぜ?」
「そっか。じゃあ、どっちもさいごまでのこるようにおうえんしとくね」
「そうだな。またアイツらがぶつかったら、面白くなりそうだもんな!」
耳をそばだてて聞いてたのは私だけじゃないようで、すすっとロマノフ先生が傍にやって来た。
「面白くなりそうじゃないですか」
「とりあえず、私の目的は果たせそうですね」
だって私、目玉を作ってくれって遠回しに言われたようなもんだし。
菊乃井冒険者頂上決戦での因縁ある対決が、帝都でも繰り広げられたらそれはそれで盛り上がりそうだしね。
去年の旧火神教団とルマーニュ王国王都の冒険者ギルドの企みを暴く一戦や、一昨年のエストレージャの復讐戦とは違って、希望の配達人パーティーとジークさん達ウォークライの戦いはギスギスしたものじゃないだけに、どっちが勝っても爽やかに終われそうだ。お祭りなんだし、そういうのもいいじゃんね。
テーブルが近くだったからか、希望の配達人パーティーの皆もジークさん達が出場してくることが聞こえたんだろう。表情を凛と切り替えた。
「あたし達、勝ちます!」
「うん。おいら達、希望をこれからの皆に届けてみせます!」
「見ててください!」
「期待してますよ」
三人とも決意を秘めた目をしている。
希望を菊乃井で見つけた人達が、次の誰かのために道を拓いていく。この流れが続くように、私も出来ることをしないとな。
差し当たり、お金を稼ごう。
世知辛いし生臭いし泥臭いけど、私に出来ることってこれくらいなんだよねー……。
そのために、いい加減腹を括ろうか。何度括っても都度括りなおさなきゃいけない現状のために。
静かに、そして遠くまで届く声を出すために喉を開く。
「料理長、帝都で食事会を開きます。お招きするのは当代一流の芸術家、或いは文化人の皆様です。最高の料理でもてなして差し上げましょう」
「は!」
「ヴィクトルさん、私を書きたい、もしくは描きたいという方々。全てご招待ください」
「分かった、任せてよ」
料理長がすっと胸に手を当て、私を見る。ヴィクトルさんも何処か普段とは違う、不敵な笑みを唇に帯びていた。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




