掴めない違和感の訪れ
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次回の更新は、5/16です。
希望の配達人パーティーの育成計画の短期目標は、それぞれ切り札と思わせられるような技を持つことで決定。
長期目標は、相手の行動に制限をかけた上で自分達の望む方向に誘導できるようになることだ。
つまり二手、三手くらい先を読めるようにならないといけない。
難しいように思うだろう?
でも階位が中の上から上の下に至る冒険者はこれが出来る出来ないで差を分けるんだ。
やれるようになんないと、バーバリアンやエストレージャ、ウォークライと肩を並べるなんて、とてもとても。
これはもう経験を積むのが一番の近道だ。なのでレグルスくんや奏くん、紡くん、識さん、ノエくん、ラシードさんを相手に組み手を毎日やってもらう。場所は菊乃井のダンジョンじゃなく武神山派の管理する人工迷宮で、だ。
更に武神山派の人達にも、彼らの鍛錬に付き合ってもらう。逆にいえば、武神山派の人達にも希望の配達人パーティーと戦うことは、新たな武の頂に登るための刺激になるだろう。
声をかけた威龍さんは「こちらも魔術の深淵を覗く機会と心得ます」と言ってくれた。
これで彼らの修行についてのバックアップは一先ずいいとして。
それから数日後、帝都の記念祭に関して、宰相閣下から色々連絡が届いた。
今年も菊乃井歌劇団を目玉として招聘する旨と、帝都の記念武闘会への参加者が結構増えてる話とか。
なんでも帝都の記念武闘会で優勝したら、菊乃井での武闘会へのシード権がもらえるって噂が出てるらしい。
これの出元は解ってんだよ。
冒険者ギルドと宰相閣下から「そういう噂を流すから、知らぬ存ぜぬでいてね(意訳)」っていう手紙が来てるから。
冒険者ギルドなんかローランさんから直接手紙を手渡しされたし。厳めしい顔が更に厳めしくなってたけど、仕方ない。何事も仕込みは必要なんだ。
代りに来年のお祭りもお国から幾許か出資してもらえることになったしね。お金、大事。
日々色々やることや考えないといけないことが降り積もっていく。
そういえば、菊乃井のお祭り以降、魔力クラウドファンディングに参加してくれる人がグッと増えた。
獅子王閣下やロートリンゲン閣下経由で大きな貴族の家からも魔石が届いたし、庶民でも魔石に込められる程度に魔力がある人達からも魔石が届いている。
お礼品は菊乃井歌劇団の公演を収録した布が大変人気。その次が禍雀蜂の特級蜂蜜、その蜜ろうで作った保湿クリームなどなど。
中にはマンドラゴラを……っていう家もあったけど、生き物だから飼育環境を整えてくれって話をしたら、今度大根先生のところに勉強しに来たいっていうことになった。
それで飼育環境が整えばマンドラゴラを株分けするのも吝かじゃない。
そしてマンドラゴラといえば。
「リューネブルク侯爵領のマンドラゴラはどうなっています?」
「菊乃井から土を入れて持ってった鉢に植えたヤツは、順調に回復してるって。ゼフラ……リューネブルク侯爵領に行ってくれた娘の話だと、土に魔力が少ないのと、土自体に栄養が少ないのが行き倒れの原因じゃないかってさ」
「じゃあ必要なのは土壌改良かな?」
「うん。魔力の方は、魔術師が農業魔術で土を耕してくれたら何とかなると思うんだけど」
ラシードさんからリューネブルク侯爵領に派遣した一族の魔物使いからの報告を受ける。
アントニオさんからも状況の報告はもらってるんだけど、内容はやっぱり「土に問題あり」っていう話だった。
リューネブルク侯爵からも土壌改善に関して、協力をしてほしいって言う書簡が届いてるんだよね。
たださー、土の専門家がうちにはいないんだよ。
大根先生のお弟子さんにいそうではあるんだけどな。
そっちの方はラシードさんに大根先生へ伺ってもらうこととして。
帝都の記念祭に際して、整えないといけないものはまだある。
家格に見合った馬車とかそういうものだ。
去年は空飛ぶ城で帝都に乗りつけたし今年もそうするけど、去年と違って今年は侯爵だし去年はドサマギで挨拶回りとかしなかったけど、今年はそうもいかない。
少なくても帝都の梅渓家と獅子王家、ロートリンゲン家への挨拶回りはしないと。
基本的にロートリンゲン閣下も梅渓宰相閣下も獅子王閣下も、こちらが挨拶しに来る必要はないよって言ってくださってる。だって忙しいから。
でもそのお家の方々がいいって言っても、周りが煩いんだよ。特にこっちの足を引っ掛けたい奴らは。
そこで問題になるのが各お屋敷を訪れるための馬車とか。
うちの馬車、改修終わってない。あとお馬さんも、菊乃井から先生方が転移で運んでくださってたんだけど、最近颯とグラニに乗らないとあの二頭がしょげるんだよ。そしてそれをポニ子さんからこの間注意されたばっかりだ。
となると、颯とグラニの二頭引きの馬車にすべきか……。
でも、帝都で貴族の馬車っていうと大概四頭引きなわけで。
頭が痛い。
去年の園遊会で陞爵が決まったとき、身に余るって思ったけど、本当にこういうとこで余ってる。
ぶつくさと一人文句を言っていても仕方ない。
こういうときに私が相談できるのは、先生方かソーニャさんかロートリンゲン閣下くらいだ。
まずは先生方。
さて先生方は、今日スケジュールどうだったっけ?
脳裏に先生方のスケジュールを浮かべていると、にわかに何かが来た気配が。
といっても、本当に人がいる気がするとかじゃなく【千里眼】の騒めきだ。
ざわめきが大きくなるにつれて、執務室のドアの外側が何やら騒々しくなっていく。
人が廊下の外を行きかうような、何やら大きな声を出しているような。
様子を探っていると、足音もなく誰かがドアの外に立った。
ノックは三回。
誰何すればロッテンマイヤーさんの声が聞こえた。
『旦那様、お客様でございます』
「今日そんな予定なかったよね?」
うちには予定外の来客が多いからね。
そのうちの一番のお客様は神様だけど、それだったらこんな騒めくような予感はないはずだ。だとしたらなんだ?
首を捻っていると、ロッテンマイヤーさんがするっと入室してくる。
「それが……ラナー様でございます。とても焦っておられるご様子で」
「え? そうなの? 解った、すぐ行くよ」
「はい。中庭にてお待ちいただいております」
そりゃ中庭にお待たせするよりないわ。ラナーさんサイズの椅子やらソファーやらはないし、まず屋敷の中に入れるかどうか。
走ることはないんだけど、凄く早足で部屋を出て、廊下を渡り階段に差し掛かる。
この間ロッテンマイヤーさんが調子悪くなった時、階段の手すりを飛び越えたけど次の日しっかりラーラさんに注意されたんだよね。
今日はちゃんと早足で歩いて降りてるよ。
中庭に続く大きな扉を開けると、太陽に輝く鮮やかな緑の鱗。
私を見つけたラナーさんがにこっと笑った。
「こんにちは~。先ぶれも出さんと急に来てごめんやで?」
「いいえ、ようこそいらっしゃいました」
挨拶を交わすと和やかな雰囲気が流れる。けれど後ろ足に比べると短い前脚をポンと打ち合わせると、ラナーさんは焦った様子で「ちゃうねん!」と大きな声を出す。
「今日はどうなさったんですか?」
「いや、ちょっと、梅渓のお艶はんに、帝都からこの菊乃井に運河を通す計画があるって聞いたから」
「え? ええ、何かそういう話が出てますが……」
「ホンマなん?」
決定じゃないけど、そんな話が出てる。
それを肯定すれば、ラナーさんが眉間にしわを寄せて呻く。
その尋常じゃなさに「災難到来」の四文字が脳裏に浮かぶ。どころか、大爆走だ。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




