届けたのは菊、香りは金の蘭
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申し訳ございません。
「それで、他には何があったんだ?」
「そうですね。やっぱりアクセサリーの店が多かったです。魔術師の作ったアクセサリーって需要が高いし、そこそこの値段でお洒落なの多いから」
「なるほどな。俺も武闘会が終わったら店を回ってみたい。ゾフィーに何かお土産を渡したいな」
「あ、じゃあ、僕も。マリーと侍女のエルザにお土産見て回りたいです」
夕食後のお茶の時間、今日見て回ったなんでも市の準備状況を話した。そしたら統理殿下とシオン殿下はそんな感じで。
私もレグルスくんもなんでも市場にお二人がいらっしゃることに否やはないよ。だってイゴール様へのお供え神事みたいなものだもの。市場で買い物するってことは、その神事に皇子殿下方が参加されるってことだし。
ただ皇子殿下方の後ろに控えている近衛兵の副隊長が、ちょっと表情を変えたんだよね。まあ、解るよ。市場なんて誰が潜んでるか分かんないもんな。
ただそれを表に出したら菊乃井の警備状況を疑ってるみたいなもんだし、公に反対しにくい。それも解る。
そして菊乃井としても万全にはしてるけど、何事も絶対はないからね。
だけど皇子殿下方の気持ちも分からんではない。なので折衷案だ。
「じゃあ、武闘会が終わってからは? それなら私達も行きますし」
私達兄弟が一緒ってことは、エルフ先生の何方かあるいは全員がご一緒してくださるってことだし、そもそも私達兄弟が皇子殿下方の護衛の役割も出来る。
そういう意味も込めて提案すると、統理殿下が頷く。
「お前のことだ。天与の大盾も、もう使用可能なんだろう?」
「使えますけど、あれ使い勝手悪いので普通の障壁で対応します」
紅茶が旨い。
遺失魔術だった天与の大盾も、識さんが復活させたから術式が判明した。そうなれば使えるには使えるんだけど、あれは要塞や都市みたいな広範囲をカバーするにはいい。けど個人を守るにはちょっと使い勝手が悪いんだ。天与の大盾が廃れて遺失魔術になったのは、多分この辺の使い勝手の悪さのせいだろう。
識さんも使ってみてそう思ったと、奏くん伝えに聞いてる。
それに【貫通】のスキル持ちと相性が悪くて、魔法は弾けるけど物理攻撃は貫通してしまうそうだ。これは奏くんと識さんの共同実験の結果。
結構な数の武闘会エントリー希望者が絶望して大会参加を取り消したのは、奏くんと識さんのこの実験を見たせいだ。
実験結果と合わせて、エントリー数が減った話をすると、シオン殿下が天井を仰ぎ見た。
「あー……そういえばラシードがそういう話をしてたよ。あと『世にも恐ろしいごっこ遊びを見た』とか」
そっちは知らね。
そんな風なことをワイワイ話していると、ふと何かが来るような予感があった。
それと同時にトントンとリビングの扉がノックされ、ロッテンマイヤーさんの「早馬が手紙を携えてきました」という声が。
中に入ってきたロッテンマイヤーさんの手にあったのは、帝国からの正式な通知書。
緊張が室内に走る。
ロッテンマイヤーさんから手紙を受け取って中を改めてみると—―。
「あにうえ?」
「北アマルナ王国のネフェルティティ王女殿下が菊乃井の神事に参加してくださるそうです。氷輪公主様の巫女、ロスマリウス様の養女として、菊乃井の祭事にハープをご披露くださいます。こちらからは友好と北アマルナの疫病退散を祈って、菊乃井冒険者頂上決戦と菊乃井歌劇団特別公演、それから菊乃井家古楽団の演奏を。双方向で遠距離映像通信魔術を使用して配信することになりました」
告げるとひよこちゃんの顔が輝く。
統理殿下やシオン殿下も何処かホッとしたような表情だ。
北アマルナから親書が届いたそうな。
ネフェルティティ王女は力を尽くしているけれど、ロスマリウス様から魔族と此度の病の相性の悪さを聞いて、国の面子に拘るよりも一刻も早く手を打つべきだと、彼女自身が国王陛下を説き伏せたらしい。
素直に求めれば帝国は友として必ず助けになってくれる、と。
ローダンセとシロタエギクを手にして。
「……ローダンセの花言葉は『終わりのない友情』で、シロタエギクは『貴方を支えます』か」
統理殿下がぼそっと呟くのに、シオン殿下の視線がこっちに突き刺さる。
説き伏せられて北アマルナの国王陛下は「恥を忍んで助けてほしい」と、親書を大使に大至急で届けさせるに至ったそうな。
そこであらかじめこちらが用意していた策を、実行することになったとか。
もう準備はしていたから、あとは北アマルナと菊乃井を魔術でつなぐだけ。
布自体は菊乃井で作っている物だから、何処にあっても私の魔術が届く細工はしてある。
ほうっと息を吐くと、ひよこちゃんがきゅっと手を握ってくれた。
「よかったね、あにうえ。ネフェルじょうにきもちがとどいて」
「うん。本当に良かった……!」
個人的に北アマルナのネフェル嬢に連絡ってよくないんだろう。
だけど見過ごせなかった。
そして私の行動を見過ごせないだろう人もいるわけで。
物凄く生温かい目でエルフ先生達が私を見てるのが解った。
ラーラさんがにやっと笑う。
「ローダンセにシロタエギクか。もうちょっと捻っても良かった気がするけどね?」
「う……」
「すーぐ誰からのプレゼントか解っちゃうよ?」
「うぅ……」
だって仕方ないじゃないか、花言葉を知ってるのがその辺だったんだから。
他にも探せばなんかいいのがあったかもしれないけど、思いつかなかったんだもん。
なるべく反応しないようにしてるのに、チクチクと先生達の視線が痛い。
極めつけは統理殿下だ。
「お前、俺だってしないような気障な真似を……」
「私が渡したって証拠はないじゃないですか!?」
「珍しく語るに落ちたね……」
皇子殿下方の視線が益々生温かくなる。
そうだよ、ここで焦ったら自分だって白状したようなもんだよ。
というか、本当はメッセージを個人的に送ることさえ、立場を考えるならやらない方が良いんだ。越権行為も甚だしい。
だけど、黙ってはいられなかった。友達が困ってるんだもん。放っておけば、彼女自身は加護のお蔭で大丈夫でも、彼女の大事なものが喪われるかもしれないし。
でもこうやって揶揄うってことは、不問に付してくれるってことなんだろうな。代わりにネタを提供しちゃったわけだけど。
そこには感謝しつつ、気持ちを切り替える。
「北アマルナの参加は二日目からになります。北アマルナの主要都市から地方都市に病が伝播してしまって、相次いでロックダウンに入っているせいで通信用の布の配布が間に合っていないそうです」
なので開会のマグメルの聖歌は間に合わない。だから二日目の演奏にどれほど神聖魔術を乗せられるかが勝負。
歌劇団の公演でも私は影ソロすることになっているから、機会はそれと合わせて二度だ。
その二度、ネフェル嬢のハープを合わせて三度で、北アマルナの病から呪いを完全除去する気で行かないと。
少し考えて。
「統理殿下、シオン殿下」
「どうした?」
「何か、僕らにも出来ることがあるかい?」
呼びかければすぐに、二人が応えてくれる。
二人とも至極真面目な顔だ。こちらもそれに相応しい表情をする。
「全力で戦ってください。誰が相手だろうが薙ぎ払う覚悟で」
望むことはそれだけだ。
キョトンとしつつも、二人は「当然」と答えてくれた。
「お二人が頑張ってくださったら、えんちゃん様が喜びます。その喜びは神聖魔術に反映されるかもしれない」
「ああ、なるほど。そういうことなら期待してくれ」
「元より優勝する気で来たからね。任せてよ」
統理殿下もシオン殿下も、不敵な笑みを唇に乗せる。
ロマノフ先生が二人を見つつ、ぽんっと手を打った。
「白熱した試合展開になれば、イシュト様もお力を貸してくださるかもしれませんね」
「他の出場者にも激励って感じで声をかけてあげなよ。優勝したらあーたんが一個、なんでも叶えられるものは叶えてあげるって話してるんだし」
「そうだね。なんでも市のほうも積極的に売り買いしてもらえば、それだってイゴール様がお喜びくださるかもしれないね。叔父様のお弟子達も学問の成果とかをそこで発揮してもらったら、ロスマリウス様もお喜びくださるかもしれない。武闘会も魔術バシバシ使ってもらったらいいじゃない?」
ヴィクトルさんやラーラさんの表情も明るい。
「あにうえ、おれもがんばる! あにうえひとりじゃないからね!」
両手を握ってレグルスくんが「えいえいおー!」と天に突き上げる。
本番はすぐそこまで来ていた。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




