戻ってきた、なんてことない日常
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次回の更新は、3/31です。
天上は大盛り上がりで、皆様お喜びくださったそうな。
中でもえんちゃん様は感動で泣きすぎて、目が腫れてしまったとか。
本当にやってよかった。
お礼申し上げると、姫君様は「来年もこの調子での」と仰る。
「来年、ですか……?」
「そうじゃ。よもや、今年だけの催しにするつもりではあるまい?」
「え、あ、はい。それは勿論。でも、毎年私達も演奏を?」
「来年はもう少し上達しておれよ?」
姫君様はお顔に「何を当たり前のことを」と書いてあるように見える。なるほど、決定事項な訳ね。
というか、これからみっちり一年はあるわけだから、上達してないと非常に不味いやつだな。
「おれ、ふえもけんじゅつもがんばります!」
「うむ、ひよこは男ぶりを上げねばな。あの和という娘も相当に励んでおるでの」
「はい!」
レグルスくんの良い子のお返事に、姫君様もニッコリだ。
私も「頑張ります」とお答えすると、姫君様が頷かれる。
それから姫君様はひらりと団扇を閃かせると、やや表情を引き締め「ところで」と唇を解かれた。
「古龍達にさせた厄払いのことじゃが」
それはお聞きしたいことだったから、レグルスくんと二人表情を引き締める。
「そなたの働きや此度の宴に協力した者がいる国に関しては、古龍達を向かわせた。ただシュタウフェンとルマーニュには行かせておらぬ」
「え? それは……」
「シュタウフェンについては、イゴールの囲っておる小僧が縁ある品を配った民草には、それを通じてあやつが厄払いをしておった。故に民草はそれで当座は凌げよう。他の貴族階級の者に関しては小僧が必要ないと拒みおったそうじゃ。家を弱らせる好機ゆえ、と」
「なるほど」
次男坊さんは自分が独立するだけじゃなく、シュタウフェンの息の根を止めるほうに舵切りしたってことだな。とうとう腹を括ったわけだ。
因みにルマーニュの極一部は厄払いされたんだけど、それはアースグリムとルマーニュ王国王都の冒険者ギルドだそうで。
アースグリムはえんちゃん様と行った場所で、そこの住人の気の良さをえんちゃん様ご自身が知っておられるから。王都の冒険者ギルドに関しては、そこが機能しないとルマーニュに大事があったときに下手をすると私に厄が飛んできそうという、えんちゃん様の思し召しだそうで。
王都の冒険者ギルドのギルドマスターは、かつて不正蔓延るギルドに真っ向から否を突き付けた経歴のある人だから……というのもあるらしい。
「ならば、北アマルナも?」
「……そちらは氷輪が嫦娥を行かせた。あの娘に海のの息がかかっているのは業腹ではあるが、娘の演奏自体は心が籠っておった。真心に応えぬわけにはゆくまいよ」
「そうなんですね。何から何までありがとうございます」
「ひめさま、ありがとうございます」
兄弟揃って頭を下げると、姫君様は「よい、褒美じゃ」と返される。
でもその顔がなんか奇妙な物を見るような感じで。
顔に何かついてるんだろうか?
そう思ってペタペタと顔を触っていると、姫君様が呆れたようなため息を吐かれた。
「なんというか、そなたも罪作りよな。妾としてはそれでよいが……何やら気の毒に思えてくるわ」
「えぇっと? 私の行動で姫君様がご不快になることがあった、という?」
「違う。寧ろ妾としては好都合じゃ。じゃが好都合だと思うことと、些かの哀れさを感じるのは、妾の中で両立するのじゃ。そしてそれはそなたのせいでもない」
「はあ……?」
解らん。
でもそれ以上お聞きできる様子でもないから口をつぐむ。
しばし沈黙。
それを破ったのはレグルスくんだった。
「ひめさま、これからはまいにちあえるんですか?」
「ああ、いや、やはり前と同じく三日に一度じゃな。艶陽とも約束があるでな」
「承知いたしました。また三日後を楽しみにしております」
「うむ、それでは今日の歌じゃが……」
こういうわけで、三日に一度は姫君様のお会いできる日常が戻ってきた。
「よかったねー、あにうえ」
「そうだね。病も終息しそうだし、姫君様もお戻りだし」
「うん。おれ、えにっきでひめさまとおはなししてたけど、やっぱりおかおみておはなしするのがいいとおもうんだ」
「うん、解るよ」
手を繋いで家に戻る道すがら、そういう話をする。
この後私は執務室兼書斎で皇子殿下方とその後の様子を聞く予定で、レグルスくんは剣術のお稽古だ。
エントランスまで一緒に帰って来ると、源三さんが木刀を片手に待っていて。
でもその表情が何だか微妙。それに心なしか、家の中をチラチラ見ている。
不思議に思ってどうしたのか尋ねると、源三さんが苦笑いしながら家の一角を指差した。
そこはエントランスでも一番日当たりが良い場所で、何故かそこには私の部屋に運び込んだはずの猫脚で尻尾もあるオリハルコン製箪笥が。
レグルスくんが、猫脚オリハル箪笥に話しかけた。
「ねこさん、あにうえのおへやからでてきちゃったの?」
『うにゃ』
あれは、多分「そう」っていうお返事。何処から鳴いてんねん。
皇子殿下方からいただいたとき、訳ありでムリマ作の出戻り品だとは言われてたんだよ。だから何かあるとは思ってたけど、早々解った。
だって動くし鳴くし。
一番最初に気が付いたのは、私の衣服の管理をしてくれるエリーゼだった。
元から部屋にあった箪笥に、洗濯した私の服をしまおうとしたときにオリハル箪笥の尻尾が動いたんだそうな。
それから様子を見てると、夜にはちゃんと立ってたのに朝には香箱座りしてたり、時々伸びしてたり。
本人、箪笥だから本箪笥か? でもレグルスくんのひよこちゃんポーチにいるピヨちゃんは、猫自認の精霊だっていってたな。
本猫的に、古龍達の諸々だけじゃなく、衣服もしまってほしかったらしい。
なので空いている場所に、私の正月の衣装とかレクスの衣装を入れたんだよね。あと奏くんと紡くん、アンジェちゃんの衣装も防犯のためにしまうことに。
先生方にもこの件はご相談したんだけど、なんか「ムリマなら仕方ない」みたいな反応だった。仕方ないのか、そうか。それが匠の神髄なのか。
「いやぁ、階段から下りてくるのを見かけましてのう。オリハルコンだから階段から落ちたところでどうってことないじゃろうが……」
「ありがとうございます。部屋に連れて帰りますね」
「いやいや、なんも」
源三さんは首を緩く左右に振ってから、レグルスくんに声をかける。
レグルスくんは元気に「おけいこしてくるね!」と、源三さんと庭の方へと歩き出した。
その背が見えなくなってから、くるっと振り返ると猫脚オリハル箪笥が香箱座りで寛いでいる。
それでも「部屋に戻るよ」と声をかければ、ゴロゴロと喉を鳴らしながらついて来た。だから喉が何処にあるんだってばよ。
階段を上りきると部屋の前に宇都宮さんがいて、私の横を歩く猫脚オリハル箪笥に「あ」と声を上げた。
「旦那様と一緒だったんですね」
「ああ、はい。源三さんが脱走してきたのを見つけて、エントランスで見張っててくれて」
「そうなんですね、良かった。旦那様のお部屋をお掃除と思って部屋の中を見たら、いなかったので何処に行っちゃったのかと」
「朝、部屋を出たとききちんとドアを閉めてなかったようですね。それで出て来ちゃったみたい」
視線を猫脚オリハル箪笥に向けると、尻尾がパタパタ揺れてる。この箪笥、何か誤魔化したいときに尻尾を揺らすことが多いから、多分あってるんだろう。
丁度良いから箪笥を宇都宮さんにお願いして、執務室に。
殿下方はもう画面の向こうにいらして、二人揃って「おはよう」と声をかけて来られた。それに挨拶をお辞儀とともに返す。
すると皇子殿下方がにこっと爽やかに笑った。
『早速だが、良い知らせと悪い知らせがある』
『どっちから聞きたい?』
どっちも聞かせる癖にー!
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