信頼と依存は紙一重
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次回の更新は、1/13です。
三回戦第二試合の勝者が決まれば、準決勝の対戦カードはおのずと決まる。
リング上に並ぶのは菊乃井万事屋春夏冬中の三人と、希望の配達人の三人。まさか無名の無名な二チームがここまで残るとは、誰も思ってなかったろう。菊乃井の住人を除いて、という冠を付ければだけど。
菊乃井の住人はある程度知ってるからねー。
ノエくんと識さんがダンジョンでなんとかっていうデカい虫の駆除やってきたとか、ラシードさんがライラのご飯を調達してたり、絹毛羊の王子様の遊び場にしてたりとか。
希望の配達人パーティーも、奏くんや紡くんと下層階ウロウロしてるそうな。
奏くんや紡くんはダンジョンに潜るときは面倒を避けるために、ソーニャさんが作ってくれたフォルティス専用戦闘服を着ているとか。
その奏くんや紡くんに連れられていく希望の配達人パーティー達は、市場に売られていく子牛とか仔馬っぽいらしい。ドナドナ……。
帰って来たらいいお肉とか引っ提げてるらしいので、そこはそれだ。
だけど世界は広い。彼らも苦戦するようなパーティーがいたし、紙一重とか勝ってる印象がないわけでもない。
簡単に勝っているように見えたとしても、そこに至るまでには技の習得も魔術の研鑽も大いに必要だった。
で、だ。
菊乃井万事屋春夏冬中はこれまでの試合、あまり消耗はしてこなかった。相手の土俵で戦わないって戦術を徹底してきたからね。
それに対する希望の配達人達は、一回戦から全力だったわけで。
「手の内をほぼみせてる希望の配達人は分が悪いね」
「パーティーバランスとしては、双方似た感じなんですけどね」
リング上、試合開始とともに適度な距離を取った二組を眺めて、ラーラさんとロマノフ先生が話す。
そうなんだ。パーティーのバランスは両者似た構成なんだよ。
魔術師とそれを守る前衛二人。
ただ多分観客達は解らないだろうけど、二組を知ってる私達からすると分が悪いのは希望の配達人の方だ。
なにせ色々と格が違い過ぎる。
「二回戦の戦法は、今使うべき戦法だったね」
「でもああしないとウォークライには勝てなかったので、これも運命でしょう」
ヴィクトルさんの残念そうな言葉に、私も頷く。
それを示すように、リングで動きがあった。
魔術の発動気配を感じたのは識さんから。
魔力の流れってのは基本、常人には感知できない。出来るのはある程度魔術を修めたことがある魔術師だけど、そのせいで相手がどれくらいの規模の魔術を使うかが同じ魔術師には分かる。
規模的にはパートナー全体に付与をかけるくらいと、相手に対する中級クラスの攻撃魔術だろう。
……と、シェリーさんは思ったんだろうな。
魔術を弾く結界を、味方の付与より優先してかける選択をしたようだ。結界が希望の配達人パーティーの全員を包み込んだ。
だけど、だ。
魔術師同士は魔力の流れでどのくらいの攻撃だのなんだのが来るのを予測できるってのを逆手に取ることも出来るんだよ。つまり飛んでくる魔術の威力偽装なんかも出来ちゃう。勿論強い魔術師にはって条件はあれども。
結果どうなるか?
「え……?」
シェリーさんから戸惑うような呟きが出たのは、付与魔術の気配が識さんからでなくラシードさんからもあったからだろう。
でも驚くべきはそこじゃなかった。
識さんからも魔術の発動があって、結界に包まれているはずの希望の配達人を、その上から更に包むような光が注ぐ。
やがてその光は輪として三人を取り囲むと、縛るように範囲を狭めて。
そして光の輪がガラスが割れるような音と共に消えた瞬間、希望の配達人達を守るべく張られた魔術の結界も解けるように消え失せた。
「これ!? ヤバッ!?」
シェリーさんには異変がすぐに解ったんだろう。
分かってないビリーさんとグレイさんに叫んだ。
「魔封じ食らった!?」
と言うわけだ。
動揺がビリーさんとグレイさんの動きを鈍らせる。
魔術師に依存しているパーティーは、魔術師が討たれると途端に崩れる。討たれないまでも、魔術を封じられたらこのありさまだ。
動揺して動きが鈍くなってる前衛二人も、戦士としてはまだノエくんやラシードさんには及ばない。だって潜った修羅場が違う。
だけどここでシェリーさんが立ち直った。
素早く自分が持っていた、相手に投げつけることで強化するアイテムを次々とビリーさんとグレイさんへと使う。
普段使ってる付与魔術の魔術の代替ね。一応彼女は自分が魔術を封じられる可能性も考えてた訳だ。
となれば備えが甘いのは前衛二人か。なるほど鍛えがいがありそうな……。
そう思ってみてると、ひよこちゃんが難しい顔をしてこっちを見ていた。
「どうしたの?」
「うん。おれもちゃんとかんがえないとっておもって」
「えー?」
「あにうえがまふうじされたらどうするか、とか」
「ああ、そうだねぇ」
なくはないもんね。
だけど私の装備品、魔封じを封じる効果とかあるし。それに。
「まんまるちゃんに魔封じを掛けられるのは、ヴィーチャかソーニャ伯母様か大巫女様くらいだと思うよ」
「そうですね。私やラーラだとしくじりそうだ」
「うーん、僕も十回に八回くらいしか成功しなさそうだけどね」
先生方がそれぞれに肩をすくめる。
「識さんやノエシス君に、ラシード君やシオン殿下が加わったらどうでしょうね?」
「けーたんも入れといて。それでも多分五分五分かな?」
「まだ五分五分なの? え? カナツムは?」
「あー……、それなら行けるかな」
いや、何で私を魔封じする人員構成について話し合ってんの、この先生達は?
思わずジト目になったけど、なんかアレな言われようにプンスコする。
「うちのひよこちゃん忘れてますよ!」
「え? レグルスくんは別枠ですよ」
「ひよこちゃんは寧ろ、まんまるちゃんを魔封じするためには一番動きを封じないといけない子でしょ」
「そうだよー。まずれーたんを抜けるきがしないよねー……」
「カナツム二人がかりでひよこちゃんの相手が出来るくらいじゃない?」
「では奏君紡君は魔封じ要員から外さないと……となると、難しいですね……」
やいやい盛り上がってるけど、試合内容そっちのけで、何で物騒なことを自分の先生達に話されないといけないのか……。
解せぬ。
目を淀ませていると、ひよこちゃんがふんすっと胸を張った。
「だいじょうぶだよ、あにうえ。おれがいるかぎり、まふうじなんかさせないから!」
「ああ、うん。ありがとう……?」
そんな話だったかな? どうも脱線してる。
リング上では一方的な試合運びになっていた。
ノエくん一人にビリーさんもグレイさんもあしらわれていて、シェリーさんはライラによって簀巻きにされて闘技場の端っこに運ばれてたし。
識さんの放った雷撃がトドメで、見事に三人が戦闘不能。
「勝者、菊乃井万事屋春夏冬中!」
レフェリーの宣言によって試合終了。これにて準決勝はエストレージャ対菊乃井万事屋春夏冬中と相成った。
怪我の回復をすべく、希望の配達人パーティーへと近づくと三人とも謝りあっていて。
「あたしが油断したからだ……」
「違うって! オイラ達が弱かったからだよ!」
「そうだよ。シェリーはずっと頑張ってくれてた。おれ達がシェリーに頼るどころかもたれかかりすぎてたんだ!」
こんな感じ。
特に前衛の役目を果たせなかった男子二人は、かなり悔しいのか目が潤んでる。
それを見かねてか、菊乃井万事屋春夏冬中がやってきた。
「あのさ、そもそも何で君ら大会に出たの? 腕試し?」
無神経なまでに呑気な声でラシードさんが男子達に声をかける。するとしょんぼりしながら二人が顔を上げた。
「オイラ達、優勝したらシェリーの願いを叶えてやれると思って」
「シェリー、見習いの子達でも買える、あらかじめ色々ついてるローブがあればっていってたろ? おれらが優勝したら、それをご領主様に直接言えるじゃん。ローブ買ってもカスタマイズにするにはお金が要るんだ。そこまでたどり着く以前の子達もいるからって。菊乃井に来る前のおれ達がそうだった、それがずっと悔しかったってさ」
「二人とも……」
シェリーさんはそういうことを初めて聞いたのか、言葉を喪う。
それに対して、本当に能天気にラシードさんが親指で背後にいた私を差した。
「うちのご主人にその無念をぶつけてみろよ。そういうの大好物だから」
「誰が好物だ、誰が」
低い声で言ったはずなのに、周りのひよこちゃんを始め先生方や識さんやノエくんまで頷くのは何でなんだよ……!
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