ロマン魔術の正体見たり枯れ尾花
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、6/13です。
もうそろそろ、私、神様方に叱られるんじゃないかな……。
忘れてるっていうか、自然にお客さんとか差し入れに使っちゃうんだよね。
だってやっぱり蜜柑もお水も美味しいんだ。
折角訪ねて来てくれた人とか、頑張ってる人達には美味しいものを食べさせてあげたい。
料理長もそういう感じだから、ここぞというときは腕によりをかけて美味しいご飯やお菓子を準備してくれるんだ。
料理長、悪くない。美味しいからって、その辺がすっぽ抜ける私が全部悪いんだ……。
ぐぬぐぬしていると、奏くんがぽんっと肩を叩いて来る。
「いいんじゃね? だって蜜柑もお水も、結局は努力しないと何ともなんないって話じゃん」
「そうだけど……そうだけど……!」
「おれもさ、一回イゴール様に聞いたことがあるんだよ」
「そうなの?」
「おう」
奏くんはちょっと思うところがあって、イゴール様にお尋ねしに行ったことがあるらしい。
その思うところっていうのは、紡くんのこと。
ある日、紡くんがそれまで弾けなかったティアマト……ロスマリウス様の古龍の髭で作ったスリングを弾けるようになった。
前日までビクともしなかったスリングが弾けたのだから、奏くん的にはなんか色々引っかかったそうで。
町の合同神殿に行って、いつもの如く「イゴール様! 教えてー!」とやったとか。
その答えが「紡に焼き蜜柑を食べさせたろ? アレはそういうヤツなんだよ。でもスリングが弾けたのは、紡が毎日欠かさず練習したからだ。そうでないなら蜜柑を食べたところでどうにもならない」っていう。
つまり変若水にしても蜜柑にしても、素質を開花させる切っ掛けにはなっても、自ら研鑽を積まなければやがて効果は消え失せるものなんだ、と。
まして丸一個食べたならともかく、一口、二口くらいで信じられないほど強くなることはない。下地に研鑽があって大きな効果を生むものなのだ。
因みに紡くんは焼き蜜柑をご両親や奏くんと食べたから、蜜柑の四分の一くらいしか実質は食べてないらしい。
「だいたい神様って若様が旨いと思ったら、人に分けてやるタイプなの知ってるじゃん。それで取り上げられないんだったら、その使い方で間違ってねぇんだよ」
「そ、そうかなぁ」
「そうだよ」
そうなんだろうか。
というか、研鑽が能力開花の第一条件だったら、希望の配達人パーティーと武神山派の人達は、恐らくその条件を満たしている。
いうていきなり強くなることもないってことだし、武闘会まで間もないんだからこれはこれで良しとしよう。
それ以外のことに関しては、姫君様や氷輪様にご相談申し上げようか。
ちょっと棚上げだ。
幸いなことに、私の動揺とかお水や蜜柑の件は、色々察したロマノフ先生が防音結界を張ってくれたので、他の人達には聞こえていない様子。
寧ろ希望の配達人パーティーなんて「これから自分達をどうしごくか相談してる」と、ちょっと怯えてたらしい。
これはレグルスくんから聞いた話だ。
差し入れのおにぎりと具だくさんのお鍋と蜜柑のパウンドケーキを全員が食べ終わったころ。
「じゃ、今から始めよっか」
奏くんの言葉に、元気よくレグルスくんや紡くんが「はーい」と返事する。
まずは必殺技というか手数のことだけど。
ラシードさんが足に付けたポーチから、ナイフを六本取り出した。
「あれをエリーゼさんから教わって来たんだ」
アレ。
そう言われても、希望の配達人パーティーはピンとこないようで。
識さんが若干苦笑いを浮かべた。
「ナイフの魔封じか……。アレも見たことないと対処のしようがない珍しい技だよね」
菊乃井の武闘会でエストレージャのマキューシオさんが使った技で、アレは正確にはエリーゼの持つ技なのだ。それをラシードさんが教わって、希望の配達人パーティーに伝授するという。
でもそれだけじゃなく、これを破る方法も同時にシェリーさんに教えるそうだ。
一度人前でやって見せたら、それは再現できるもの。誰でもが使えると考えて、対処法を持っておいた方がいい。そういうことだ。
レグルスくんとノエくんも、彼らが使う鎌鼬のような剣圧を相手に飛ばす技を教えるとか。
剣を構えている人間から飛び道具のような攻撃が飛んでくるとは思うまい。そういうやつ。
そして私と識さんとで、シェリーさんへ破壊の星と天与の大盾を伝授する。
紡くんはラシードさんの助手として、魔封じの方のお手伝い。
そしてロマノフ先生が何をするかというと、私達が修行場を借りている間、人工迷宮で武神山派の人達と鬼ごっこだそうな。皆、強く生きてね。
というわけで、三方に別れる。
シェリーさんの顔がちょっと固い。
「本当に、あたしに破壊の星と天与の大盾が使えるんでしょうか……」
「勿論。前も説明したように原理さえ判れば簡単ですし」
「天与の大盾の方もそう難しくはないかなぁ。ただ対人では本当に使いにくいだけで」
百聞は一見にしかず。
やって見せようという話になって。
シェリーさんを前に、識さんがエラトマを取り出す。
彼女の武器の来歴をシェリーさんも聞いているのか、その表情は凄く複雑そうだ。
そんなシェリーさんに識さんがエラトマを振り回しつつ、「見ててねー」と声をかけた。
「どっこいしょ」
呪文詠唱じゃなく、エラトマでとんと地面を突く。それだけのことで亀の甲羅を透明にしたような障壁が、識さんを囲むように組み上がって。
「できました~」
「はいはい」
見た感じ、分厚いガラス板の甲羅。
シェリーさんと近寄って、そのガラスのような障壁を叩いてみると軽い音がした。
「ようは障壁を魔術で思いきりぶ厚く作っただけですよ」
「本当だ……」
そう天与の大盾っていうのは、障壁を信じられないくらいぶ厚く広範囲に作るだけのものなのだ。
そしてこれで対応しようとしたドラゴンやキングベヒーモスは、魔力の籠ったブレスが得意ではあっても、物理攻撃となれば体当たりや尻尾をぶつけるとか殴る蹴るが主。【貫通】で一点突破されることを考えていない作りなのだ。
これが遺失魔術になったのは、結局戦いが対ドラゴン・対キングベヒーモスから対人にシフトしていって、ぶ厚いだけの障壁なんかお呼びじゃなくなったからだろう。上級の付与魔術師がいれば、【貫通】がカタパルトやバリスタにも付与できるから攻城戦にも使いにくいし。
そんな説明をすると、シェリーさんが「ん?」と首を傾げた。
「え? じゃあ、破壊の星もそういう……?」
「ええ、そうですね。レクス・ソムニウムが変わった使い方をしていたから有名なだけで、そもそもそんな使い勝手の良いものじゃないんですよ」
「変わったって、どういう……?」
首を捻るシェリーさんに「じゃあ、やってみましょうか」と声をかけて離れてもらう。
それで識さんにも声をかけると「準備出来てます!」と返って来た。
さてやろうか。
仰々しくいつも腰に巻いてる夢幻の王をロッドに変えて、きゅっと握る。
「はい、どーん!」
こつっとロッドを識さんに向けて振り下ろす。それから五数えるうちに、空から子どもの頭サイズの氷塊が炎を纏って落ちて来た。
そしてドンッと天与の大盾に当たって、めり込んでとまる。
「……え?」
シェリーさんにしても識さんにしても、目が点だ。
「これだけですよ」
「へ?」
「これだけ。本来の破壊の星ってこれだけなんですよ」
「や、え? レクスは流星を降らせたって」
「はい。だからレクスが連続で星を降らせたから、破壊の星=流星雨っていうイメージになってるだけです。本来の破壊の星はこう」
「えー……」
パチパチと四つの目が瞬く。
魔力をもっと込めれば降って来る石はもっと大きく出来るし、降って来るものが大きければそれだけ効果範囲は大きくなる。城や巨大モンスターには効果的だろう。
反面、降って来るものを大きくすればそれだけ落ちて来るのに時間がかかるし、詠唱にも時間がかかって仕方ない。その間に対人であれば討たれる。
その弱点もレクスのような使い方が出来れば克服も出来るだろうけど、そうじゃないから廃れたのだ。
「結局ロマン魔術なんですよねー……」
でも、誰も真実を知らないからこそ使える物でもある。
にっと笑えば、シェリーさんが頷いた。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




