インターバル、戦士の休息
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次回の更新は、12/20です。
結局のところ武神山派は、ウォークライに一歩及ばず。
というか、ジークさんに吹っ飛ばされたところを杏さんとシャナさんに追い打ちかけられて敗退。
いや、強かったんだよ? 強かったんだけど、説得力が出ないくらいジークさんが強かった。
あの筋肉、まるでオリハルコンかってくらいカッチカチ。槍も剣も全くと言って通じない。拳なんかもっとだよ。
ジークさんの腹を殴ったはずの武闘家さんの拳が割れてたんだから、お察し。
だからってシャナさんや杏さんが活躍しないかっていうとそうでなく。
杏さんは無駄のない動きで槍を短剣ではじき返しつつ、その懐に潜り込んで魔術を叩き込んでたし、シャナさんも炎系統の詠唱しつつ、氷系統の魔術を出すなんてトリッキーなことをやってた。
見事なチームワークだよね。
で、そういう試合が続くと普通の試合があっさり終わった感が凄い。
だってエストレージャもそうだけど皇子殿下とブラダマンテさんのチーム・黎明の勇、シャムロック教官とイフラースさん、そして帝都の近衛の隊長・リートベルク隊長の「リベンジャーズ」チームなんか、かなりカッコイイ試合展開だったはずなのに覚えてないんだから。
とはいえ濃ゆいものを見せられると、そうでもない試合に安心するよね……。
順当に次の二回戦へ進んだのは、八チーム。
識さん達の菊乃井万事屋春夏冬中チーム、晴さん達の菊乃井成り上がり隊チーム、シェリーさん達の希望の配達人チーム、ジークさん達のウォークライチーム、エストレージャチーム、皇子殿下方の黎明の勇チーム、シャムロック教官達のリベンジャーズチーム、そしてコーサラからのエントリーの「バイラヴァ」チームだ。
下馬評で優勝候補の一つだったシェヘラザードが一回戦で消え、良いところまで行くだろうと思われていたウインドミルも消え。
残るは菊乃井エントリー組が大半だ。
二回戦はくじ引きで対戦相手が決まる。
休憩前に出場者の代表に集まってもらって、クジを引いてもらった。結果はなんというか、エグいことに。
対戦カードはこちら。
菊乃井万事屋春夏冬中チーム対菊乃井成り上がり隊チーム、黎明の勇チーム対リベンジャーズチーム、エストレージャ対バイラヴァチーム、そして。
「エグい……」
「あー……」
「うっわぁ……」
ほとんどのチームの代表者が心配そうな顔で見つめる先で、真っ青な顔のシェリーさん。その彼女の背を支える、同じくらい真っ青な顔のビリーさんとグレイさん。
シェリーさんの手の中にあるクジが示す対戦相手は、なんと優勝候補のウォークライだった。
でもグッとクジを握り直したシェリーさんも、彼女を支える二人の少年も怖じ気づいた様子はなく。
「あたしたち、初心者なんだから勝てなくて当然! 寧ろ稽古つけてもらえるんだって有難がろうよ!」
「ああ! これも修行だ!」
「ウッス! 頑張るぞ!!」
三人が「おー!!」と腕を天に突き上げる。
それで、彼女達とは違った意味で暗くなってるチームが一つ。それとは対照的に、目が笑ってるようで笑ってないのが一人。
「リートベルク、お互い全力を尽くそう」
「は……!」
畏まるリートベルク隊長に統理殿下が声をかける。声をかけられたリートベルク隊長は物凄く顔色が良くない。だってシオン殿下の目が全然笑ってないから。
うん、まあ、シオン殿下の思惑通りには何事も運ばないんだよ。
いうてリートベルク隊長一人で戦うわけでなし。
イフラースさんとシャムロック教官は皇子殿下方に遠慮する理由はない。だって当たったら全力でやらないと、その方が不敬って言ってあるもん。
私の目の届く範囲で勝手に権力に忖度してみろ。その後が大変なのも、菊乃井の住民である二人は知ってるわけだ。特にイフラースさんは私にジャンピング土下座まで披露したことのある人だし。
くじ引きが終わって悲喜こもごも。
この間に負傷者の手当を全力で医療班がやる。主に私が。
痛くない、かつ、体力も回復する回復魔術の使い手って多くないからね。
各チームの控室を回って、体力消耗の激しい人がいないか、怪我人がいないか確認。
結構酷いのは晴さんのチームで、威龍さんの骨折と全員の体力の回復をお願いされた。
「あの、アギレラさんですけど」
「ああ、なんかいっつも突っかかってくるんだよね」
回復しても鳩尾に違和感が残るのか、晴さんはその辺りを擦ってる。そんな晴さんに、一緒に来ていたひよこちゃんが声をかけた。
「あのね、あのアギレラさん?」
「うん?」
「晴さんとおともだちになりたいんだとおもう」
「えー?」
晴さんは嫌そうな顔だけど、私も頷く。
あの人の言葉はたしかに棘があったけど、「私が声をかけてるのに」ってそういうことじゃないの?
言葉の棘の酷い人の気持ちを推し量ってあげる必要はないけど、なんか駄々っ子が地団太踏んでる感じがして。
それを伝えると、ベルジュラックさんが頷いた。
「俺達のことをどうこう言ったのも、貴方を心配したからじゃないか? 身元の分からない男と若い娘の組み合わせは良くないと、俺も長老から気を付けるように言われていた」
「そうですね。某も疚しいことはなくとも、そういうふうに見られることもあると巫女の大ババ様から言われました」
威龍さんも穏やかに晴さんに告げる。
「晴さんが嫌なら無理強いはしませんけど、話してみたらどうでしょう? 二人の身元についてとやかく言うのであれば、私の名前を出していただいて大丈夫ですよ」
「そうねぇ。この大会が終わったら話してみるよ」
にかっと晴さんが笑う。
どこかベルジュラックさんや威龍さんがホッとした雰囲気を醸してたけど、あのキャットファイトを目の当たりにすると分からなくはないかな。アレは強烈だった。
威龍さんも骨折はきちんと回復したようなので、二回戦に支障はなさそう。
他も先生方が見回ってくれたけど、皆次の試合に燃えているそうだ。
二回戦の第一カードは菊乃井万事屋春夏冬中対菊乃井成り上がり隊から始まる。
両者とも菊乃井の名を冠してるので、番狂わせをするのであればどちらかが準決勝なり決勝なりに行ってもらえたらいいんじゃないかな?
見回り回復を終えた私もちょっと休憩。
奏くんから通信が入ってきた。
『すげえ、盛り上がってきたぞ?』
「本当に?」
『うん。だってほらシェリーさんチームが中堅のおっちゃん達に勝ったろ? 初心者冒険者講座の受講生が喜んでる。あとシャムロック教官も流石だったし』
「あー」
『ただ次がな……』
そうなんだよ。
シェリーさんのチームはなんと優勝候補のウォークライだ。冒険者の位階はバーバリアンと同じの上の上。
冒険者の位階は強さは二の次っていっても、強くなきゃ上級には上がれないんだ。文句なしに強いんだよ。
けどこの猛者の集う大会で中堅クラスのベテラン冒険者、それも海の向こうでは名の知れたパーティー相手に勝ったんだ。大健闘じゃん。
『だけどここまで波乱があるなら、もっと大番狂わせがあってもよくね?』
「まぁねぇ」
あははと笑えば、じっとひよこちゃんが私を見ているのに気が付く。
「どうしたの?」
「うん? あのね、おもしろいことがおこるよ」
「へ?」
ひよこちゃんの空に溶けてしまいそうな青い目が、きらっと不思議な光を弾く。
どういうことか測りかねていると、武闘会再開のアナウンスが入った。するとひよこちゃんが私の手を引っ張る。
「いこ! つぎはどうなるかな?」
「そうだねぇ、バランスは晴さん達が取れてそうだけど……魔術は識さんやラシードさんがいるし、ノエくんもなかなかだからね」
きゃっきゃするレグルスくんからはもう、あの不思議な光は消えていた。
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