三回戦への小休憩
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
旧年中はお世話になりました。
今年もよろしくお願いいたします。
次回の更新は、1/6です。
「いやー、負けた負けた!」
リングに大の字に倒れ伏したジークさんが豪快に笑いながら、負けを宣言した。
それに対する希望の配達人パーティーの三人も、肩で息をしてボロボロ。まさに死闘といったありさまだ。
奇襲でウォークライの魔術師シャナさんを沈黙させて、麻痺毒で杏さんを戦闘不能に追い込んだまでは良かったんだけど、その後ジークさん一人に希望の配達人パーティーは翻弄されて追い込まれたんだよね。
ビリーさんもグレイさんも、一人のジークさんに力負けして前衛を抜かれ、シェリーさんに肉薄されることも。
それでもシェリーさんが何とかなったのは、気絶させたシャナさんから魔力を奪い取って延々付与魔術と防御用の障壁と結界を張り続け、足りなくなったら杏さんからも魔力を略奪して対応したから。
粘りに粘ってジークさんの魔力が切れて、二人がかりのビリーさんとグレイさんの攻撃が通り始めた。
その結果シェリーさんの援護を受けて、ようやくジークさんをダウンさせられたっていう。
魔術師がやる対魔術師封殺戦法ってマジでエグい。
それは結局のところ同業だから解る怖さがあるからなんだよね。私でも最初はシャナさんを無力化することを考えるけど、魔力の略奪までは考えなかったな。
何故か?
私は魔力量が尋常じゃなく多いし、自動回復というか、相手からかけられた魔術を魔力として吸収出来る効果を持つ武器や装備を持っているから。外付けの魔力タンクとか要らないし邪魔なんだよ。
だけどシェリーさんはそうじゃなかった。だからこそ自分が使える札の中で、最大限自分の出来ることをすべく魔力の略奪を選んだわけだ。素晴らしい。
そんな見解を示すと、ロマノフ先生が頷く。
「格上の相手に真剣に勝ちをもぎ取りに行った希望の配達人パーティーの戦術の勝利ですね」
「そうだね。いかに相手に実力を出させないか、それが戦術ってものだ。彼らは見事だったね」
「まあ、異論は出るだろうけどね。だけど負けた本人達が笑ってるんだから、大丈夫かな?」
ラーラさんのコメントに頷きつつ、ヴィクトルさんがリングの上を見る。
そこではジークさんを三人が助け起こしてる光景が。
「あの……私達……」
シェリーさんが申し訳なさそうな顔をするのに、ジークさんが首を横に振る。
「卑怯だったなんて言わないでくれよ? どんな状況でも即座に対応してみせるのが冒険者の強さなんだから。この大会だって死者を出すことは許してないが、麻痺毒や毒の使用は許可されていたしな。大体自分が押し負けたのは、シャナと杏の魔力が高くて量が多かったからさ。仲間の強さを確認できて良かったよ」
「はい、あの、シャナさんの魔力がなきゃあたしの魔力はとうに尽きてました。杏さんもです!」
「私も麻痺毒耐性のある装備をしてたんだけど、貫通してくるとかビックリだよ」
「僕も。まさか猫の舌にあんな使い方が出来るなんて。魔術師の癖に魔術の使い方を考えなかった僕の負けだ。研鑽に努めるよ。それに前衛二人も、よくジークから彼女を守り切ったね」
「オイラ達はシェリーさえ守り切れば、どうにかなると思ってたから……」
「でも二人がかりなのにジークさんに振り回されっぱなしで危なかったっす」
麻痺が切れて近付いてきた杏さんや、気絶から回復したシャナさんも苦笑いだけれど、希望の配達人パーティーの勝利を讃える。
対してシェリーさんは元より、ビリーさんもグレイさんもホッとしたような感じ。
こうして大番狂わせの一戦は終了。
町の反応はと言えば。
『皆ちょっとの間、唖然としてた。つか、あんな戦い方知らないってさ』
「そりゃそうだろうね。猫の舌自体、復活したとはいえマイナー魔術だもの」
使いこなせれば有益なんだけど、それ自体は猫の舌の肌触りの触手がうごうごするだけの魔術だからね。廃れた理由も、うごうごさせる以外の使い方を考えられなかったからだろうさ。
でもこの戦いのあと以降は、さて?
ちょっと意外な結果に終わった第二試合だったけど、見ごたえは十分って感じかな。これだったらイシュト様も天で面白がってくださってるかも。
それにシェリーさんの魔術の使い方は、ロスマリウス様好みだったと思うんだよ。今頃「何だアレ!?」って、大笑いしてくださってる気がする。
今日は菊乃井冒険者頂上決戦の準決勝までが行われる。今日で明日前回チャンピオンのバーバリアンに挑む権利を得るチームが決まる訳だ。
ここまで来たら誰が勝っても盛り上がるんじゃないかな。
次の試合の組み合わせは、またくじ引きで決まる。
残ったのは識さん・ノエくん・ラシードさんの菊乃井万事屋春夏冬中チーム、統理殿下・シオン殿下・ブラダマンテさんの黎明の勇チーム、ロミオさん・ティボルトさん・マキューシオさんのエストレージャチーム、そしてシェリーさん・ビリーさん・グレイさんの希望の配達人チームだ。
二回戦の組み合わせを決める時と同様、代表者にクジを引いてもらった結果。
「……識ちゃんのとこと?」
「あちゃー……」
シェリーさんの顔がまた引き攣る。対して識さんは苦笑いだ。
だってこの二人お友達だもんね。オマケにシェリーさんのつけてるナジェズダさん付け襟は、識さんやノエくんとの縁がなければ彼女の手元には来ていない。
そしてビリーさんとグレイさんはノエくんから、いかに前衛としての役割を果たすかを教わってるそうそうだ。いずれやりにくい相手には違いない。
で、残ったチームの黎明の勇とエストレージャもお互い顔を引き攣らせていた。
「くじ運が悪すぎやしませんか、兄上……!」
「あー……えー……なんかスマン」
兄上大好きシオン殿下が、統理殿下に文句言ったよ。気持ちは解らないでもないけど、逆にチャンスじゃん?
優勝候補のエストレージャをぶっ潰せば、シオン殿下の「月のない夜に出歩けると思うなよ?」を邪魔者達に解らせるって目的は果たせるわけだから。
まあ、エストレージャは私の前では負けられないから難しいだろうけどな!
実際エストレージャは私の方を見て、それから皇子殿下方を見て、もう一回こっちを見てる。その顔が「まずい……」って言ってるんだよ。
勝手な忖度なんか絶対許さんからな?
そういう気持ちを込めてにこっと笑えば、エストレージャの三人はびしっと背筋を伸ばした。
愉快な第三試合になりそうだ。
組み合わせが決まったところで選手は皆休憩に入る。
さっきと同様に怪我の手当と体力の回復が私の役目なんだけど、今回は菊乃井万事屋春夏冬中以外が負傷アリっていう状態。
特にひどかったのがシェリーさん達の希望の配達人チームだ。
シェリーさんは怪我がないにしても魔力切れと体力切れ。ビリーさんとグレイさんに至っては打ち身切り傷ねん挫とオンパレードなわけだよ。
体力回復と怪我の回復は私の魔術で十分だけど、魔力切れに関してはそうはいかない。
なので魔力回復のために用意していた、特製グリーンスムージーを手渡す。
緑、しかもなんか粘つく。一口飲んだら喉に絡みつきそうなそれを前に、シェリーさんが凍り付いた。
「こ、これ、飲まないと駄目なんですか……?」
「ダメっていうか、魔力が回復しないで負ける可能性高くなりますね」
「うぅ」
「相手は識さんとノエくん、最近やる気に満ちてるラシードさんですよ? 魔力なしで勝てます?」
こてっと首を傾げると、レグルスくんも一緒に傾げる。
「うー、飲みます……」
「はい、頑張って」
差し出したそれはござる丸の葉っぱをすり潰して、水と禍雀蜂の蜂蜜でといたものだ。
プルプルしながら飲み干したシェリーさんは涙目で、彼女の背中をビリーさんとグレイさんが優しく擦ってる。
この三人はどこまで行けるんだろうな?
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




