一筋縄ではいかない職業の頂点
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次回の更新は、12/23です。
二回戦第一試合は菊乃井万事屋春夏冬中と菊乃井成り上がり隊。
ベテラン冒険者の晴さんと帝都の武闘会で優勝したチームのメンバーだった威龍さんとベルジュラックさんのトリオに、菊乃井ではまだ新参かつ初心者冒険者の識さんとノエくんと、地道に依頼を受けてどうにか中の中まできたラシードさんのトリオが向かい合う。
でも大概の冒険者は知ってるんだ。
ノエくんと識さんが私達フォルティスメンバーと組んで、伝承級のアンデッドを倒したこと。そして戦力として添え物でなく、きちんと貢献してたってことを。
最近菊乃井の冒険者達は、彼らや私達フォルティスをして「位階詐欺(笑)」って呼んでるらしい。人聞き悪いんだけど、そこにあるのは悪意じゃなくて「早く位階をあげなされ」っていう応援とかそういうことみたい。
なので当然晴さんも威龍さんもベルジュラックさんも、相手を見る目に緊張感がある。対する菊乃井万事屋春夏冬中チームはいつも通り。
この辺はアレよ。
焦っても顔に出すな、笑え。
ラシードさんにはそう教えてるからだな。
さて、どうなるやら。
この対戦カードにはエルフ先生達も興味津々みたいで。
「経験は晴さんたちが勝りますが、その辺りを魔術でどう補ってくるのか……」
「そうだね。サンダーバード達はノエや識やらラシードほど魔術耐性がない」
「魔術に関してはラシードたんは元より、しーたんだね。叔父様が『強い』っていうだけはあるよ」
ロマノフ先生もラーラさんもヴィクトルさんもこんな感じ。
魔術師のいるチームは、いかに魔術師を無効化するかで制圧の難易度が変わる。
ただ魔術師って、総じて魔術使ってるときは詠唱とかで集中しないといけないので、動けなくなることが多い。動けないからって重装備にすると更に動けないから、前衛が抜かれたら的になっちゃうしね。
襲われたら詠唱を中止して逃げるにしても、重装備だとやっぱり動けないから軽装にするじゃん? そうしたら今度は防御力が心許なくなっちゃうわけだよ。痛し痒し。
その点識さんの何が怖いって、一回戦の試合でも見たように動けるんだよ。物理もいける魔術師ってそれだけで脅威になるんだ。
まあ、それでも無力化する方法がないわけじゃないし、圧倒的力量差があれば何とでも。
レフェリーの「始め!」に合わせて、それぞれが構える。
晴さんにしても威龍さんとベルジュラックさんにしても前衛なんだよ。それに向かうは同じく剣士のノエくんと中衛のラシードさん……のはずだったんだけど。
「ノエくん! ラシードくん! フォーメーションα!」
「「了解!!」」
という掛け声に、ノエくんが向かって来る晴さん達の目の前でジャンプして、大きな翼を広げて空に舞う。
その隙にラシードさんは識さんと合流。そしてライラを片手に抱っこすると、識さんが出してたエラトマから手を離した。
疑問に思う前にエラトマが識さんの背中で翼になったと同時に、ラシードさんをお姫様抱っこしてノエくんのいる空へ。
「ライラ!」
鋭いラシードさんの声に、菊乃井成り上がり隊の上空から一気にライラが蜘蛛の糸を射出。
「え!? ちょ!? きゃぁぁぁっ!? こんなの! ありー!?」
「お!? うわ!? 動けなっ!?」
「何のぉ!? これしっ!? うぉ!?」
トリモチのような効果を持つ糸を浴びせられて、三人が藻掻く。
名のある冒険者の三人がそれぐらいで怯むはずもないんだけど、そこはそれ。ラシードさんが重力制御の魔術をガンガンかけて、更にその効果を増すべくノエくんが付与魔術をドンドコかけて。
「わぁ……」
「エグい。流石魔術師エグい。超エグい」
思わずひよこちゃんと一緒に真顔になっちゃったわけだけど、こういう戦い方がアカンとは言ってないんだよなぁ。寧ろ引っかかる方が悪いってのが冒険者の認識なわけだ。
オマケにラシードさんが使ってる重力魔術、覚えがあるしな。
アレ、私が教えたやつ。シオン殿下が使って来るだろう、矢を分裂させて雨あられと注いでくる技への対抗策だったんだけど。
ていうか、制空権取ると強いなぁ。
ライラが出す糸で三人の姿が見えなくなるほど真っ白になったけど、重力魔術で地面に縫い付けられた三人の手だけは藻掻いてるのが見える。
どうにか立ち上がろうとするんだけど、どうにもならずに徐々にその動きが弱くなっていく。
それに対してレフェリーが「ギブアップするか?」と聞くんだけど、暫くは手を振って拒否。だけどその手がパタッと力尽きて地面に落ちたのを見て、レフェリーがカウントを取る。
テンカウント後レフェリーが菊乃井万事屋春夏冬中チームの勝利を宣言。
するとすぐに蜘蛛の糸をノエくんが切り払った。
蜘蛛の糸の下から、気絶している晴さんや威龍さん、ベルジュラックさんが医療班によって運び出されていく。
「あれは……作戦勝ちですね」
「ラシードたんかな、ああいうこと考えるの?」
「いやぁ、識じゃないかな? 叔父様も結構アレだからね」
エルフ三先生の会話にそっと目を逸らす。
若干ブーイングがないわけじゃないけど、基本冒険者の戦いはなんでもありってのがセオリーだ。こういう勝ち方も悪くはない。
拍手やモロモロを背に受けて、菊乃井万事屋春夏冬中チームがリングを下りる。
ふと目が合った識さんとラシードさんがにやりと悪いお顔で笑っているのが見えた。ノエくんは苦笑してるけど。
えぇっと、うん、解った。この作戦は二人で考えたわけだ。
という訳で、少し呆気なく第一試合は終了。
次はどのカードかというと。
「ラシード達はまともに相手に戦わせない策を取ったんだな」
「最上は相手の土俵に乗らないことですもんね」
「流石に空は意識の外でした。思い込みは油断に通じますね」
控室から出てきた皇子殿下方とブラダマンテさんが、リング横の私達に気が付いて声をかけてくる。
「冒険者の頂点を決める戦いですからね。お行儀の良い戦いや真正面からだけの勝負なんかあり得ない。心技体全てで勝ちをもぎ取りに行ってもらわないと」
ニッと笑えば、皇子殿下方が肩をすくめる。ブラダマンテさんは穏やかに微笑みを浮かべつつ、反対側の出入り口からリングに近付く対戦相手のリベンジャーズチームへと視線をやった。
「でも、良いものを見せていただきました。彼方にも制空権を取りにいける方がいますものね」
「ああ、イフラースさんですね」
イフラースさんも魔物使い。彼も奈落蜘蛛のアメナと契約してるけど、連れて来ているのはグリフォンのガーリーだ。
さっきのような戦い方はしてこないにせよ、空から来る敵の相手はちょっと難しい。
そうは言っても皇子殿下方とブラダマンテさんだもんな。何とかする術はあるんだろう。
ひよこちゃんが三人に「がんばってね」と声をかける横で、静かに私の横に立つ人影が。
冒険者として大会に登録しているのに、律儀に貴族社会の決まりを守って私の言葉を待っている。
「お久しぶりですね、リートベルク隊長」
「は、お久しぶりで御座います、菊乃井侯爵閣下。此度はこのような機会をいただけて」
「私は冒険者頂上決戦を主催しただけ。機会は貴方がもぎ取るものです」
ひよこちゃんと戦いたかったら、己の主人達を負かしてこい。
言外の含みに気が付いたのか、リートベルク隊長がリングに強い視線を向ける。そこにいる皇子殿下方とブラダマンテさんは、その強い視線に怯むことなく。
それどころか同じ強さでリートベルク隊長を見ていた。
「あんまり力むもんじゃないですよ」
ポンっとリートベルク隊長の肩をシャムロック教官が叩く。
なんというか、ここでも問題児の引率っぽいな。
視線にお疲れ様ですと労りを込めると、教官は穏やかに笑う。
第二試合が始まった。
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