The show must go on.
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次回の更新は、2/24です。
頭に白い羽飾りのついた帽子を付けて、ほんの少し短いけれど足を動かすと華麗に広がる裾の真っ白いスカートを翻した少女が舞台に現れる。
彼女が伸びやかにつま先で舞台を踏んでステップを踏めば、花弁のようにスカートが揺れた。
一人、また一人舞台に同じような衣装の少女が現れて、クルクルと片足を軸に回転したり、足を高く掲げて静止したり。およそ高い身体能力を持たなければ出来ないようなダンスのテクニックを駆使しながら、曲に合わせて華やかに踊る。
曲目は和訳だと「虹の彼方に」っていうタイトルになる物を。
歌劇団の歌パートに参加してくれているマリアさんの歌声が舞台と客席を包む。
彼女達のダンスに合わせてゆっくりだった曲が、段々とスピードアップしていく。
ラインダンスの醍醐味は大勢で一糸乱れぬ同じ動作のダンスをすることだ。
二十人ほどの団員が横一直線に、踊りやすいように少しの距離を空けて並ぶさまは壮観の一語に尽きる。
隣同士手を繋いで、最初は緩やかに右右左と足を入れ替えながら高く上げるんだ。でも高すぎてもいけない、低すぎてもいけない。周りと調和しながら、踊るのだ。
ゲルダちゃんの「やぁ!」という掛け声に合わせて、舞台の端から右手を空へ、左手を招くように観客に差し出すポーズを決める。これも乱れがあってはいけない。
「ショー! マスト! ゴー! オン!」
マリアさんの伸びやかな号令で、全員がお揃いのフィニッシュポーズになる。
ばっちり全員の呼吸があった美しい終わりに、観客の拍手が鳴りやまない。舞台に立っていた少女たちが一礼して、全員舞台から去っていく。
そして明るかった舞台が、フィナーレに向かってほんの少し暗くなる。
ここからが私の出番。
船の警笛を模した音をバックに、静かにピアノやヴィオロンが寄り添う。
青いドレスに身を包んだ美空さんが、足取りもゆったりと舞台の中央に。その後ろから後を追うようにシエルさんが同じく青のタキシードで現れた。
かつて前世では氷山にぶつかって沈んだ悲劇の船での恋を、物語にした映画という物があって。
亡くなった恋人を偲ぶような歌詞なんだけど、しっとりとしたいい曲。
シエルさんと美空さんは手に手を取って、ステップを踏む。穏やかに慈しみあう恋人達が、別れに際してお互いを惜しみながら触れ合う。そんな感じ。
この歌、サビのとこの美しさが大事なんだ。息を詰めないように、裏返らないように、でも抑揚ははっきりとムーディーに。
最後のメロディーあたりで、シエルさんが美空さんをリフトして、くるくると回転する。青いドレスの裾がまるで打ち寄せる波のようだ。
リフト後一度二人は離れ、また手を取る。そして思い出を抱きしめるようにシエルさんが、美空さんを背後から抱きしめて。
シエルさんが美空さんの髪に口づけ、美空さんはシエルさんの肩に頬を寄せた。恋人たちは観客の心の中で、永遠に結ばれたのだった。
最後の一音が消えて、しんっと劇場が静まる。そしてその僅か一瞬後にどっと各席から嵐のような拍手と歓声が降り注いだ。
アンコールの声に押されて、正真正銘のフィナーレのためにショーで使われた曲を歌いながら劇団員がサイリウムを仕込んだ花束を持って現れる。
皆舞台の真ん中に来ると、それぞれお辞儀と観客への感謝の言葉を告げて、舞台から降りていく……のはいいんだ。
いいんだけど、何で私はマリアさんと「虹の彼方に」をデュエットしてるんだろう?
きっちりサイリウムを仕込んだ花束持たされて。しかもなんか大きな階段の天辺近くで。
「こういうの、エトワールというのでしょう?」
「えー……あー……はい……」
小声でマリアさんが耳打ちしてくる。
そうだよ。フィナーレでソロを担当する歌い手さんをエトワールって呼ぶんだよ、董の園では。
去年はだまし討ちみたいな形でソロをやったけど、今年はそれは通用しないって話になったんだろうな。そして私が一緒に舞台に立つのを断れなさげなマリアさんとのデュエットを手配したんだろう。私は裏方でいいんだってば!
この後古楽器の演奏をするからって着替えてたのも、きっとヴィクトルさんやユウリさんの狙い通りなんだろうな。
嬉々として歌劇団のお嬢さん達がお着換え手伝ってくれるはずだよ。
お正月に着た衣装に、編んだ髪には氷輪様からもらった髪飾りだから、舞台衣装に引けを取らない。
歌ってる私とマリアさんの横を、美空さんが降りていってお辞儀。それからシエルさんが最後に降りていってお辞儀すると、全ての団員が舞台を下りたことになる。
全員で最初に歌った歌を歌って、それが終わると改めてまた全員で揃って「ありがとうございました!」とお礼を。
歓声と拍手と指笛と。賑やかに惜しまれながら、今日の公演は幕を下ろした。
ジト目の私を舞台に残して。
「さ、大トリですわね? 頑張ってくださいませ!」
「はい……」
ぽんっとマリアさんが励ますように肩を叩いてくれる。
ヴィクトルさんに指揮された楽団の皆さんが、私達が使う古楽器を舞台に運び入れてくれて。
「着つけが終わり次第、皆来るから」
「はい」
「緊張してる?」
「しないはずないじゃないですか……!?」
胃がキリキリしてきた。
歌はある程度自信があるけど、楽器は本当に不安しかない。
私とアンジェちゃんが連弾する箏を並べつつ、イツァークさんがグッと親指を立てて見せる。
「大丈夫でござるよ。精一杯一生懸命にやることが一番でござる。聞いてほしい人に、素敵な音を届けたいっていう気持ちが大事なんでござるから。それに」
「それに?」
「北アマルナの皆さんをお助けしたいんで御座ろう?」
ハッとする。
そうだった。
これは姫君に捧げる曲ではあるけれど、その曲をもって北アマルナから呪いを祓わねばならない。ウダウダ言ってる場合じゃなかった。
ぱんっと両手で頬を勢いよく挟む。
「目が覚めました」
「その意気で御座る」
お礼を言えばイツァークさんはからっと笑って「なんの」と一言。
深呼吸をして集中していると、ヴィクトルさんが舞台の幕を開けるべく緞帳に手をかける。裾から着替えたひよこちゃんや奏くん、紡くんにアンジェちゃんもやってきた。
ひよこちゃんは赤い布で作られた縦襟のケープに陣羽織のような? 着物と袴という感じ。着物の方はイシュト様が着崩してなければこんなかなっていう、若侍のようなスタイル。
奏くんと紡くんは形がお揃いで、色が違う。奏くんは海を思わせる青や碧が多用されていて、紡くんは銀と緑が多く使われてる。
ロスマリウス様が肩から掛けてるのに似た布を、やっぱり肩から掛けてるんだけど詰襟の宮廷服に近いかな?
紅一点のアンジェちゃんは、贈り主のえんちゃん様とお揃い。漢服とロリータが混じったようなフリルとレースがふんだんに使われたミニドレス。可愛らしく桃色や橙、黄色の小花が散らされていた。
ヴィクトルさんが「こわ……」と呟いたきり、目を逸らした。効果的にはエグイとしか言いようのないものが付いているそうな。
「あにうえ、なごちゃんが『おすてきです!』っていってくれたよ!」
「良かったねぇ」
「おれのとこはやっぱり父ちゃん母ちゃんが腰抜かした」
「じいちゃんはにあってるっていってくれました」
「わたくし、おねえちゃんが『頑張っておいで、お友達に届くように演奏しておいで』って!」
皆で顔を合わせて、円陣を組む。
「皆、日頃の感謝を心に籠めようね!」
「うん。かみさまにとどくといいね!」
「おう。それから北アマルナの人達も何とかするぞ!」
「つむ、がんばる!」
「アンジェ、じゃない、わたくしもがんばります!」
ファイト、おー!
声と心を一つにすると、ヴィクトルさんから「開けるよ!」と声がかかった。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




