二択は大概どっちもろくでもない
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次回の更新は、5/26です。
まずは帝都の記念祭での公演を成功させて、そのときに付けていたアクセサリーと同じタイプのものを売り込む。
そういう話だから。帝都での公演の大成功は必須だ。
それに関してはユウリさんやエリックさんも交えて話そう。そういうことに。
次の話題はといえば、当然先生方が買ったリュウモドキの骨のことだ。
「それで引き受けてもらえたの?」
「ええ。赤ん坊の品は作ったことがないそうで、快く引き受けてもらえましたよ」
持って行った先はなんとモトおじいさんのところだったそうで。
「え? そうなんですか?」
「はい。奏くんにも手伝ってもらいたいそうなんで、早晩何処に依頼したか分かってしまいますからね。隠す意味はないかな、と」
「それはそうですね」
なるほど、モトおじいさんは武器も作るけど日用品系も作る人。
興味があるものが依頼されたら、そっちを優先しちゃうって言ってた。
今回も何処かのお家に依頼されたものを嫌々やってた途中で、先生がリュウモドキの骨で赤さんの用品をと持って行ったので、そっちを優先するってなったんだって。
先に依頼してた人には申し訳ないけど、職人とはそういうもので、それを承知でないと依頼を受けないってモトおじいさんはお客さんに告知してるそうだから大丈夫……かな?
ゆりかごや乳母車、ベッド、他何か思いついたら作ってくれるそうだ。
モトおじいさんの作った茶碗を何でも市で買ったけど、あれもいい物。きっと素敵な物が出来上がるだろう。
「よかったね、ロッテンマイヤーさん!」
ひよこちゃんが振り返って、後に控えていたロッテンマイヤーさんに声をかける。
つられて私も後ろのロッテンマイヤーさんを振り返ったんだけど、なんだろう。ふと、違和感が。
少しだけ顔色が悪い、ような?
気になったので、声をかける。
「ロッテンマイヤーさん、体調どう?」
「……はい。今は吐き気も治まって、穏やかに過ごせております」
答えに嘘はない、と思う。でも僅かに声が暗かったような?
確信はないけど、何かおかしい。
気になって声をかけようとしたんだけど、料理長から声がかかった。
なんでも新作の料理が今から出て来るそうな。
しかも猩々酔わせの実を使ったやつ。
それにわっと沸き立っているうちに、ロッテンマイヤーさんが給仕のために動き出して。
拭い去れない違和感はそのまま。でもロッテンマイヤーさんの動きはいつも通り。
なんなんだろうな、これは。
機敏に動く彼女の姿に言い表せない違和感を覚えたまま、私はそれを言い出せないでいた。
そんなモヤモヤを抱えたまま、翌日の皇子殿下方との定例会議。
件の運河の話がどういうことか解ったらしい。
『シュタウなんとか家の取り巻きだった家からの提案らしい』
「私を自分達の都合の良いように使いたい、と?」
『いや、少し違うらしい』
画面の向こうの統理殿下とシオン殿下の眉間にシワが寄っている。
シュタなんとか家って出仕停止だから、代りに取り巻きの家を動かしているのかと思ったらそうでもないらしい。
皇子殿下方の仰るには、宮廷の勢力図もちょっとずつ変わってきているとか。
『シュタなんとか家と距離を置きたがってる家が増えている』
「あー……次男坊さんの独立の件で?」
『ああ。竹林院が復活しても、その後見はシュタなんとか家じゃなく獅子王家だからな』
「なるほど。獅子王家の方が同じ公爵家でも格上の存在になる、と」
運河の件は、そのシュタなんとか家と距離を置きたがっている家からの内密の提案だったそうで。
『菊乃井侯爵も物流・移送の手段が増えて、益々栄えるのだから……とな』
帝都からの運河は、その家の領地も通るそうだ。
こちらも儲かるけど、菊乃井だって儲かる。いい関係を結べるはずだし、ついてはその辺りの魔物を退治するのを菊乃井家で請け負ってもらえれば……そういうことみたい。
じゃあ、お前の家はどういう貢献をしてくれるんだ? お?
眉間にシワ寄せてそう詰めてやりたいとこだけど、それは。
皇子殿下方が苦笑いしつつ首を横に振った。
『あちらからは「菊乃井家が工事によって負う費用負担を、三割ほど肩代わりする」という提案がでた』
「お断りします」
『解ってるよ。そもそも運河の工事を再開したいのは国とその家であって、菊乃井家じゃない。だって菊乃井家は物流に困ってない』
それはそう。
隣のロートリンゲン領と行き来する街道は、お国が入ったお陰で整備が進んで、かなり使いやすくなった。急ぎであれば冒険者ギルドの速達があるし、何より菊乃井には航空便があるんだよ。
なんと冒険者パーティー菊乃井万事屋春夏冬中って、マジで万事屋やることにしたらしい。
彼らが組んで砦の武闘会に出たのって、宣伝だったわけだよ。
識さんもノエくんも飛べるし、ラシードさんの所の雪樹の一族には空を飛ぶ魔物を従える人もいる。
今は菊乃井の中だけだけど、そのうち規模を大きくしていく気でいるそうだ。
昨夜のデザートに使われた猩々酔わせの実も、試しに菊乃井万事屋春夏冬中に料理長が取り寄せ依頼を出して、ジュンタさんから買い付けて来てもらった分で。
そんな話をすると皇子殿下方が大きくため息を吐いた。
『運河に魅力を感じないはずだよなぁ』
『ですよねー……』
「いや、まあ、あれば輸送手段が増えますから、あるに越したことないですけど……」
魔物退治させられた挙句、お金の負担までとか嫌すぎる。
大体この運河自体、菊乃井の働きに対する褒美だろ? それで負担とか嫌なんですけど。
顔にそういうことが書いてあったのか、統理殿下が苦笑いを浮かべる。
『菊乃井への負担はゼロ、これは基本だ。ただでさえ菊乃井には疫病対策や色んな方面で、研究や開発の場として機能してもらっているからな』
『どうしても手に負えない魔物が出たときはちょっと頼らせてもらうかもしれないけど』
シオン殿下の言葉に、ふと考える。
うち、お金は欲しいんだよな。
万年お金は欲しいけど、つい最近もっと稼がなきゃって思ったんだ。
ほんの少し考えてから、私は口を開いた。
「その何とかっていうお家、魔物退治にいくらまで報酬を支払えます?」
『え?』
『やるのか?』
皇子殿下方の目が点だ。
鳩が豆鉄砲を食ったようってこういう表情なんだろうな。
でも構わずに話を続ける。
「退治した魔物はどこの領地で倒した物であっても、全て菊乃井の物。川底を浚って出た物も全て菊乃井の物。そしてやり方に文句は言わない。これで幾らまで出せます? その金額によってはやってもいいですよ」
『国としては費用は全てこっち持ちでやるつもりだったから、別に構わないが……?』
『そうですね。菊乃井へ魔物退治の報酬を、国でなくその家が出すというのであれば痛みは然程ない……かな?』
『ただ川を浚って出た物に関しては報告がほしいな』
「それは勿論」
にこっと笑うと、二人の皇子殿下が訝し気な顔をする。
さて、ここで私のターン。カードを開示だ。
「さてここで、ご報告が二つあります。悪い報告と良い報告、どっちから聞きたいですか?」
凄く爽やかな笑顔を浮かべてるはずなんだけど、皇子殿下方の顔は何だか引き攣っている。
シオン殿下が口元を引き攣らせて、『どっちも聞かないとか、あり?』なんて。
「いやー、聞いておいた方がいいと思いますよー。特に悪い方」
告げて、話し始めたのはラナーさんから聞いた運河に過去沈んでいた良くない物の話だ。
その良くない骨を誰かが持ち去ったこと、そして私の【千里眼】がそれに緩くはあるけど反応していること。
聞いている間に皇子殿下方の肩がガクッと落ちた。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




