人間が何かすればドラマは必ず生まれる
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次回の更新は、2/10です。
ジャヤンタさんの得物はやっぱり斧、ロミオさんの剣は昨日折れたものを作り直したとかで形状は少し変わってるんだけど細身の剣だ。
一撃一撃が重いジャヤンタさんに比べれば攻撃力は若干劣る。けど振るときの隙が最小限で済む分、小回りが利く。どちらを選ぶかだな。
レグルスくんはその中間というか、取り回しが早くて一撃が重いそうだ。天才。
二人はお互いの得物を打ち合わせて、一合一合しのぎを削り合う。
そんな二人を邪魔しないようにカマラさんやウパトラさんが、ティボルトさんとマキューシオさんと対峙していた。
ティボルトさんは重量級でマキューシオさんがスピード型。対するカマラさんやウパトラさんはスピード型なんだよな。
利点としては攻撃が素早いことではあるけど、素早さを活かす戦いは必ずしも攻撃力に直結しない。
ティボルトさんの一撃を食らうと、恐らくカマラさんやウパトラさんとて無事では済まないだろう。だからティボルトさんの射程範囲外からの攻撃が基本。
でもマキューシオさんがいるからね。彼の動きでカマラさんやウパトラさんをティボルトさんの攻撃範囲内に追い込むこと。これが出来ればかなりエストレージャは有利だ。
最初に戦った帝都の武闘会でも、去年の頂上決戦でも実はかなりいいところまでマキューシオさんは二人を追い込んだんだよ。でも経験値の問題で相打ちに持ち込まれた。
そりゃそうだ。解っててわざわざ敵の術中にはまるなんてあり得ないんだから。
さて—―。
「最初の対戦と言い、去年の頂上決戦といい、かなりいい線だったんですがね」
「エストレージャの方が対人戦闘に慣れてたはずなのに、相打ちだもんね」
「そりゃね。いくらバーバリアンが対人戦闘に不慣れっていっても、エストレージャとは潜った修羅場の数が違うもの」
エルフ先生達の評価はこんな感じ。どっちが勝ってもおかしくはないっていう。
じゃあ何処に差が出るかっていうと、装備では出ないな。だって両方私が作った作品だし。
昨日ロミオさんの剣が折れたことをジャヤンタさんは知ってたから、何処かで試合を見ていたんだろう。
そのせいか、ウパトラさんはエストレージャに対して能力低下の付与魔術を一切使用していない。元々付与魔術は不得意ってウパトラさんは言ってたけど、エストレージャに下手にかけて作用反転を起こされてもいけないっていう計算もあるはず。
まあ、不得意であまり効果も出ない付与魔術を使うより、攻撃魔術に魔力を使ったほうが効率的ではある。
ただウパトラさんが魔力を温存してるのは、それだけが理由じゃない気がするなぁ。
じっと観察していると、ちょっと奇妙な感じに気が付く。
それは凄く些細なことなんだけど、ティボルトさんの槍の穂先から逃げつつ、マキューシオさんを仕留めるために動いてるように見えるんだけど、時折その足が地面を擦るんだ。まるで何かを描くように。
カマラさんは弓でティボルトさんやマキューシオさんを縫い留めるべく矢を射てるんだけど、その矢はまるでウパトラさんの足元を隠すように地面に刺さる。
何だ? 何をしてるんだ?
ウパトラさんがマキューシオさんやティボルトさんを相手にするために使っているのは、私もよく使う初級の氷柱を発生させる魔術だ。
礫がわりにぶつけてるんだろうけど、それとカマラさんの矢を諸共、分厚い氷の壁を作り出してマキューシオさんが防ぐ。そうやってマキューシオさんが、ティボルトさんがカマラさんへ近づく道を作り出した。
ウパトラさんも対応して魔術で牽制しているんだけど、やっぱり使っているのは初級の魔術だ。
そのうち、ウパトラさんの足元、いやリングに微かに魔力の線が引かれているのに気が付く。
あー、なるほど?
「そういうことか……」
呟くと、レグルスくんが首を傾げた。
「どうしたの?」
「うん。なんか大掛かりな魔術を使う気だなって」
「下手な魔術では吸収されてしまうからですか?」
「そうかと。吸収しきれないほどの大魔術をぶつければ、私の装備も役には立たないですし」
ロマノフ先生がこくっと頷く。
ただなぁ、そういう大きな魔術を使うとき、魔術師は動けなくなるんだよ。魔法陣の維持って役目があるし、集中を切らすわけにいかないから。
そうなると狙われ放題の自爆技でもあるんだ。
見ているとウパトラさんの足元が光り出した。
それに気が付いたマキューシオさんが、ウパトラさんの魔術の発動を阻止するためにナイフを投げる。
ナイフに軽く付与を付けたのか、恐ろしいほどの速さで飛んでいく。詠唱に集中するウパトラさんにそれを避ける方法はない。
ならばとカマラさんがウパトラさんを身体で庇う。前衛が魔術師を信頼してるからやれることなんだけど、倒れたカマラさんに動揺することなくウパトラさんは魔術を練り上げて。
「雷撃を矛となし、数多の邪を駆逐せん! 雷を形作る精霊達よ、その威光を今こそ示したまえ!」
えぇっと、何だっけこの詠唱?
雷撃系の最上級攻撃魔術だった気がするけど、私は基本詠唱しないので文言を聞いてもよく解らない。というか、覚えてない。
けど雷撃って言ってるからには雷撃だ。
ウパトラさんの足元の魔法陣が精霊を数多集めて、立ち上った魔力の光が空へと繋がりやがて大きな光の柱—―雷撃の巨大な柱として地面に降り注ぐ。
発動してしまった以上避けられないことを感じたのか、雷に打たれる寸前にマキューシオさんは全魔力をティボルトさんへの素早さの付与に変えた。
ティボルトさんが走る。その後ろでマキューシオさんが雷に倒れ、ティボルトさん自体にも雷が落ちる。しかしダメージを負ってなおウパトラさんに迫ったティボルトさんは、魔術の維持のために動けない彼を槍の石突きで突く。ティボルトさんは散々に雷鳴の矛で打ち据えられて倒れた。
「相打ち、ですね」
「今回もか」
「生半可な魔術が通用しない相手に攻め疲れることを考えたら、後を託して二人を確実に討つことを選んだんだろうね」
チーム戦で、お互い死なないことを前提とした試合だから出来る荒業でもあるな。それだけ真剣に戦ってくれてるってことだろうけど、見てるだけで痛いししんどい。
カマラさんとウパトラさんは自分達がマキューシオさんとティボルトさんを、自爆してでも確実に倒せたらジャヤンタさんが勝てると踏んだんだろう。
この辺は私よりもレグルスくんのほうが目が利く。なので「どうかな?」と尋ねてみると、レグルスくんが首を横に振った。
「なにかはあるんだとおもう。けど、なにがあるかはわかんない」
「それが出たとして、レグルスくんは勝てそう?」
「おれはまけないよ! でもロミオさんはわかんない」
「なるほど」
不敵な笑顔のレグルスくんの頭を撫でると、キャッキャ笑う。
今のレグルスくんの話では何があってもレグルスくん的には勝てるけど、ロミオさんはその何かに対抗できるか現状では解らない、と。
そしておそらく今までの戦いでその何かを出さなかったのは、ロミオさんが切り札を切るには僅かに足らない相手だったんだろう。
けれど今回その札を切らねば勝てないとジャヤンタさんが決めたからこそ、カマラさんとウパトラさんは自爆しても二人を倒すことを選んだ……。何というドラマだ。
「……これ、小説化しません?」
「一定そういうものが好きな人達は居るでしょうから、需要はあるかもしれませんね?」
「また例の小説家さんに頼んでおいたら?」
「オリジナルミュージカルの題材がまた出来たね」
「おしばいになるの~? おれたちもでる?」
皆でリングサイドでワイワイやっていると、ドンッと空気が重くなった。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




