菊乃井春の大感謝祭、開幕!
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菊乃井にもある合祀神殿の鐘が高らかに鳴る。
町に住まう領民の全てが自宅から出て、近くに設置された遠距離映像通信魔術用の布の前に集まっていることだろう。
私も今は砦に設置された遠距離映像通信魔術用の布の前に、砦の兵士たちと立っていた。
隣にはレグルスくんがいて、その反対の隣側にはロマノフ先生。
ヴィクトルさんやラーラさんも傍にいて、ちょっとした熱気が辺りを満たす。
神殿の鐘の音が途切れた後、ふわっとスクリーンの中の映像が切り替わって光が布から溢れ刺した。
スクリーンの中は美しい装飾と聖堂の光景になり、ずらっと白い服を着た沢山の男女がお行儀よく上段下段に別れて並ぶ。
その真ん中、仕立ての良さそうな白いローブを纏った人が手を挙げた。
すると聖堂の装飾の一部のような造りになっているパイプオルガンが、聖堂の空気を震わせる。
曲はマグメルに伝わる聖歌。
未曽有の苦難に襲われて外つ国からマグメルに逃れてきた人々と、その苦悩に寄り添い受け入れた人々の物語を歌にしたもので。
疫病に苦しむ人々に寄り添うという、マグメルの意志の表れだそうだ。
曲調は緩やかで静かで厳か。
賑やかなお祭りの始めには少し静かすぎるかもしれないけど、ここに至るまで菊乃井でこそ出なかったけど、他の所では疫病による死者が沢山出ている。
その人達の死を悼みつつ、生き残ったことへの感謝を捧げるっていう意味ではいいだろう。
兵士の中にも、何も言わずとも黙とうを捧げる人もいる。
そしてその曲が終わって。
「これより菊乃井春の大感謝祭を開始します!」
声を張り上げた私に画面が切り替わる。
各地に私の声が届いたのと同時に、砦中の人々の歓声と拍手が轟く。
ここに、菊乃井の大感謝祭が幕を開けた。
まあ、開会式の宣言はこれでいいんだけど、開会の挨拶とかもあったんだよ。
でもさ、こういうのって長いの良くないじゃん?
なので協力してくださったマグメルの皆さんありがとうございますっていうのと、皆日頃から見守ってくださってる神様に感謝しつつこの二日間を楽しんでねってのを、ちょっとごてごてと貴族的に言って終り。
プログラムとしてお祭り一日目の今日はなんでも市場と、マリアさんのミニコンサート、菊乃井冒険者頂上決戦の準決勝までが行われることを説明。
二日目には菊乃井歌劇団特別公演と、菊乃井冒険者頂上決戦決勝、そして私達の演奏それからスペシャルゲストで北アマルナのネフェルティティ王女のハープ演奏が聴けるよ~とも。そういやスペシャルゲストはもう一人いるんだった。
ドラゴンさんだよ。
砦に来られるので勝負を挑んだりしちゃいけないよって注意喚起は前からしてたけど、今一度。
するとプシュケを通して町の広場にいる奏くんから通信が入った。
『ドラゴンに触りたいってチビ達が騒いでるけど、触れんの?』
「え? や、どうかな? 頼んではみるけど……?」
因みに奏くんとは、私の作ったシマエナガの編みぐるみを連絡道具にしてる。アレだ、シマエナガ型の携帯電話みたいな?
とりあえず盛り上がってるようで、これから先はなんでも市に行くか、マリアさんのミニコンサートを見るかで別れるみたい。
私もなんでも市場に行きたいんだけど、残念。今から菊乃井冒険者頂上決戦の第一回戦だ。
その前にマリアさんのミニコンサートがある。
奏くんはマリアさんのファンだから、生で見たいんじゃないかと思いきや、それは大楽の明日のお楽しみにするそうな。
このお祭りの様子は帝都や他の都市でも一応観られる。
とは言ってもマグメルの聖歌、マリアさんのコンサートや菊乃井冒険者頂上決戦の試合、菊乃井歌劇団の特別公演、ネフェルティティ王女殿下の演奏、私達の古楽器演奏だけだけどね。
なんでも市場の方で催される大道芸とかまでは見られない。あれは現地に来た人の特権だ。
そんなわけで、砦に作られたリング前に移動だ。
帝都の冒険者ギルドからお手伝いに来てくれた人が、色々仕切ってくれる。
「帝都の歌姫、マリア・クロウ嬢に歌っていただきます! 曲名は~」
前世の昔の歌番組って感じの司会だったけど、どっと砦の観覧席が揺れる。
リングの中央に現れたマリア嬢は、今日は春めいた桃色のドレスだ。
曲は今帝都で流行っている恋の歌だそうで、マリア嬢のために書き下ろされた曲なんだって。
華やか。
軽やかに低い部分も高い部分もマリア嬢は楽し気に歌う。
帝都というか、帝国の歌唱スタイルってあんまり動かないで歌うのが主。でも今日のマリア嬢は、ドレスを軽やかに翻して歌詞に合わせて手を振ったり投げキッスしたり。
もうさぁ。兵士さん達がきゃあきゃあわあわあ盛り上がる盛り上がる。野太い声でマリア嬢の名前を呼んだり、手を振ったり指笛を鳴らしたり。
私もこの日のために用意した、マリア嬢の名前を大きく書いた団扇を振ったとも!レグルスくんにも渡したから、二人で振ったとも!
「その団扇が、ユウリが言ってた推し活グッズってやつ?」
ヴィクトルさんが微妙な顔でこっちを見る。
マリアさんの曲の演奏はイツァークさん達、歌劇団の楽団の皆さんが対応。マリアさんのことも、楽団の皆さんは大歓迎なんだよね。歌の上手い方は大歓迎でござるって喜んでたもん。
そのヴィクトルさんの視線は団扇に注がれてる。
レグルスくんがそれに気が付いて、くるっと団扇を回した。
「これ、マリアさんのおなまえがおもてで、うらは『がんばって!』とか『だいすき!』とかかいてあるんだよ!」
「そうなんだね。見える形で応援してるって示せるのはいいんじゃないかな? 後は周りのお客さん達に迷惑かけないように使えるんだったら」
「そうですね。使用上の注意は一緒に付けて販売した方がいいと思います」
「それがいいね。注意しても守らない人はいるだろうけど、注意している形は大事だし」
それな。
観劇やコンサートに参加するのだってマナーは必要だし、好きって気持ちがあっても迷惑になるようなことをするのはやっぱり迷惑なんだ。
因みにこの推し活用の団扇はユウリさんの発案で、これから製品化されることになってる。もう既にサイリウムは製品化されてるんだけど、あれは推し活っていうより異世界の魔術儀式用品って理解されてるんだよね。何でや……。
しかもオタ芸が異世界の魔素神経を活発にさせるための訓練ってことになってるし。
ユウリさんもその辺に関しては「なんかスマン」って、凄く口が重い。まあ、うん、いいんだ。実際の所なんて今のところ次男坊さんしか分かんないんだし。
次男坊さんはオタ芸に関しては「オレハナンニモシラナイ」って棒読みになるそうだ。イゴール様談。
団扇を振り振りしていると、丁度投げキッスしてくれたマリアさんと目が合う。
距離が近いのもあって、マリアさんに団扇が見えたようだ。にこっと笑うとウィンクまで飛ばしてくれる。わーい!
これこそアリーナの醍醐味ですよ!
レグルスくんも可愛く「きゃー!」ってなってるし。
ミニコンサートは三曲だったけど、それはもう熱気がむんむんするくらい盛り上がった。
「マリア嬢に盛大な拍手を!!」
司会の人の言葉にどっと大きな拍手と喝さいがリングに降る。
本当のコンサートだったらここでアンコールとかしたいとこなんだけど、この後には菊乃井冒険者頂上決戦の試合がある。
なのでリング上のマリア嬢が観客に手を振りながら。
「このあと菊乃井冒険者頂上決戦武闘会が始まります。皆さん頑張ってください、私も応援しております!」
武闘会の開始が告げられる。
どっと会場全体が大きく揺れた。
リングからマリア嬢がおりていくのを見届けると、今度は私がリングに登る番。挨拶があるんだよ。
いそいそレグルスくんと二人でリングに並ぶ。
するとリングを囲むように、出場選手が全員現れた。
中には見知った顔が……どころか、ほとんど見知った顔だよ。
統理殿下とシオン殿下にブラダマンテさん、識さんとノエくんにラシードさん、エストレージャもいるしバーバリアンもいれば、晴さんと組んだ威龍さんにベルジュラックさん。それからシャムロック教官にイフラースさんと、なんと近衛の隊長・リートベルク隊長がいるじゃん?
そこにチラホラ知らない顔と、ナジェズダさんの付け襟を今日もつけてるシェリーさんとその仲間のグレイさんとビリーさんのパーティーもいた。
皆、きりっとしたいい顔だ。
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