流れに任せるのと作るのと
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次回の更新は、5/23です。
「腐敗してアンデッドになりかけてたドラゴンの、燃え残った骨かぁ」
「たしかにアルスターから帝都に続く川のどれかに、何か良くない物がいるようだと言う話はありましたが」
「その辺りのモンスターは、ボク達にとってはあまり苦戦するような敵でもないからね」
ヴィクトルさんの言葉にロマノフ先生が首を傾げ、ラーラさんが肩をすくめる。
お三方のリアクションを見ていると、何かあるのは知っていたけど、そもそもお三方にとっては脅威でも何でもないから、興味なかったって感じかな?
ラナーさんから火急でもたらされた情報を、夕飯の席で出す。
今日、先生方皆夕方までお留守だったんだよね。
ヴィクトルさんは歌劇団のレッスン、ロマノフ先生はリュウモドキの骨を工房に運び詳細に家具を注文したそうで、ラーラさんはナジェズダさんのお買い物のお供をしていたらしい。
このところ、私の【千里眼】が変に騒めく。
でも明確に「災難到来」っていうアラートを出して来たのは、このややこしい骨の件だけで。
正体不明の騒めきに悩むよりも、まず判るものから片付けるのがいいだろう。
そういうことで先生達にお話したわけだけど、ここで大根先生がすっと手を挙げた。
「その骨かどうかは分からんが、アルスターだったか? その辺りで人間が川から何か引き上げたというのを聞いたことがある」
「そうなんですか?」
「うん。今だと民話や地方の昔話レベルにしか残っていないかも知れないが」
そんな前置きで始まったのは、帝国成立以前。
旧世界の宗主国だったルマーニュ王国と帝国が激しく戦いを繰り広げていた頃まで遡る。
何でも負けが込んでいたルマーニュ王国は、帝国への逆襲を企図して何かを何処かの川から引き上げたそうで。
「その何かが何であるかは謎だが、引き上げた荷は巨大だったらしい。しかも呪われでもいたのか、運び手全員がルマーニュ王国に着くまでにアンデッドと化してしまったとか」
「うわぁ、それは当りなのでは……?」
「いや、だがルマーニュ王国は今も健在だろう? そのような呪いの籠ったものを運び入れたら、国全体がアンデッドと化してもおかしくはないのに」
「ああ、言われてみれば」
そうだな。そんな危険な代物、国に入れたら国が終わる。
でもそういうことがない。
オマケにそんな話があれば、運河の計画が再開されるかもって時点でソーニャさんが何か教えてくれそうだし。
となると、単なる噂レベルなんだろうか。
でも人が持ち去ったっていうのが気になる。これは恐らく、その部分は正しいんだ。だってラナーさんと話したときも、人でさえなきゃと思う反面、人だなって確信があったわけだし。
嫌すぎる。
大きくため息を吐くと、ひよこちゃんが心配そうにこっちを見てるのに気が付いた。
「たいへんなことになりそう?」
「うーん、今の段階ではちょっと分からないかな。情報が少ないし、モンスター退治を任されるかも分からないし」
「そっか。なにがきても、おれはあにうえのみかただからね!」
ぐっと握り拳を固めてふんすっと胸をはるひよこちゃん。頼もしい、素晴らしい。団扇振っちゃうね。
危機察知のアラートは、まだ警戒段階で臨戦態勢に無い。きっとまだ危機は遠くにあるんだろう。
若干沈んだ気持ちを振り払うように、ラナーさんとしたもう一つの会話の話を出す。
つまり、憧れの大羽根。
けど、これに関してはヴィクトルさんが解りやすく膨れた。なんでよ……?
「僕だって迦陵頻伽やセイレーンに伝手くらいあるけど?」
「え? あるんですか!?」
「あるよー! だってあーたんのお正月の衣装に真珠みたいなの使ったでしょ? あれ、僕が迦陵頻伽からもらったものなんだけど!」
ごふっと咽る。
迦陵頻伽っていうのは聖獣というか聖鳥というか、セイレーンと同じく人の顔に鳥の身体っていう存在で音楽を好む。
セイレーンとの違いは、彼らは神様の末裔だってこと。
彼等の耳を楽しませることが出来るのは、当代随一の音楽家だけって言われてる。
ヴィクトルさんは菊乃井に住んでるけど、宮廷音楽家だから伝手があってもおかしくない……のか?
因みに真珠みたいなものと迦陵頻伽がどう結びつくかというと、迦陵頻伽が音楽や芸術に感動したときに流す涙は真珠のように固まる。それは人界では高価な宝石として取引されてるんだよ。滅茶苦茶お高い。
そしてあの衣装にはその宝石がふんだんに使われてるわけで。
なんで私が咽たかなんて、お察しだ。材料の額面を確認するのが怖すぎる。
先生達の好意に甘えて材料をいただいてしまったけど、それが何でどのくらい使われているのか、確認するともっと怖いことになりそうで出来ない。
内心で白目を剥いていると、ロマノフ先生が助け舟を出してくれた。
「ユウリ君に聞かれたときに、言えば良かったじゃないですか?」
「だって衣装に使うしか聞いてなかったんだもん! それにユウリは衣装のデザインとかは、大体僕じゃなくて旭さんかお針子さん達としてるし」
なるほど、行き違いがあったわけだ。
大羽根を作るにはお針子さんや旭さんの協力が必要だもんね。
でも、と、ふと疑問が過る。
「最近私、歌劇団のお嬢さん達のアクセサリー作り頼まれませんけど。あれ、どうなってるんでしょう?」
こてっと首を傾げると、レグルスくんもこてりと首を傾げる。
するとラーラさんが「ああ」と口を開いた。
「小道具さんにアクセサリー作りの上手な子が孤児院から入ってくれてね。その子達がガラス玉や真珠百合の実を使って作ってくれてるんだよ。かなり上手でね。単なるガラス玉で作ったとは思えないほどの出来だよ」
「へぇ……」
と、頷きかけて脳裏に「コスチュームジュエリー」という言葉が浮かぶ。
舞台衣装に合わせて作られた、ダイヤモンドやサファイヤ、ルビーや真珠、エメラルドのような宝石や金やプラチナみたいな貴金属を使わない。でも宝石に勝るとも劣らない美しさを持つ宝飾品のことだ。
宝石や貴金属を使わなくたって、決して粗雑ではない。デザイン性に富んだ、それでいて素材の自由度が高い、腕のいい職人に特別に作られたものだ。
これは、イケるんじゃないだろうか?
なにもアクセサリーは高ければいいというものじゃない。宝石だって付けていればいいというものでもないだろう。
気軽に楽しめる、それでいて身に付ける楽しさを求められるアクセサリーがあったっていいじゃないか。
思いついたことを思いついたままに話すと、ロマノフ先生と大根先生は「いいのでは?」という感じ。この二人、こういうのにあんまり興味なさげ。
ヴィクトルさんはやや首を捻った。
「宝石って富や栄誉の証みたいなところがあるからね。偽物を身に付けるというのは、どうなんだろう?」
「でもヴィーチャ。その本物を盗まれないように警戒して、ダンスの一つも出来ないし、気軽に友人とお茶に出かけられないっていうのも、本末転倒じゃないかい?」
ラーラさんは「お洒落の手段が増えるのは良いことだよ」って。
なら、もう一押し。
「例えばですけど、菊乃井歌劇団で主役が身に付けたものと同じデザインのコスチュームアクセサリーを売りに出すというのは?」
「あー……バーバリアンやエストレージャの服みたいにするわけだ?」
「ええ。丁度帝都に歌劇団を御贔屓にしてくださる、頼りになる女性の皆さんがおられますし」
あとはもう少し付加価値が必要だろうか?
コスチュームジュエリーを作る職人に、彼ら専用の名称を作り、菊乃井で認定試験を受けなければ、その名称を名乗ることが許されないとかの。
口角を上げると、エルフ三先生と大根先生が面白そうな表情になった。
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