お祭りの後のお楽しみ
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次回の更新は、3/7です。
あっちこっちのテーブルから「カンパーイ!」という楽し気な声が聞こえてくる。
あの後普段着に着替えて、ドラゴンのラナーさんや宰相閣下ご夫妻、鷹司さんご夫妻とそのご子息方、それから獅子王閣下含めて皆で町中に転移。
先ぶれを出しておいてもらって広場に転移したから、ラナーさんに触りたい子ども達に速攻周りを囲まれた。
小さい子からそれなりに大きい子まで皆「すごーい!」と大はしゃぎ。
ラシードさんとイフラースさんが魔物使いとして、二、三町の子達に注意をしてから、触れ合いタイムになった。
ラナーさんは子どもが好きだそうで、菊乃井の子達と仲良くなってちょいちょい遊びに来たいっていう希望を持ってくれてる。勿論、歌劇団の公演も見たいそうなので、そこは後日の相談ということに。
なんやかんやわちゃわちゃしていると、顔に絆創膏を張り付けたジークさんやシャナさん杏さんのウォークライがやって来て、子ども好きってことでラナーさんと意気投合してたみたい。
ラナーさんのことはラシードさんとイフラースさんがおもてなしを担当してくれるっていうので、私達は大所帯で市場のほうへ行くことになった。
でもその前に、ラナーさんの近くで大根先生のお弟子の一人・音楽魔術の研究者のハリシャさんが手回しオルガンと紙芝居をご披露してくれて。
「うち、歌劇団も好きやけど、このお嬢さんの紙芝居とオルガンも気に入ったわぁ!」
「え? そうです? じゃあ、一緒に踊ります?」
ラナーさんの歓声に、ハリシャさんがピコッと狐のお耳と尻尾を揺らす。
ハリシャさんの紙芝居は、物語の中にダンスとかも組み込まれている。それは物語を聞く小さな子が飽きないでいられるための工夫だ。
手を前に出したりその場で足踏みしたり。音楽に合わせて体でリズムを取る動きを、ラナーさんはハリシャさんを見よう見まねでやってみる。それにつられてラナーさんにくっ付いている子ども達もダンスを。
なんか、教育番組でこういうのあったな。
視界の端で白いタンクトップのムキムキお兄さん・ジークさんを見ちゃうと、体操のお兄さんなんて単語まで思い出した。
ぼちぼち考えよう。
そういうわけでラナーさんと別れて、市場の方へ。
そこでも一悶着あった。
「あー! ゾフィー!!」
「まあ、統理様!! こんなに人の沢山いる場所でもお会いできるなんて!」
「俺達は運命で結ばれてるからだな! ゾフィーは何処にいても、俺には一等輝いて見えるし」
「統理様ったら……!」
始まったよ。
がしっと両手を繋ぐ二人に、ちょっと遠い目になる。
なんと行った先のソーニャさんのお店の真ん前で、偶々買い物に来ていたゾフィー嬢を統理殿下がちょっと離れた場所から見つけて、走り寄ってしまったのだ。勿論全力疾走だったから、近衛の隊長が真っ青な顔で追っ掛けてたけど。
つか、彼の手強い将来の国母様が公衆の面前で頬を染めておられる。統理殿下もデレデレしちゃって。
「鳳蝶、塩バタークッキーいる?」
「ください」
「おれもほしい」
「ああ、うん。奏もあげるね……」
虚無顔でシオン殿下がご自身の鞄……多分マジックバッグの中から、バターの香りの豊かなクッキーを差し出してくれる。
これって料理長がEffet・Papillonの料理部門で出店してる、菊乃井家のおやつの一つだ。いいバターとお塩のクッキーは、おやつっていうよりお酒の肴として先生方に喜ばれてるんだよね。私はおやつとして好きだけど。
パリパリ食べてると、シオン殿下の前ににゅっと二つの手が出てきた。見上げると殿下のお父様とお母様の手で。
「シオン、父上にも」
「母様にも分けて?」
「あ、はい。でも市場で売ってますよ?」
「アレに並ぶのは無理です、殿下……」
鷹司夫妻の横からにゅっと出てきた獅子王閣下が「アレ」と指差したのは、料理長の屋台だ。めっちゃ並んでて、遠目からでもカイくんやアンナさんが接客に右往左往してるのが見える。
料理長の屋台のほんの先にはジュンタさんや董子さんの屋台があるんだけど、どうもそっちも待機列が出来ていて、近くのお店の人が待機してる人にお店の品物を試食させてるのも見えた。盛況のようで何より。
イチャイチャと盛り上がる統理殿下とゾフィー嬢だけど、後でリートベルク隊長やゾフィー嬢の護衛の女性騎士達が困っていることに気が付いたんだろう。こほんと統理殿下が咳払いして、私達を呼んだ。声がよく通るせいで、付近のお客さんがこっちを向く。けど私がいることに気が付いた菊乃井の領民はそっと目を逸らしてくれた、助かる。
それでゾロゾロとソーニャさんのお店に行くと、店番をしていたソーニャさんがこちらに気が付いて真顔になった。
「……来ちゃったのね?」
「はい……」
思わず真顔になると、鷹司ご夫妻と宰相閣下と獅子王閣下がそっと目を逸らす。宰相閣下のご夫人と和嬢、ゾフィー嬢は淑やかに挨拶をかわしてたけど。
するとお隣のモトおじいさんがひょこっと顔を出した。
「お、獅子王家の……なんね? 大所帯で。買い物ね?」
「あ、ああ。可愛い編みぐるみ? アクセサリーやらを見繕いにきたんだけれどね」
「そうなんね。それやったら可愛いのがあるとよ?」
そういって出して来たのは、私が奏くんのために作ったシマエナガの編みぐるみをモデルに作った小さな焼き物のイヤリングで。
「奏の持っとったゲームのコマが可愛かったけん、作ってみたとよ。若様には事後承諾で済まんけど、よかったかいね?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
そもそも、その鳥のデザインも私のじゃなく前世の鳥さんだし。
獅子王閣下はそのシマエナガのイヤリングをお買い上げして、ソーニャさんのお店でもシュシュをお買い上げ。
そんな様子に鷹司シシィさんもモトおじいさんのお店で、私が気に入ったのと同じタイプの星のような暈が散るお茶碗をお買い上げになってた。
そんな中で。
「なごちゃん、これ、いいとおもうんだ」
「え? どれですか?」
レグルスくんがモトさんのお店で指差したのが、切れ味よさげな刀子。
刀子っていうのはペーパーナイフなんだけど、本物の刀の形を取っていてきちんと鞘に収まる。本物の刀のミニチュアっぽいヤツだ。
それを和嬢が眺めているうちに、ポシェットからピヨ丸が飛び出してきてピヨピヨとレグルスくんに何かを訴える。
対するレグルスくんは、ピヨ丸に頷くとその刀子を渡してやった。するとピヨ丸が鞘から刃を取り出して、短い手で振って見せる。
「うん。ふりやすいみたい」
「まあ、では、これにしますね?」
「そうだけど、これはおれにプレゼントさせて? なごちゃんをまもるものだから、おれがえらびたいんだ」
「れーさま……!」
にこっと笑ったレグルスくんに、和嬢の頬っぺたがリンゴより赤くなる。
いつの間にそんなこと出来るようになっちゃったの!? 内心で「きゃー!」と悲鳴をあげながら、カッコイイと書かれた団扇をバタバタ振っちゃうじゃん!?
はわはわしていると、宰相閣下が困惑顔で話しかけてきた。
「菊乃井卿、マンドラゴラは剣術が出来るのかね?」
「え? はい。ござる丸も腕を剣のようにして戦ってますけど?」
「だいこんせんせいによると、にんげんができることはたいがいできるそうです!」
「だな。この間乳しぼりやってたし」
私の答えに困惑している宰相閣下を、更に困惑させるように紡くんと奏くんが補足する。そういえばござる丸、この間乳搾りしてる間に牛に頭の葉っぱ食べられてたっけ?
そんな話を聞かされた宰相閣下が「奥や」と奥さんを呼ばわる。
「ええ、私は構いませんわ。隠居後の楽しみにしましょうね?」
「ああ、そうじゃな。となると吾は息子達の尻を叩かねばのう。陛下やロートリンゲンの洟垂れの尻も」
「そうね、頑張ってくださいな」
おっとりと言う宰相夫人に、離れた場所にいた鷹司さんがくしゃみした。私は何も聞いてない。聞いてないったらないんだからね!
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