あたって欲しくない予想は当たるっていう予測が出来てる
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次回の更新は、5/19です。
ひくっと顔が引き攣る。
そんな私の様子に気付いた様子もなく、ラナーさんがおずおずと口を開いた。
「いやぁ、実は大昔うちのオカンが運河に使うかもいう川にえらいもん沈めてなぁ」
「はあ、ラナーさんのお母様が」
「せやねん」
ため息交じりのラナーさんの話を聞く。
なんでもラナーさんのお母様はラナーさんと同じく名付きのドラゴンだったそうで。
その当時の怖がられぶりときたら、彼の天与の大盾の逸話に出て来るヴリトラという暴風を呼ぶドラゴンに勝るとも劣らないほどだったとか。
「え? ラナーさんのお母様、めっちゃお強いのでは?」
「うん? うん、多分。でもこっちでは大して有名ちゃうと思うわ。海の向こうがオカンの縄張りやったし」
「へぇ」
話は続く。
そのお母様があるとき、珍しく遠出して帰って来たと思ったら、ラナーさんの独り立ちのための縄張りを見つくろってきたという。
ドラゴンって巣立ちの時に、これぞと思った縄張りを見つけて出ていくものらしい。けれど親から縄張りを宛がわれることもあるそうで、ラナーさんはそういう感じでお母様から縄張りを宛がわれたものだと思ったら。
「散歩してたら同族のややこしそうなんに喧嘩売られてんて」
「えー……あー……」
「なにがややこしかったって、アンデッド化の最中みたいで半分腐ってたらしいんやけど。腐臭は凄いわ、瘴気は撒き散らすわ、狂化してるからかブレスで焼こうが雷の魔術で撃とうが動き続けてたんやて。近くにおった大司祭はんが手伝ってくれて、ようやく倒したらしいわ」
なんだそれは。
聞くだにろくでもないものだって分かる。
だって大概のアンデッドって燃やせば燃えるんだよ。そして大司教さんがいたってことは、神聖魔術も使われているだろう。それでも名付きのドラゴンの攻撃に耐えるって尋常じゃない。
つか、そのややこしいのも名付きの可能性がある。
だけどもっとややこしいのはここからだった。
そのアンデッド化しつつあったドラゴンを、何とか行動不能にしたまでは良かったんだけど、残った骨が燃えなかったんだそうな。
大司祭さんの清めの炎をもってしても燃え残る骨。それは瘴気に腐臭に怨嗟がむんむんしてる、マジでヤバい物で。
「そんな危ないもん、そこらに置いとかれへんやん? そやからその大司祭さんに手伝ってもろて、川にドボンしたんやけど。その川が……」
「Oh……」
話している最中にオブライエンが何処からか運んできた椅子と机に、エリーゼがお茶やお菓子を出してきてくれた。
紅茶のカップを爪で器用に持ち上げて、ラナーさんが一息吐いてお茶を飲み干す。
私も乾いた喉をお茶で潤すと、お話再開。
ラナーさんのお母様は、そのヤバい骨を沈めたあとで、骨の持ち主の縄張りが当時の天領あたりだと気が付いたそうな。
奇しくも主を倒したことで、その縄張りを分捕ってしまった。
ついでに川に沈めたとはいえ、腐臭や瘴気、怨嗟がなくなったわけじゃない。放っておくのも、ちょっとどうなのか。
そこでラナーさんのお母様は閃いた。
独り立ちする娘に「この縄張りとあのよく分からん骨、任せてしまえばいいじゃない!」と。
「え、えー……」
「引くやろ?」
「正直、ちょっと」
「せやんな」
うんうんと首を上下させるラナーさんに、思わず労りの視線を向ける。
そしてラナーさんも当時を思い出してか、遠い目だ。
無茶ぶりが酷い。
ラナーさんは憤った。
それでラナーさんはお母上様と親子喧嘩を繰り広げたそうな。ざっと百年くらい。
人間にしたらかなりの年数だけど、ドラゴンにとっては一週間くらいなものだそうで。結局親子喧嘩に負けて、ラナーさんはこの地に巣立ってきたのだそうな。
でも。
「骨が、なかった?」
「うん。川底までちゃんと探したんよ? そやけど、なかった。もしかしたらスケルトン系のアンデッドとして蘇ったんか思ったけど、そんなんがウロウロしてたら流石に噂の一つも聞くやろし、なにより周辺に死体の山が出来てるはずや。でもそれものうて」
とすれば考えられるのは……。
いや、この推測はちょっと嫌だわ。
因みにその頃に帝国が出来たそうで、運河が出来なかったのは現物がなかったとしても、瘴気だの怨嗟だのを纏う骨が沈んでいた影響で、そこら周辺に棲むモンスター達が狂暴化・強化されてしまって手を付けあぐねたからだろうとは、ラナーさん談。
最近になって計画を進めようという話になったのは、計画地あたりのモンスターなら私一人でも焼き払えるだろうという声が大きくなってきたからだとか。
こっちはラナーさん的には、骨の影響が薄まって、モンスターが弱くなってきたからじゃないか、と。
めんどくせー。
この話はラナーさんが梅渓宰相の奥方様と歴史の話をしていて、ラナーさんがこっちの大陸にきた経緯になったから。
そこで「その辺りって今、再開発の話が出てて~」という話題になり、色々話した上で「えらいこっちゃ」と思って飛んできてくださって、今ここ。
「あの骨の管理任されたんはうちやし、周辺のモンスターはうちが責任もって焼き払ってもええよ。縄張りに要らんもんがあったら対処するんは、当然の話やしな」
「はあ、でも、皇子殿下方が今確認くださってますので。もしかすると、冒険者達に発注という話になるかも……」
「ああ、仕事として?」
「はい。公共工事の一環として、景気対策にもなりますしね」
冒険者にお金が入れば、彼らの衣食住を賄う人々にお金が落ちる。
景気ってのはそうやって回していくものだから、あまり先取してもよろしくない。
お茶を飲みつつ話すには難解なことだけど、ラナーさんはこういう話がお好きなようで面白そうな雰囲気が漂っている。
「なるほどなぁ。ほな、鳳蝶はんとこにお鉢が回ってきたらうちに言うて? 手伝うさかい」
「ありがとうございます。その骨の所在も気になりますしね」
「うん。あんなもん咥えて持ってく鳥もおらんやろうし、人間やないとええね」
「そうですね。人間だと目も当てられないことになりそうな気がします」
紅茶を飲み干せば、音もなく近づいて来たオブライエンがお代わりを注ぐ。勿論ラナーさんのカップにも。
鳥じゃなきゃ獣とか魚でもいい。人間でさえなきゃ、まあ、うん。
自然界に置いておくより、人間の近くにいる方が恨み辛みとかの負の思念が集まりやすい。そうなるとアンデッド化する要素を持った物には、絶対によろしくないことしか起こらないんだよ。
そんなことを遠い目をしつつ考えて、ふと。
「ラナーさん、その骨を咥えられるくらいの大きな鳥ってどんな感じです?」
「えー? えぇっと、色々おるよ? 羽根の綺麗なんもおれば、小さい癖に力持ちとかもおるし」
ほうほう、その鳥の羽根が使えるかも知れないな。
ラナーさんは菊乃井歌劇団のファンのようだし、ちょっとお漏らししても大丈夫だろう。
思いついてラナーさんに背中に背負う大羽根と、それを作る材料の話をしてみた。
すると彼女の目がキラキラと輝く。
「えー、凄いやん! うちも、そういうの見てみたいわぁ!」
「ですよね! それでどんな羽根がいいのかと、今思案中で」
「そうなんや。羽根か……」
呟いて、ラナーさんが前脚をまたポンっと打った。
「うちの知り合いに声かけよか?」
「お知り合いですか?」
「うん。まあ、うちの知り合いやからモンスターやけど、綺麗な羽根やら融通してもらえるかしらん」
ウキウキとそんなことを言ってくださる。
「わぁ、助かります。私の出来る範囲でしたら、お礼もしたいと思いますので!」
「ああ、うん。そうやね、なんかと交換とかでもええか聞いてみるわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
指折り「あの子、いけるかな? あの人はどうやったかいな?」なんて数えてくれているあたり、ラナーさんの交友関係はかなり広いようだ。
「せやなぁ。フェニックスさんもいけるやろし、迦陵頻伽の一族にも声かけとくわ!」
おぅふ、凄い名前が出たぞ?
お読みいただいてありがとうございました。
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