地方一武闘会の決着、歌劇団の新たなステージ
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次回の更新は、2/17です。
優勝目録は一応あるので、それを渡すべくローランさんが並んだバーバリアンの前に出る。
形式上ローランさんが目録を渡した上で彼らに希望を聞いて、その希望を私が叶えるっていう算段だ。
なのでローランさんがカマラさんとウパトラさんに、彼らの希望を尋ねる。
返って来たのは「菊乃井家のご飯食べたい」だったので、これは後日お食事会を開催するってことでお返事。
観客からは「羨ましい!」とか「俺も食ってみたい!!」とか、指笛や歓声に混じってそういうのが聞こえてくる。
で、問題はジャヤンタさんだ。
ローランさんが聞く前に、にやっと不敵に笑って。
「俺は、菊乃井の冒険者の最強の座を名実ともにいただきたい。だから菊乃井の最強パーティーと戦わせてくれ」
っていうじゃん?
焦ったようにローランさんが私を見る。
私は重々しく頷いた。
「本当に、それでいいんですね?」
「ああ」
「正直、やめておいた方がいいと思いますが」
こてりと首を倒すと、ジャヤンタさんがムッとする。私の言葉がどう聞こえたかは知らないけど、この反応からして侮ったと取られたかな?
でも侮った訳ではないんだよなー。
手を振って示すと、ジャヤンタさんの後ろでカマラさんとウパトラさんが肩をすくめる。
止めても聞かないってことなんだろうな。
じゃあしょうがない。
「解りました。その挑戦、私の方から受け入れてもらえるようにお願いしましょう。というわけで、よろしいですか先生方?」
にこっと傍らのロマノフ先生とヴィクトルさん、ラーラさんに呼びかける。
先生方もだけどジャヤンタさんもぽかんと口を開けた。観客もしーんとする。
「え? なんで?」
「なんでって……。菊乃井最強パーティーでしょう? 先生方のパーティーですけど?」
「え? 鳳蝶坊達のフォルティスじゃなく?」
「じゃないです。フォルティスは所詮見習いなので?」
バーバリアンの傍にいたローランさんに「ね?」と話をふれば、ローランさんはほんの少し考えたあと、実にあっさり「言われてみればそうだな」と頷いて見せる。
ジャヤンタさんは口を大きくあんぐりさせて先生方見て、それからまた私に顔を向けた。
「ど、どういうこと?」
「えー……どういうことと言っても……先生方が菊乃井で冒険者パーティーとして行動してるのは周知の事実ですし、ちゃんと活動記録もありますし。どう考えても国家認定英雄のパーティーを差し置いて、十歳未満の子ども見習いパーティー・フォルティスが最強ってことはないでしょ」
「そりゃそうだけども!?」
言葉の意味は解っても、理解したくない。そんな感じのジャヤンタさんの後ろから、カマラさんとウパトラさんが顔を出した。
「ちょっと!? アタシ達、ロマノフ卿達と戦うとか嫌だからね!?」
「そうだぞ、ジャヤンタ。勝てないと解ってて戦うなんて絶対嫌だが!?」
「えー、僕も嫌だけど? 泥臭いことしたくないし」
ヴィクトルさんが加わる。ラーラさんも気乗りしないのか、肩をすくめた。
ロマノフ先生がジト目で私を見る。
「鳳蝶君、ハメましたね?」
「人聞きが悪いこと言わないでください。私はフォルティスが菊乃井最強なんて一言も言ってません。それに私は先生にも『いいんですか?』って、ちゃんと聞きましたよ」
ニッと口の端を上げると、思い当たったのかロマノフ先生が「あ」と呻く。そんな様子を見ていたヴィクトルさんとラーラさんが、ロマノフ先生に「何勝手に?」とか「何言ってんの?」とか詰め寄ってるけど知らん知らん。
それでもう一人、仲間に詰め寄られてるジャヤンタさんに水を向けた。
「で、どうします? 先生方のパーティーと戦います?」
「いや、だから俺はフォルティスと戦いたいんであって……!」
「フォルティスは菊乃井最強じゃないので、謹んでお断りします。駄目です、嫌です、断固お断る!」
有無を言わせないように笑顔で圧迫していくと、ジャヤンタさんが涙目になる。仲間からは詰められるわ私からは圧迫面接されるわ、大変だね。
ジャヤンタさんが事態を打開すべく視線をうろつかせる。行き当たった先にひよこちゃんがいて、助けを求めるように手を伸ばした。
「レ、レグルス坊は? さっきの俺なら師匠も文句言わねぇって言ってたじゃん!」
「ん-、でも、おれも菊乃井さいきょうじゃないから、またこんどね?」
にぱっと笑えてレグルスくんがきっぱりお断りする。
なんかこう、最強と戦いたいってわりにロマノフ先生と戦うことに日和ったから、ちょっとイラっとしたみたい。「漢を見せろや、ゴルァ!?」って感じ? 難しいお年頃になってきたんだよ。
頼みの綱のレグルスくんにまでお断りされて、ガクッとジャヤンタさんの肩が落ちる。
「……俺も菊乃井家の飯で良いです……」
チームメイトの冷たい視線を受けたジャヤンタさんの呟きで、ここに武闘会における政治的な決着がついたのだった。おめでとう、バーバリアン。
観客の皆さんからも「そりゃそうなるよねー」という、生温かい拍手を惜しみなく注がれた。
さてそれから。
暫くの休憩をもって今度は菊乃井歌劇団の特別公演だ。
一気に魔術でセットを運び込んで、舞台の幕が開くのを待つばかり。
「じゃあ、レグルスくんはラーラさんと和嬢達の所に行っててね? それが終わったら、着替えて演奏だよ」
「はい! あにうえ、がんばってね?」
「うん。頑張るよ」
影ソロ、最早恒例だもんね。
歌劇団の屋外用セットはいつも町の大工さんに手伝ってもらって大枠を組む。それから私やヴィクトルさん、ユウリさんの魔術で音響を付けたり奥行きをだしたりしてるんだけど、今年はもっと豪華だ。
大根先生のお弟子さんのハリシャさんや、マヌス・キュアの開発者であるヴィンセントさん達が魔術効果を考えてくれたり、お抱え絵師の旭さんとモトおじいさんが工夫して装飾をしてくれたから。
今回はオリジナルミュージカルの片鱗をお見せするってことで、歌劇団のお嬢さん達だけでなく舞台に携わる人達全員が燃えている。勿論私も。
だって生きてるうちには出来ないと思っていたことが、協力してくれる沢山の人のお蔭で形になろうとしてるんだもん。
そしてどれほどの時を越えても、その願いが形になった暁には一緒にみせてくださると約束くださった姫君様が天でご覧になっている。これはやる気になるしか!
リングだったところに舞台の土台が現れる。
私の役目はこの舞台を中心に、砦に大きな結界を張ること。
舞台にかかった幻灯奇術の効果を高めるための結界だ。ユウリさんは幻灯奇術担当で、ヴィクトルさんは音響と楽団の指揮。
観客に見えないように作られた舞台袖では、歌劇団のお嬢さん方が円陣を組んでいた。
「皆、日頃の練習の成果を見せるよ!」
「いつも通り、全力で歌って全力で踊って、全力でお芝居するの!」
ステラさんと凛花さんの元気で凛とした檄が飛ぶ。
「失敗しても動揺しない! 私達がいるから、信じてやり抜いてね?」
「うん。舞台は皆で作る物だから、必ず助けるからね?」
シュネーさんやリュンヌさんが新人の子達の肩を抱く。
新人のお嬢さん達は緊張してたようだけど、その言葉に安心したように頷いた。
今日の主役コンビのシエルさんと美空さんが、それぞれ真ん中に右手を差し出して重ねる。
「皆さん、今日もお客さんの心を獲っていきましょう!」
「そうだよ。私達は姿形は乙女だけれど、心は騎士だ!」
その力強い言葉に、団員のお嬢さんが次々に手を重ねていって。
シエルさんが「頑張るぞ!」と声を張ると、皆が「おー!」と重ねていた手を天へと突きあげる。
そういえば最近町の人は歌劇団のお嬢さん皆を指して、「ピュセル」と呼んでいるそうだ。
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