天下一じゃなく地方一武闘会、開始。
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次回の更新は、12/6です。
「皆さん、この武闘会は菊乃井における冒険者の頂点を決める武闘会であると同時に、皆さんを広くお守りくださる武神・イシュト様、魔術の神・ロスマリウス様への神事となります。誰が相手でも礼を持って全力で当たること。それを神様も嘉したもうことでしょう。皆さん頑張ってください!」
マジで、本当に頑張って。
この一戦に興亡がどうとかは言わないけど、神聖魔術に色々関わってくる気がするから頑張って。
菊乃井から出る人達はある程度事情を知ってる人達が多いから面構えが違う……ってわけじゃなくて、単に血の気多いんだよなー。
レグルスくんからも「みんながんばってね!」と激励されて、「おー!」と大きな声が上がる。
バーバリアンの三人が派手に手を挙げてチャンピオンであることを示すと、エストレージャのロミオさんがジャヤンタさんを指差す。
「今度こそ虎狩りだ!」
「ざけんな! お前こそ丸刈りだわ!」
去年は相打ちだったもんね。
そんなじゃれ合いに、会場で見学している兵士や観客から指笛やヤジが飛ぶ。
「やっちまえー!」とか「今年こそ勝てよー!」とか、私がいるから節度あるヤジって感じ。
そんな去年の出場者の様子に、今年初出場の人達もワイワイやってる。これはこれでモチベとかが上がるんならいいや。
リングから急いで降りると、第一試合の出場者が残る。
リングの上には識さんとノエくん、それからラシードさん。相手はというと……。
「え? どこ?」
リングサイドに戻って小声でレグルスくんに聞くと、同じく小さい声で「ブラダマンテさんのおともだち」と返してくれる。
マリアさんのミニコンサートで司会を務めてくれた人は、今度はレフェリーをやってくれるようだ。
その人が大きな声でリングの左側に並んだ識さんやノエくんのパーティーを紹介し、その後で楼蘭の衛士隊のパーティーを紹介する。これがまた。
識さん達のパーティーの「菊乃井万事屋春夏冬中」って名前もちょっと何だかなって感じだけど、楼蘭の衛士隊「楼蘭衛士隊冒険同好部」ってなんだ? 部活か? 部活なのか?
いや、識さん達のパーティーだけじゃなくって、今回急拵えチーム多いから変な名前のパーティー多いんだよ。
皇子殿下方とブラダマンテさんとことかは普通に「黎明の勇」なのにな。
ついつい遠いところを見るような目になっていると、レフェリーの手が「始め!!」の声とともに振り下ろされる。
さてと、どうなるかなぁ。
ノエくんは剣士で前衛、後衛の魔術師である識さんを守るように中衛にラシードさんと魔女蜘蛛ライラ。
魔物使いの魔物は一匹だけ連れて来れる制限の中で、ライラを選んだのは連携がうまく取れるからとか気心知れてるからとかじゃなく。
たっと衛士隊の剣士が駆け出す。迎え撃つように動いたノエくんとラシードさんに、識さんが補助魔術をかけて能力の底上げ。
向こうも同じく魔術師が魔術をかけ、ノエくんとラシードさんの連携を乱すべく射手が弓を射る。
けれどラシードさんの手がひらっと振られると、ライラが飛んでくる矢を全て蜘蛛の糸で落とした。
かと思うと、無数の蜘蛛の糸を敵に向かって放つ。視界が真っ白だ。
敵の剣士がノエくんと切り結んでいるうちに、ラシードさんが前に出て前線を押し上げる。それに対応すべく弓をしまった遊撃手がナイフを構えて前に出ようとした瞬間。
「えーい!」
蜘蛛の糸の弾幕から気合いを入れて識さんが飛び出し、一足飛びに遊撃手にロッドを振り下ろした。
ゴスっと顔面にロッドの側面が叩きつけられる。あれは痛い。思いきり入ったせいか、相手はリングに轟沈。動けない。
まさか魔術師が飛び出してきた挙句物理だとは思わなかったのか、一瞬動きを止めた相手側の魔術師にラシードさんが鞭を振る。
とはいえ、相手もただではやられない。
物理障壁を一瞬で展開したのは見事。だけど相手が悪かった。あの鞭【貫通】ついてんねん……。
べきっと普通は立たない音で物理障壁を割った鞭が、魔術師の身体を強かに打つ。吹っ飛ばされた魔術師はリングから落ちて気絶。戦闘続行不可だ。
仲間がやられたことに焦ったのか、残った剣士が大きく剣をノエくんに向かって振りかぶった。
けどもそこのパーティー、一対一が基本とか思ってないんですよねー……。
「次の一手で終わりかな」
「うん。ラシードくんがライラにけんをとりあげさせておわりだとおもう」
小さな声で二人で話していると、ラシードさんが「ライラ!」と叫ぶ。
するとライラが糸を使って剣士から剣を取り上げてしまった。慌てる剣士だけど、もう遅い。
ノエくんの切り払いが見事に胴に入って、剣士が倒れ伏す。起き上がろうとしても無理な様子の衛士を見つつ、レフェリーがカウントに入った。
数えることテンカウント。
「勝者、菊乃井万事屋春夏冬中!」
わぁっと歓声が起きる。
見ごたえ的にどうなんだろうな? 勝敗は予定調和だと思うけど。
そんなことを考えていると、プシュケから奏くんの声が聞こえてきた。
『識姉ちゃん達勝ったな』
「うん。そっち、どう? 盛り上がってる?」
『あー、うん。何かめっちゃ落ち込んでる団体いるけど。多分楼蘭の人達』
「そうなんだ……」
『うん。何か帝都でも勝てない、菊乃井でも勝てないとは……って嘆いてる』
「あー……」
ちゃうねん。
衛士さん達は実力がないんじゃなくて、くじ運がないんだ。
じゃなかったら、帝都の大会でエストレージャにあたるわ、火神教団の歴代でもお強い教主様方のアンデッドにあたるわ、今回の大会でドラゴニュートの勇者の末裔やら古の邪神を封じた武器の保持者とか、南アマルナの隠された王子とかと当たるはずない。どんな当たり判定なんだ、逆に。
そっと視線をリングから逸らすと、ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんがいつの間にか傍に来ていたことに気が付く。
「順当な結果ですね」
「だよね」
「ラシードだけでも勝てた相手ではあるからね。ライラも手加減が上手になったもんだ」
にこやかに話してるのに、視線が明後日に飛んでいく。
まあ、冒険者の階級的に識さんやノエくん、ラシードさんのチームは初心者だし、この武闘会に参加するためだけに結成された楼蘭のチームだって初心者だ。初心者同士の対戦だし、結果は順当だと思おう。
衛士隊はこういうときのために控えている衛生班に、医務室へと運ばれて行った。
菊乃井万事屋チームはリングを下りて控室へ。
次のチームはどこかっていうと、晴さんとその後ろに威龍さんとベルジュラックさん。向かいから対戦チームとして現れたのはシェヘラザードからのエントリーチームで。
その内の一人の女性、真っ黒い……何だろうな? 黒光りする革みたい材質で作ったほぼ紐。紐で胸とお尻をちょっとだけ隠してるって感じの服に、踵の高いこれまた黒い革のブーツ。ベルトが足や腕に巻かれてて、なんだっけボンテージっていうの? そういう服のお姉さんが、晴さんを指差した。
「今日こそどっちが優れてるか、はっきりさせようじゃない?」
「……いや、私、貴方に興味ないんだけど……」
げそっとした晴さんに、後から威龍さんとベルジュラックさんの視線が刺さってるのが解る。
人のファッションセンスにアレコレ言うのは野暮の極みって思うんだけど、ああいうのちょっと破けたり脱げたりお腹冷えたりが心配なんだよなー……。
晴さんを指差した女性の後ろにも人が二人。
一人は頭からフードをすっぽり被った、魔力の循環から考えて魔術師だろう人。フードで全身をすっぽり覆ってるから性別は不明。もう一人は武闘家なのか手には打撃用のグローブ、筋肉質な身体を見せつけるように薄手のシャツにパツパツのズボンって感じ。
晴さんの言葉をものともせず、紐のような服を纏った女性は高笑いする。
「アンタに勝って、この大会で優勝して、この美貌を Effet・Papillonの宣伝に使わせてあげるの! 全世界、私の美しさにひれ伏すがいい!」
濃ゆい濃ゆい。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




