日和ってるやつはいねぇが、初心に返るやつはいる
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次回の更新は、4/28です。
お昼ご飯は筍の炊き込みご飯だった。
春だよね。
菊乃井領では筍ってあんまりとれないんだけど、梅渓領とか獅子王領では名産らしい。
今用事で梅渓領に行ってるジャミルさんから届いたんだ。
ジャミルさんは菊乃井のお祭りを梅渓領で見たそうな。しかもクラフトコーラの屋台をやりつつ。
梅渓領ではクラフトコーラが注目され始めてるみたい。
ジャミルさんの用事っていうのは、美奈子先生に聞きたいことがあるそうで。
例の研究者が死ぬ前に、彼の家に出入りしていた人間の手がかりが掴めた。その証拠固めのために、見てほしいものがあるとか。
正直、あんまり危ういことはしないでほしい。
近場なら助けに行けるだろうけど、そうじゃないと取り返しのつかないことならないとも言えないし。
オブライエンは「そんな不手際はなさらないでしょう」っていうけども。
ジャミルさんはオブライエンから見て、エリーゼの上位互換みたいな感じらしい。
そしてエリーゼは間諜としてはセバスチャンよりも遥か上で、ロッテンマイヤーさんに関しては量れないそうな。
そのロッテンマイヤーさんをして、現在母についてくれてる帝都のメイド長は別格だとか。
菊乃井家は一体何と戦ってたんだろうな……?
ジャミルさんに関しては梅渓家と獅子王家にも話を通しているから、何か危なそうなら連絡がくるし、助けてもくれるようにはしてある。
特に梅渓は美奈子先生とそのお弟子さんを守るために、色々考えて手配しているようだから安心といえばそうかな。
獅子王家も場所的に梅渓家と連携を図りやすいそうだし、獅子王閣下のところには次男坊さんがいる。
今のところ私の【千里眼】も、ジャミルさんは大丈夫っていうから静観してるけど。
で、現行【千里眼】がザワザワするのは別のことなんだけど、これはなんか形として見えてこない。
心配は心配。
でも私の心配事って疫病関連か、シェリーさん達のことか……。
いや、後一つ。
ロッテンマイヤーさんのことだよね、やっぱり。
妊娠って病気じゃないんだ。
この病気じゃないってのは心配しなくていいって話じゃなくて、病気じゃないから薬でどうこうとか、これをすれば楽になるって定番がないってこと。
しかも命懸けじゃん?
赤さんが出来るのはいいことだし、家族が増えるんだから嬉しい。でもそれに伴う危険とか色々を改めて考えると、ちょっと不安になる。
お医者のパトリック先生と話してたときも、悪阻のせいか顔色悪かったし。
何よりロッテンマイヤーさん、震えてたんだよね。
お仕事上の立場とか代わりの人員とか、そういうこと考えると不安にならざるを得ないとは思うんだ。
うーん、考えすぎかなぁ?
ぽてぽてと歩いているのはダンジョンの深層への道。
奏くんによると、普段はチラホラ魔物が出て来るんだけど、今日は全く。
大所帯なうえに、私とレグルスくんがいるからだそうな。
それでも深層部のボスの部屋には、ちゃんと魔物がいた。
それが何と。
「……あの、あたしの記憶違いだったら申し訳ないんですけど」
引き攣った顔で、ぎこちなくシェリーさんが指を動かす。
指差したその先にいたのは、ぬめぬめした皮膚に魚類のような顔、やたら長い胴体に申し訳程度についた短い四本の足、時々バチバチと光る尻尾。
どうみても見覚えのある姿だけど、あのときと違うのは皮膚の色が黒でなく金で。
ビリーさんやグレイさんも、その見覚えのある姿に顔を思い切り顰めている。
これは何がどうでも、アレだ。
「紡くん、大根先生の研究室につなげられる?」
「はい!」
一緒に来ていた紡くんが、肩掛け鞄から小さめの布を取り出す。
ノエくんがその布を受け取ると、識さんが魔力を込めた。そうして紡くんが「だいこんせんせい!」と大きな声で呼びかける。
すると白かった布の画面が光って、空飛ぶ城に構えられた大根先生の研究所が映った。
『どうしたね、つむ君?』
「こんにちは! ダンジョンにきてるんですけど、リュウモドキがいました!」
『なに、リュウモドキが?』
「はい」
紡くんが頷くとノエくんが布を動かして、色違いのリュウモドキが見えるようにする。
それを見て大根先生が眉を顰めた。
『大人は誰か……ああ、鳳蝶殿がいたか。ということは三人のうちの誰かがいるね?』
「あ、はい」
名前を呼ばれたので布を覗くと、大根先生が頷く。
最近ダンジョンに行くときは、先生達が思いっきり距離を開けて一緒に来てくれる。
私やレグルスくんだけでもモンスターが逃げちゃうのに、先生がいるとボスまで失神するからね。
声が聞こえる位置にはいてくださるから、多分今頃走ってこっちに向かってくれてるはずだ。
『アレはリュウモドキの特殊個体の更に希少種だ。リュウモドキと弱点は変わらないが、防御力が非常に高い。とはいえリュウモドキを瞬殺できる鳳蝶殿がいるのだから、問題はないと思う』
「なるほど」
「わかりました!」
奏くんとレグルスくんが同時に返事する。
ノエくんや識さんはちょっと首を捻った感じだけど、ラシードさんが「前に色違いのやつ倒した」って話をしてるから、大丈夫だろう。
問題は、リュウモドキを見てからプルプル震えて固まっちゃってるシェリーさんやビリーさん、グレイさんの希望の配達人パーティーだ。
リュウモドキに一度殺されかけてるから無理もない。
けど。
ぱんっと軽いけど、痛そうな音がした。
見ればシェリーさんが、自分の頬っぺたを引っ叩いていて。
「いつまで引き摺ってんのさ! やるって決めたんだろ!」
自分を叱咤するシェリーさんの姿に、ビリーさんもグレイさんもハッとした顔になる。それだけじゃなく二人の目に、力が戻った。
駄目押しのように、画面の向こうで大根先生がカラカラ笑う。
『諸君、以前のリュウモドキは旨かったろう? 希少種はもっと旨いぞ!』
やるしかないわー。
あのリュウモドキの卵の醤油漬け、めっちゃ旨かったもん。舌もモツも尻尾も最! 高! だったし。
何よりレグルスくんが「またレバーペースト、たべられる!? おれ、がんばるよ!」ってやる気だもん。
美味しいって分かってるのに特殊個体だからってビビってるやつ、いる?
弟がウキウキやる気になってんのに日和ってる兄、いる?
いねぇよなァ!
ってわけで、一度大根先生と通信を切らせてもらう。
さて、戦闘開始という前にシェリーさん達が真面目な顔をした。
「あの! まずあたし達だけでやってみちゃ駄目ですか!?」
「今の俺らが何処まで通じるか、知りたいです!」
「もし倒せても、肉とか欲しいって言わないんでお願いします!」
がばっと頭を下げる三人に、奏くんが私に視線を寄越す。
今の三人にアレを倒しきるのは、荷が重いだろうな。
だってあんなウナギに足が生えたような、オオサンショウウオ的な容姿でも、アレはれっきとした竜種なのだ。
けど、危なくなれば何とでも出来る。
「肉は山分けっていうか、うちで焼肉パーティーしましょうね? あと皮だの骨だのは防具の素材になるそうですから、出来れば傷は控えめに。頑張ってください」
危なくなったら即助けを求めることを条件に、シェリーさん達に道を譲る。
三人とも緊張気味だけど、怯えは消えた感じだ。
「シェリー姉ちゃん、リュウモドキの滑りは熱湯かけてやったら取れるって。それからなら剣とかナイフとかも届くんだ」
「かみなりのまじゅつつかうから、きをつけてね?」
「あたまのてっぺんがよわいよ。まえにあにうえが、あたまのてっぺんにおおきなつららおとしてた」
奏くんや紡くん、レグルスくんが口々にアドバイスするのを三人とも神妙に聞く。
私達が色々相談している間に、リュウモドキと対話を試みていたラシードさんが首を横に振った。
「駄目だな。アッチの言ってることは解るけど、こっちの言葉は少しも通じない。とんでもなく殺る気。でもちょっと迂闊、かな?」
「へえ?」
「特殊個体の更に希少種らしく、ブレスに麻痺毒が付いてるってさ。これがあるから負けないってベラベラ自慢してた。『このブレスがある限り、下等なニンゲンごときにオレ様が倒せるわけない』んだってよ」
「知ってれば対応の仕方はあるからねー」
全員が全員にっと笑う。
さて、始めようか。
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