盤面を引っ繰り返す意思
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ここまで三つの試合が終わった。
勝者は順当なような、そうでないような。
そんな感じの試合結果に、砦内も町の広場も盛り上がってるそうだ。
町の初心者冒険者達はシャムロック教官が負けてしまってどんよりしてたらしいけど、勝った統理殿下達もまた初心者の枠をでないってことで「もしかして自分達にもチャンスがあるのでは!?」って湧き上がったみたい。善き哉。
ただ、問題は次なんだよなー……。
二回戦第四試合の対戦カードは初心者冒険者講座出身にして期待のルーキー・希望の配達人パーティー対帝都よりエントリーのバーバリアンと同格の強さを誇る優勝候補の一つ・ウォークライだ。
当然、ここはウォークライの勝利になるだろう。それが概ねの予想だ。
位階も経験も、たしかにウォークライの方が上だしね。
希望の配達人は既に一回戦でウインドミルという中堅クラスのパーティーを破っている。十分よくやったって、観客達も選手達も思ってるわけだよ。
でもねー……。
「あのね、おもしろいのはここからだよ」
「そう?」
ひよこちゃんがすっごくワクワクしてるんだよね。
ということは、何かが起きるのかも知れない。
二組のパーティーがリング上で向かい合う。もうシェリーさん達ガチガチなんだよ。緊張が伝わってくる。
そんな希望の配達人パーティーを見かねてか、ジークさんが声をかけた。
「気軽にやろうじゃないか! 君達の戦いを見せてもらったが、なるほど。期待のルーキーの言葉に嘘はなさそうだ」
「へ!? え!? あ、ありがとうございます!」
「あざっす!」
「が、頑張ります!」
「そんなに緊張しないで? 楽しもうよ」
「そうだよ。君達を見ていると、昔の僕らを思い出すな……」
緊張で倒れそうなシェリーさん達に、杏さんやシャナさんも穏やかに声をかける。
それが穏やかだったから、少し緊張が解れたみたい。
大きく三人で深呼吸すると、シェリーさん達が声を揃えて「全力で行きます! 勝ちます!」と言うと、兵士達がどっと沸いた。好きなんだよね、うちの兵士達。こういう真っ向から向かって行くタイプ。
それはジークさん達もそうなのか、三人ともが一瞬呆気にとられた後大胆不敵な笑みを浮かべた。
「こちらこそ。君達は若いだけで油断できる相手じゃないからな!」
「本当だよね。痛くしても謝んないからね?」
「ああ、手加減は一切なしだ」
爽やか~! こういうのがいいんだよぉ!
ってわけで、試合開始の合図が。
同時に付与魔術が展開されるのは今までと同じなんだけど、手加減をしないっていうのは本当らしくてウォークライの魔術師シャナさんの魔術展開が半端なく早い。
彼も同時に魔術を二つほど展開出来るそうだけど、詠唱破棄っていうか途中で今やってる詠唱をキャンセルして、別の魔術の詠唱に入る。
詠唱をキャンセルされた魔術も発動はするんだけど、最後まで詠唱しきった場合に比べると威力は少し落ちるんだ。でも次々に付与を重ねるにはいい方法だよね。
対するシェリーさんも頑張ってはいるけど、質も量も追いついてない。
ジークさんはさっき見た身体強化の固有魔術版を使用して、前衛のビリーさんへと迫る。これにビリーさんは一人で対応しないといけない。だってグレイさんがシェリーさんを狙う杏さんへの対応に回ったから。
ジークさんのパンプアップっていうの? 巨大化した筋肉から繰り出される打撃は、一打一打がとんでもなく重いんだろう。剣の腹で拳を受け止めているビリーさんが、踏ん張っているのにずりずりと後退させられていて。
グレイさんも杏さんに翻弄されてる。素早い動きの彼女の攻撃をかわすのが精一杯。短剣が時々掠めて、こっちは切り傷を腕や顔に作っているほどだ。
このままじゃ、ジリ貧。
今はまだシャナさんが付与をかけてくるから本格的に動いちゃいない。だけど付与魔術をかけ終わったが最後、攻撃に転じてくるだろう。ドンドコ攻撃魔術を使われたら、シェリーさんが防ぐにも限界ってものがあるんだよ。
「ねぇ、あにうえだったらどうする?」
ひよこちゃんが目をキラキラしながら尋ねてくる。
「うーん。味方に付与かけてウォークライに弱体化かけつつ、シャナさんに魔封じかな?」
「あーたん、エグいよ……」
「え? 実力出せないようにするのがセオリーじゃないですか?」
ヴィクトルさんがひくっと口元を引き攣らせたけど、なんか間違ってる?
ジークさんは強いけど、面倒なのはシャナさんだからね。一番先に沈黙させないと。
そういうとひよこちゃんが「だよね!」と元気に頷く。
「おれ、シェリーさんたちに、さいしょはぜったいまじゅつしからやっつけるんだよっておしえておいたんだ!」
「そうなんだー? レグルスくん、先生みたいだね! かっこいいよ!」
えへへとレグルスくんが照れるけど、ラーラさんとロマノフ先生が何か言いたそうにしてる。間違ってないよー! 魔術師を最初に狙うのは当たり前なんだよー!
ひよこちゃんの髪の毛を撫でていると、観客がどよめいた。
見ればビリーさんがジークさんの拳を受け止めきれずにとうとう体勢を崩すところで。
この機を逃さずジークさんが畳みかけるべく、大きく拳を振り上げた。
同じころ、グレイさんをすり抜けた杏さんがナイフをシェリーさんへと投擲する。
それぞれの攻撃がビリーさんやシェリーさんへ届く刹那、二人の姿が消えた。
「え……?」
当然大きく拳を振りかぶったジークさんは、つきすぎた勢いに負けて体勢を崩す。杏さんもまた、突然シェリーさんが消えて虚を突かれたようで。グレイさんのナイフがその肌を掠めたことに慌てて距離を取る。
その背後で。
「うわぁ!?」
目を点にしていた観客の目の前で、足元から飛び出してきたビリーさんから、顎にアッパーを決められて身体が地面から浮くシャナさんの姿が。
上手く顎に入ったお蔭で脳震盪を起こしたのか、吹っ飛ばされるままのシャナさんの身体を黒い触手が捕らえた。
その触手の根元、リングに開いた異空間に繋がるシェリーさんが顔を出す。
しーんっと、会場が静まり返った次の瞬間、杏さんが悲鳴をあげて倒れた。
「しまった……!? ジークッ!? 麻痺、どく、くらっ、た!」
「なんと!?」
驚きに満ちたジークさんの声を、打ち消すほどの歓声が会場に満ちる。
あっという間に事態が変わったのだ。
「え、えー? もしかしてシェリーさん達、猫の舌の亜空間を使って魔術師君の足元に移動したの?」
「そんなことができるのかい!?」
ヴィクトルさんとラーラさんが鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、私に水を向ける。向けられた私の見解としては「是」だ。
猫の舌は影があるところであれば、異空間を伝って影から影へと触手を移動させることが出来る。その使い方で夏休みの模擬戦においてにシオン殿下を拘束した。更にその後雪樹において生物を絡みとって影の中にナイナイするってのもやったし。
それを応用すれば自らを触手に絡みとらせて、指定した人物の影の中、つまり足元に移動が可能となる。
となると。
「レグルスくん、もしかして猫の舌の使い方も教えてあげた?」
「うぅん。おれはあにうえのまじゅつのつかいかたを、シェリーさんにみせてあげただけだよ」
「へぇ。じゃあ、あれは……」
シェリーさんが私の戦闘記録を参考に、オリジナルで使い方を考え出したのか。ふーん?
これはちょっといい感じの逸材を見つけたかもしれないなぁ。
「あにうえ、なにかおもいついたの!? かっこいいおかおしてる!」
知らずに笑っていたらしい。
ひよこちゃんがキャッキャ大はしゃぎしてくれた。
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