上げて落とすのは基本
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次回の更新は、5/12です。
ところがどっこい。
やる気になったところで、その「大羽根」を作れる職人さんがいないというか、作り方をまず研究しなくちゃいけないってことで。
現在、菊乃井歌劇団の服飾部と大道具・小道具部の人達が一丸になって開発を目指してくれているそうな。
ユウリさん的には魔術がある世界なんだから、本場の菫の園の「大羽根」よりも軽量化を目指したいらしい。
なので素材も厳選したいっていう希望が出てるんだって。
というわけで、この話は一旦ここまで。
丁度リュウモドキの解体の見学を終えて、紡くんと菊乃井万事屋春夏冬中メンバー、それから希望の配達人パーティーが帰ってきた。
解体で出たお肉やレバーやらモツその他、引き取って来たものは料理長に預けてくれたとか。
買取のお金はシェリーさん達を通じて、初心者冒険者講座に寄付してもらった。
お金はシェリーさん達で山分けでいいって言ってたんだけど、彼女達にも矜持がある。止めを刺したわけでもないのにお金をもらうわけにはいかないってさ。
それで初心者冒険者講座のための資金にしたのだ。
で、今日の結果なんだけど。
「咄嗟の判断力は凄いと思うぜ?」
奏くんの言葉に、ソファーに座って俯く三人が顔を上げた。
その表情はなんというか、きょとーんみたいな。
思ってもないことを言われたっていう顔で、こっちの方がきょとんとしちゃう。
「え? でも、倒せなかったし……」
「あの時点で『ヤバい』って思ったら撤退する方法はあったんだろ? じゃあ、いいんじゃね?」
シェリーさんの悔しそうな言葉に、奏くんが首を横に振る。
体表の色が変わったというのは、リュウモドキの戦闘力が上がる合図だったと思うんだよね。
思わぬダメージを受けた怒りと焦りから、恐らく狂化したんだろう。
データもない状況、わりと勝ってる。
そんな状況で撤退ないし救援を求めるって難しいんだ。
「戦争は勝ってる間はやめられないって言うでしょう? でも、シェリーさんは撤退の判断が出来たし、ビリーさんとグレイさんもシェリーさんが無事であれば撤退も可能という判断で彼女を守ることに徹した。良い判断が出来るのは、冒険者として強いですよ」
つらつらと説明しつつそう口にすると、後押しするようにロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんが頷いてくれる。
リュウモドキとの戦闘風景を私の幻灯奇術で先生方にも見ていただいたけど、彼らに足りなかったのは攻撃力や体力という鍛えれば何とかなる物だけ。戦術的には実に良い戦い方だって、先生方も褒めてた。
ってわけで。
「シェリーさん、破壊の星と天与の大盾を覚えましょうか?」
「は……?」
パンッと両手を打ち鳴らす。
希望の配達人パーティーの三人の目がまんまるを通り越して、点。
エルフ先生達はニヤニヤしてるけど、菊乃井万事屋春夏冬中のメンバー、特に識さんが首を捻った。
「あれ、対人向きませんよ?」
「対要塞とか対国とか対ドラゴン特殊個体・キングベヒーモス特殊個体っていう次元で作られた魔術ですからね。でも見せ札には出来るし、実際使うのは疑似破壊の星でいいかなって」
「え? あー……理論としては出来る……んです?」
「出来なくないですよ。破壊の星なんて、原理は超高高度から超広範囲に超巨大な氷塊や礫を射出するだけなので」
破壊の星なんて御大層な名前だから勘違いする人が多いんだけど、実際に星を降らせてるわけじゃないんだよ。
肉眼で目視出来ないほどの超高高度で精製した何らかの超巨大な塊を、その超高高度から速度を付けて落とすだけなんだから。原理さえ知ってれば、それを範囲指定で威力も人間用に調整する。それだけだ。
パチパチとラシードさんが瞬きを繰り返す。
「いや、原理聞いても出来る気しないんだけど? つか、超高高度、超巨大、超広範囲を『だけ』って言うなよ……」
「凄く魔力を食うんだなっていうのだけは、辛うじて解ったけど……」
ノエくんも首を横に振る。
そりゃ破壊の星をそのまま範囲指定極小にしたら魔力を滅茶苦茶食うけど、でもそこにも抜け道はあるんだ。
話を聞いていた紡くんが「はい」と手を挙げる。
「えぇっと、破壊の星や天与の大盾にみえるようにするだけですか?」
「そういうこと。下級魔術をあたかも破壊の星や天与の大盾にみえるように偽装するだけ。でも、実際に破壊の星や天与の大盾を使えるようになってもいいと思うんです。シェリーさんの切り札がそれだって誤認させられるでしょう?」
「シェリーさんが破壊の星や天与の大盾をつかってくるとおもって、あいてがけいかいするもんね」
紡くんの疑問に答えた私の言葉の補足をするように、レグルスくんがにぱっと笑顔を見せる。もう、天才なんだからー。
レグルスくんの頭を私が撫でるのと同じく、奏くんが紡くんに「よく解ったな、流石つむ!」とかって褒めてる。
そんな中、シェリーさんが首を横に振った。
「む、無理です! 破壊の星や天与の大盾なんて、まともな師匠についたこともないあたしじゃ……!」
独学で魔術を学び、そこから後は菊乃井の初心者冒険者講座の魔術講座で学んだだけ。そんな自分に遺失魔術なんて荷が重い。
俯いて自身の膝に置いた両手を握るシェリーさん。
だけど、初心者冒険者講座の魔術講座の先生って、ヴィクトルさんだったり大根先生だったりするんだが?
そして時期が来たらナジェズダさんも加わるんだが?
一対一じゃないってだけで、シェリーさんは十分高名な魔術師の弟子なんだけどなぁ……。
というか、初心者冒険者講座の卒業者って、シャムロック教官だけでなく、ロマノフ先生やラーラさんの弟子でもある。
そこにコンプレックスを持つ必要はないと思うんだけど、これって私が先生達の直弟子だからそう思うんだろうか?
判断を付けかねていると、ビリーさんとグレイさんがそっとシェリーさんの握りしめた手を握った。
「あのさ、シェリー。おれ、凄く誇らしい」
「うん、おいらもそう思う」
「え?」
二人の言葉に、俯いていたシェリーさんが顔を上げる。
ここは首を突っ込まずに見てよう。
ビリーさんと目を合わせたグレイさんが、穏やかに笑った。
「だってさ、シェリーがどのくらい努力してるかおれら知ってるじゃん? その努力が認められたから、破壊の星や天与の大盾を教えてもいいって思われてるんだろ? 凄いことじゃん」
「そうそう。それに教えられたって、それが使えるかはおいら達がちゃんとシェリーを守れるか次第。それっておいら達もシェリーを守ってやれる力が付いたって判断されたってことだと思うんだけど?」
「……そうか、そうだね。魔術を使うのはあたしだけど、それは二人が守ってくれるから使えるんだ。あたしは一人じゃないんだ……」
そう。
シェリーさんに見せ札を持たせたって、それが活かせるかは二人の存在が大きくかかわってくる。
チームっていう意識をしっかり持ってるのも、この三人の強みなんだよ。
イイハナシで三人が纏まったけど、それはそれとして。
「二人にもそれぞれ見せ札を持ってもらいますよ、勿論」
「だな。三人それぞれ必殺技みたいなのがあれば、それぞれに警戒心を抱かせて相手の行動に制限をかけることも出来るし?」
「え?」
「お、おいら達も?」
満面の笑顔の私と奏くんの言葉に、ビリーさんとグレイさんの顔が引き攣る。
そりゃそうでしょうよ。
みっちり記念祭までしごくから。
奏くんと手を合わせてそう言えば、希望の配達人パーティーの目から光が消えた。
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