星の真の輝きとは
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次回の更新は、12/30です。
二回戦も折り返し、残るは二試合。
黎明の勇は勝ったのはいいけど泥だらけで、統理殿下もブラダマンテさんも苦笑いしつつリングを下りて行った。
選手が泥だらけだったらリングもそうなんだよね。
泥を掃除するための少しの中断を挟んで第三試合と相成って。
続いての対戦カードは優勝候補同士のぶつかり合いだ。
コーサラからのエントリー、位階は上の中バイラヴァチームと、冒険者の星・エストレージャ。
実力的には拮抗しているし、パーティー構成もバイラヴァとエストレージャはよく似ている。剣士に盾役になれる槍使い、そして魔術の使える素早い斥候役の三人構成だ。ついでに全員男性で、年の頃も似たような感じ。
一回戦では菊乃井の初心者冒険者講座からのエントリーの人達に当たったんだけど、これがもう文字通り赤子の手を捻るって感じの試合運び。
それも若い子達だったんだよね。
そんな彼らにバイラヴァの皆さんは「落ち込むことはないさ。君達が弱かったんじゃない。我々が君達より強かっただけ。経験を詰みなさい。それが武器になる」なんて諭してさ。
若い子の中に女の子がいたんだけど、おめめがハートになってたな……。
エストレージャも紳士的な振舞いが出来るように勉強してもらったけど、バイラヴァの皆さんのあれは自前だ。
オブライエンが仕入れてきた裏情報によると、バイラヴァの皆さんコーサラのいいとこの訳あり子息らしい。
素行が悪いという意味でなく、妾腹とかそういうアレ。家にいさせられない、かつ表舞台で活躍されても困る。そんな立場の人達みたいだ。
冒険者の立場がいかに軽んじられてるかだよ。名前を挙げて真っ当に生きていても表舞台に立てない人みたいな、ね。
だから私としては彼らにも有名になってほしくはある。だけどエストレージャも色んな人の期待を背負ってるんだから頑張ってほしい。
なんて思っていると、エストレージャの三人が声援を受けてリングにやってくる。
この砦で訓練してることが多いエストレージャは、兵士達には最早身内扱いだ。だからか「負けたら埋めるぞー!」とか言われてる。どこに……? 畑? 畑か?
ヤジに苦笑いしていると、ロミオさんが私達兄弟にリングから凄く良い笑顔で剣を掲げて見せた。
「俺達、今年こそあの虎男の皮を剥いでご覧に入れますから!」
「ジャヤンタさんの毛皮はいらないかな!?」
「そうですか? じゃあ、生皮を」
「それもいらないかな!?」
なんでこう考えることがアレなのか。紳士は何処に行ったんだ? っていうか、何で皮剥ぐのにこだわるの?
「主は敵の毛を毟るのが趣味で、臣下は皮を剥ぐのにこだわりが……」
「なんですって……?」
ロマノフ先生の呟きに真顔になったけど、どんなサイコホラー主従なんだよ。嫌すぎるわ。
そういうやり取りに、エストレージャとは反対の出入り口からやってきたバイラヴァの皆さんが苦笑いを浮かべる。
「あの……菊乃井閣下は……特殊なご趣味が?」
「ないですよ!? 毛を毟るっていうのは比喩的なアレソレですから!」
「ですよね……」
リーダーの犬耳にフッサフサの尻尾の白髪の青年……たしか名前はアヴィニャシュさん……は、納得してるのかそうでもないのか頷く。
その脇を固めるのが猪族の人らしく、尻尾がチョロンと可愛く巻いてるでっかい男性で、名前はアミットさん。それとネズミの耳と尻尾の小柄な少年っぽいアニルさんだ。
このパーティー、優しそうだしシゴデキっぽい雰囲気が凄い。
レフェリーが二組を呼ぶ前に自ずから整列した上に、互いを讃えるように握手を交わす。
そして「始め!」の声に合わせて全員がいったん距離を取ると、構えて相手の隙を窺う。
この組は残念だけど各々身体強化は全員使えるけど、他人に強化も弱体化もかけられるほどの使い手はいない。
槍は槍同士、剣は剣同士で打ち合い、身軽な斥候は遊撃手として何処かの補助。そんな感じの試合展開が予想される。だって剣で槍とやり合うとか、間合いの問題で不利なんだよ。
だけど、だ。
バイラヴァの斥候であるアニルさんがその身軽さを生かして、エストレージャの槍使い・ティボルトさんの懐へと槍の間合いを素早く越えてきたのは流石なんだけど、でもそのままやられるエストレージャではなくて。
ティボルトさんの懐にアニルさんのナイフが届く前に、ロミオさんが剣で切っ先を弾く。ロミオさんが相手にしていたはずのアヴィニャシュさんは、マキューシオさんが放った氷の礫で攻撃を阻まれロミオさんを取り逃がした形だ。
そのロミオさんはアニルさんを打つべく剣を振るう。その刃を髪一筋で避けてさっとアニルさんは盾役のアミットさんの後ろに。アミットさんは追いすがるロミオさんとティボルトさんを纏めて槍の一振りで距離を取らせる。
刹那の攻防に、これだけの動きがみられるのは流石の一語だ。ひよこちゃんがワックワクで、おめめキラキラだもの。
「あにうえ! ロミオさんたちまたつよくなったんだね!」
「レグルスくんから見て、どう?」
「うーんと、どっちもつよいよ!」
「そっかぁ」
つまりこっちはどっちが勝ってもおかしくないってとこか。
実力ややれることが拮抗しているなら、あとは何が勝負を分かつのか? 運? 違うね。運よりもっと前に使うものがある。
じっとリングを見ていると、視線に気が付いたのかエストレージャの三人がチラリと私を窺う。
私が選んだ星はこんなものではないだろう。星の真価を見せろ。
返す視線にそういう気持ちを込めると、三人とも重く頷く。
実力が伯仲している者達同士、隙を窺う睨み合いが続いて。
そのとき、一羽の大きな鳥の翼が太陽を遮る。それが合図のように二組のパーティーが動いた。
ティボルトさんとロミオさんがアヴィニャシュさんを同時に狙ったのに対応して、アヴィニャシュさんとアニルさんが動く。
がら空きになったアミットさんがその槍の間合いを生かしてマキューシオさんに迫った。
一足飛びに距離を狭めるべく巨体をものともせずに大きく跳躍したアミットさんが、その足を地面につけたその刹那。
ドン!
大きな音を立てて彼の足元が深く崩れた。体重を乗せた足は崩れるままに、地面にそのまま埋もれていく。その上を塞ぐように、巨大な氷の板がドンッとリングに開いた深い穴の上に落とされた。生き埋めだ。
「アミットッ!?」
突然視界から消えた仲間の名を呼ばわると、即座にアニルさんが走り様氷を溶かすべく炎の魔術を繰り出す。けど、槍の石突をティボルトさんがドンッと地面に打ち付けて凍らせると、その炎で残ったバイラヴァのメンバー達の足元がぬかるむ。
勢い込んで走る人の足元がぬかるめば、滑りやすくなるわけだよ。
案の定泥を踏んで体勢を崩したアニルさんをロミオさんの剣が容赦なく襲う。その援護に回ろうとしたアヴィニャシュさんを、投げナイフでマキューシオさんが牽制して。
槍を構え直したティボルトさんが投げナイフで足元を危うくされたアヴィニャシュさんに、遠心力を付けるべく大きく振り回した槍を叩きつける。
瞬きする間に起こる攻防に、ひよこちゃんが「どっちもがんばれー!」と大きく声援を上げた。
僅かの転機で勝敗が決する。
実力が拮抗する者同士は、その一瞬の分け目が恐ろしいんだ。
「あれは……夏に砦での模擬戦で、君達フォルティスがエストレージャや皇子殿下方を引っ掛けたやり方と似てますね」
「覚えていて、それを応用したんでしょう」
ロマノフ先生がにやっと訳知り顔で笑う。
経験したことを学びとして次へと活かす。これが私の見つけた星の真価、そして菊乃井の領民全てが持つ輝きだ。
やがてバイラヴァの三人がそれぞれリングに沈み、レフェリーがエストレージャの勝ちを宣言する。
砦の兵士たちの歓声の中で、エストレージャの三人が誇らしげに胸を張った。
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