憧れは重く
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、5/9です。
結局のところ、リュウモドキの骨はロマノフ先生とヴィクトルさん、ラーラさん、大根先生の連名で買い取りになった。
リュウモドキの骨を加工できる職人さんというか工房で、さらに赤ちゃん用の調度品や乳母車に加工してくれるところに心当たりがあるそうで。
処理が終わったら即日で先生に骨は売却された。毎度あり。
今回買い取ったお肉は前回より若干多め。シェリーさん達と歌劇団の帝都公演の壮行会に使おうと思ってるんだよね。
モツと舌と魚卵、そして今回は白子も手に入った! なんとあの希少種、雌雄同体だったわけよ。
勿論レグルスくん待望のレバーもだ。
これは大事にレバーペーストにして……帝都に行く時に皇帝陛下御一家にお裾分けしないと煩いだろうな。主にシュタなんとか家とその取り巻き。
前のときも色々言いたかったみたいなことを、オブライエンが掴んできてる。
あとご本人達がいたくうちのレバーペーストを気に入っておられるから、渡しておくとなにかいいことがあるかもしれない。胃を掴むって大事なんだ。
そういえば、ジャヤンタさん達バーバリアンとも食事会をしなきゃ。
うちのご飯は美味しいんだって、あの大会で全国区に知れ渡ったからねー……。
なんかヴィクトルさんのご友人の一流文化人の人達も「食事会なんて開かないよね?」とか、速達で来てるそうな。冒険者ギルドの速達、結構お高いのにね。
以前からクッキーやポムスフレやコーラなんかは、サロンでお出ししてる。
それだけじゃなく、家で食べてる料理もなんとかして食べてみたい、ついでに菊乃井家に招かれたい。
そういうことだそうな。
「あーたんの絵を描きたいって人もいるし、菊乃井家のご兄弟の前で詩を披露したいって人もいるよー?」
「へぇ……」
ヴィクトルさんがお茶を飲みつつ、へらりとそんなことを言う。
なんでも帝都の文化人達の間では、いつ菊乃井邸に招かれるかが競われているそうだ。
この菊乃井邸っていうのは帝都の、ではなく、菊乃井領の菊乃井邸のことで。
「今度の帝都の記念祭に参加するでしょ? そのときに一目お会いして、お食事などいかがってさ」
「そのお食事も菊乃井持ちですよね?」
「まあ、そうなるよねぇ」
ヴィクトルさんの苦笑いに、こっちも苦笑いだ。
文化人の皆さんには菊乃井の文化を広める貢献をしていただいてる。それにお食事会で返すことは吝かじゃないんだ。
そこで絵を描かせてほしいとか詩を読ませてほしい、楽器の演奏がしたいとかも、菊乃井邸は文芸サロンなんだから何もおかしくはない。
題材が私じゃなきゃな!
レグルスくんなら大賛成だし、なんなら私のレグルスくん語りを聞けって感じだよ。
お茶のカップとソーサーをテーブルの上に戻すと、乾いた笑いを喉からだす。
「お食事会は構いませんけど、私を題材にとかは嫌です」
「だよねぇ」
私の返事を予測していたヴィクトルさんが肩をすくめる。
リュウモドキの解体は丁寧にやると時間がかかるので、私やレグルスくん奏くんは一足先に菊乃井の屋敷に戻って来てた。そんで先生達とお茶中。
話題はリュウモドキの処遇から始まって、帝都の記念祭に参加する人達への壮行会の話から、菊乃井家のサロンの話題に至って。
菊乃井の祭りは文化方面で菊乃井の影響力を滅茶苦茶高める結果になった、そんな話だ。
因みにエルフ三先生に今の希望の配達人パーティーの状況は共有している。
守破離の破離へと至る段階っていうのは、先生達も同じことを思ったみたい。あとは彼女達の強みをどこまでそれと自覚した上で伸ばせるか、だ。
この件に関しては手数を増やす、つまり経験を積ませることが最善って感じかな。
それに関してはちょっと考えてることはある。
それをするための場所が問題だ。
場所を確保するのが一先ず先決として、話はサロンの方に戻る。
なんでも去年の公演で感動して菊乃井歌劇団の絵を描いて下さると言ってた有名な画家さんが、絵画を完成させてくれたそうな。
そしてその人、今年の菊乃井のお祭りにも来ていた人だったとかで。
「ウイラ様とラトナラジュ様の絵も描いたそうで、ジュンタさんだったかな? 彼女の建てた祠に寄贈したいんだって」
「それはいいお考えかと。でも祠の大きさにもよりますね」
「うん、それなんだよね」
絵画っていっても大小さまざま。
菊乃井歌劇団を描いた物は結構大きくって、最早絵画っていうより壁画だそうな。
ご本人は「いずれ出来る菊乃井歌劇団の専用劇場に飾ってほしい」と、ご寄付下さるそうだよ。まだ専用劇場が影も形もないんですけど。
でも壁画サイズが寄付されるってことは、それを飾れる場所がある前提だから、建つ前で良かったのかも。
歌劇団の専用劇場のための土地整備は進んでいる。
が、問題なのは劇場の設計を誰に任せるかなんだよなー。
帝都の帝国国立劇場みたいなのがいいんだけど、その設計士さんお亡くなりになってる。
お弟子がいたんだけど気難しい人らしい上に、放浪癖があってどこにいるか所在不明。
時々その人が設計したっぽい建物がひっそりと何処かで建って、そこで初めてその土地にいたのか……みたいな感じになるそうで、そのときにはもう土地から離れて放浪の旅に出てるそうな。
詩人といい、画家といい、音楽家といい、小説家といい、何で癖つよが多いやら。
巷では私も癖つよだと思われてるんだろうか? でも私、芸術家ではないからな……。
そんなことを考えていると、ラーラさんから「あ」という呟きが。
お茶を飲んでたレグルスくんや奏くんが「ん?」と顔を上げた。
「そういえばユウリが『羽根、そろそろやる?』って言ってたんだけど、何のことかな? 『羽根』って言えばまんまるちゃんは解るって言われたん」
「羽根! それはぜひ!」
「……食いつき方が凄すぎる」
ちょっと食い気味に返事をすると、ラーラさんが肩をビクッとさせる。
だって羽根! 歌劇団で羽根っていうたらアレしかなんだよ!
きゃー、とうとうそこまで来たんだ!!
大歓喜にぐっと握り拳を固めると、レグルスくんと奏くんが顔に疑問符をぺたりと張り付けていて。
「あにうえ、はねってなぁに?」
「劇に羽根の出てくるやつがあるのか?」
しぱしぱと瞬きするする二人に、ついつい笑いがこみ上げて来ちゃう。
羽根。歌劇団で羽根と言えば!
「トップスターがフィナーレやショーのラストで、背負って大階段を降りてくる大きな羽根があるんだよ!」
それは董の園の男役トップスターの証。
二番手や娘役のトップスターも豪華な羽根を背負ってるけど、トップの男役のそれは更に大きくて重い。
その重さは見た目の華やかさからは想像できないくらい重い。
物理的にも相当だけれど、劇団の代表ということで精神面でもかなりのもの。けれどその重さを背負えることこそが、トップスターの誇りでもあるのだ。
材料はダチョウやキジの羽根で、最近は丸く作った羽根飾りの下に、更に床まで垂れる飾りのついたヤツもある。
どれにしたって重量はたしか十キロから二十キロ近いものまであると聞いた。
前世で菫の園の記念館で飾ってある羽根を背負わせてもらったことがあるけど、凄く重かった……気がする。今の私の体感だと、多分背負えないくらいに。
それが! ついに!
歓喜に打ち震えるってこういうことか。
ぷるぷると握り拳を固めてとると、ヴィクトルさんが「ああ、それで」と零す。
「いやぁ、ユウリから衣装の飾りに使えそうな大きな羽根って何処で買うのか聞かれたんだよね。冒険者ギルドでいけると思うとは言ったんだけど、本格的に依頼を出」
「それ、私が受けます! 何処でそういう鳥の羽根が手に入るんですか!?」
「……だから食いつきが良すぎるってば」
言葉の途中で手を上げると、ヴィクトルさんとラーラさんが顔を引きつらせる。
レグルスくんや奏くんはやる気満々なようで、二人ともソファーから立ち上がった。
「フォルティス、しゅつどうだね!」
「おう!」
うぇーい! やったるぜー!!
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




