菊乃井の頂点に輝くのは
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次回の更新は、2/7です。
感触としては、和嬢のお祖父様もお祖母様もレグルスくんを認めてくれたという手ごたえがあった。
婚約自体は梅渓家からの打診なので、元々好感度は高かったみたいだけど、更に好印象になったというか?
因みにピヨ丸がレグルスくんにピヨピヨしてたのは、レグルスくんによると「はじめまして、ぴよまるです!」「マンドラゴラぞくをだいひょうして、なごみさまをかならずおまもりします!」っていう話だったとか。
梅渓領では知らないうちにマンドラゴラサークルの姫が爆誕していたようだ。ますます研究が捗っちゃうね。
で、もう一つ。
砦の屋上で待機してくれていたラナーさん。
和嬢はなんというか見かけに反して、凄く肝が据わっているようだ。
ラナーさんに帝国の淑女教育の教本に見本として出て来そうな綺麗なカーテシーをご披露。勿論和嬢のお祖母様も。
それがラナーさんの心の何かをぶっ刺したようで、ちょっと見てる間にあれよあれよと梅渓家へのご旅行の話になっていた。
なんか最初は和嬢と歌劇団の話をしてたはずなんだけどな。
「あー、吾もあのようにちょっと話していたら奥のペースに呑まれてのう。懐かしや……」
「歌劇団の贔屓の役者さんの話だったはずなんですけれどね?」
「うむ。ラナー殿がいつおいでになっても良いように、息子達に手配しておこうか」
「そうですね。何でしたら魔物使いのアーディラさんにも通訳としていてもらえばいいかと」
「うむ、そうさな」
きゃっきゃワイワイ盛り上がる女性三人と、プラスひよこちゃん。
話題は旅行からまた歌劇団の話で、今度はブロマイドの話になっている。
和嬢の贔屓は、菊乃井の料理人見習いのカイくんの妹・ゲルダちゃんなんだって。まだほんの脇役が主だけど、とても歌声が素敵だそうな。
お祖母様はやっぱりシエルさんで、理由が「若い頃の夫に似てるので」だって。マジか……。
思わず宰相閣下を見ちゃったよ。宰相閣下は明後日の方向見てたけど。
そんな楽しく会話をしてるところだったんだけど、控えていたシャトレ隊長に時間を告げられる。
武闘会決勝の開始時間を。
「というわけなので、私と弟はリングの方に行きますが……」
そう声をかけると、ラナーさんがぱちっと瞬きして口を開いた。
「警備の心配やったら隊長さんいてはるし、うち結構強いさかい任しといて?」
ラナーさんが「な?」と話しかければ、和嬢も艶子夫人もなんの不安もなさげに頷く。宰相閣下も「吾もいるでの」と仰った。
ひよこちゃんはというと、こっちもニコニコで。
「じゃあ、かげきだんのこうえんのときは、おれもここでみていい?」
「はい、もちろん。ね? おばあさま」
「ええ、ぜひ」
「楽しみやわー!」
盛り上がる淑女の皆さんに、宰相閣下も穏やかに頷かれる。
シャトレ隊長も、短い間にラナーさんとは通じる何かがあったようで「安んじて」と警備を任されてくれた。
そんなわけで、和嬢と宰相閣下ご夫妻に寛いでもらう用の天幕セットを準備して、一目散に私とひよこちゃんはリングへ。
もう観客席は人でひしめき合っている。
今年は奇しくも去年と同じ対戦カード、即ちバーバリアンとエストレージャだ。
レフェリーがリングの中央に立ち、チャンピオンとしてバーバリアンを紹介し、その後挑戦者としてエストレージャの名を呼んだ。
観客がそれぞれ応援する人やチームの名を叫び、その熱気が会場を押し包む。
先に出てきたのはエストレージャだった。
そういえば、ロミオさんは昨日の準決勝で剣を折ってしまったわけだけど……?
そう思ったのは私だけじゃないようで、後から出てきたバーバリアンのジャヤンタさんがロミオさんを指差し叫ぶ。
「オイ、ロミオ! お前、剣はどうした!?」
「はん! ちゃんと持っとるわ!」
「ケッ、その辺のナマクラじゃねぇだろうな!? 負けたときの言い訳にすんなよ!?」
「吼えてろ! きちんと奏坊の師匠のモトさんに修繕してもらったわ! 前より切れ味上がってるっつの!」
べーっとジャヤンタさんに向かってロミオさんが舌を出す。その言葉に、ジャヤンタさんは挑発を返そうとしていた口をへの字に曲げた。
「あの爺さんか。そんなら不足はねぇな」
「え? あの人、そんな凄い人なのか?」
ロミオさんがビックリしてる。私も驚いた。モトおじいさんってそんな凄い鍛冶師さんだったんだな。
ジャヤンタさんはそんなロミオさんに、にやっと笑って見せる。
「おお。お前、運がいいぞ。あの爺さんは金をどんだけ積まれても、気に入らねぇヤツの仕事は受けねぇ。運よく受けてもらっても、爺さんがやる気になんなきゃ何年も待たされる。その癖趣味にすぐ走るしよ。それに文句付けたら工房出禁だしな」
「えぇ……マジで……? それは……逆に良かったのかな? 待ってる人に悪いよ」
「しゃあねぇべ? 職人つうのはそういうもんだし、依頼者もそれが嫌なら別の鍛冶師に頼みゃいい。鍛冶師は他に山ほどいるんだ。あの爺さんがいいなら、その条件は飲むべしだろうよ」
ロミオさんの顔にはまだ「本当にいいの?」という困惑が浮いている。
ジャヤンタさんの後ろで話を聞いてたカマラさんとウパトラさんが肩をすくめた。
「っていうか、あの人に依頼を出す冒険者なんて、何年でも完成を待てる程度に装備にもお金にも余裕がある冒険者だけよォ」
「そうだぞ。あの人の武器はそれこそ持っているだけで一財産だ。手に入っても使わないで引退する冒険者だっているんだから」
「ひぇぇ」
「うっそぉ」
ティボルトさんとマキューシオさんが震えた。きっとあの二人もモトおじいさんに武器をみてもらったんだろう。
それにしても凄いなぁ。奏くんはどうやらとても凄いお師匠さんを得たみたい。
いつだったか、モトおじいさんは名工ムリマとお知り合いって、奏くん言ってなかった? 今度聞いてみようか……。
そんなことを思っていると、カマラさんがこてっと首を傾げた。
「ところでどうしてあの人に剣を修理してもらえたんだい?」
「え? ああ、武闘会を見てくれてたそうで」
決勝のノエくんとの戦いの終わりが爽やかだったのが気に入ったのと、エストレージャが奏くんの知り合いだったから。それから奏くんの鍛冶の練習台として、奏くんがモトおじいさんに頼んでくれたそうな。
ノエくんの武器にもモトおじいさんは興味を示していたそうで、そっちは後日見てくれるんだって。
そこでマキューシオさんがぽんっと手を打った。
「ロミオ、伝言あったろ?」
「ああ、そういえば。モトさんからアンタに伝言があったんだ」
「あ?」
「もうちょっと落ち着け、鼻たれ小僧。一回虎刈にされろってさ」
「あのジジイ……!」
伝えられたジャヤンタさんが歯を剥き出す。きらっと牙が光って、いかにも獰猛な雰囲気だ。
というか対戦相手にそんな伝言託すあたり、モトさんは大分とジャヤンタさんと親しいんだろう。駆け出しの鼻たれ小僧のときからの付き合いって言ってたもんな。
世間は思った以上に広くて狭い。
二人の話が観客にも聞こえてて、思った以上に仲良しなのが解ったのか、ほわっとしてる。
だけど今から試合だ。戦うとなれば、二チームともガラッと変わる。それもまた試合の醍醐味だ。
こういうところが格闘技のエンタメ性なんだろうか。まだちょっと私には分からないんだけど。
レフェリーが整列するよう、改めてバーバリアンとエストレージャに声をかけた。
向かい合ったバーバリアンとエストレージャのメンバーが握手を交わして離れる。
それを合図にレフェリーが試合開始の声とともに、手を振り下ろした。
「いくぞ、虎野郎!」
「こいや、狂犬!」
菊乃井の頂上を決める戦いが始まった。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




