新進気鋭の看板効果
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次回の更新は、11/18です。
端的にいうと、董子さんとジュンタさんはいい感じに仲良くなってくれそう。
猩々酔わせの実を持って董子さんの屋台に行ったんだけど、魔物肉のサラミと猩々酔わせの実を物々交換。
結果「なにこれ美味しい」と二人してキャイキャイ始めた。
その一部始終を見てたんだけど、あれよあれよという間に「新しくて日持ちする猩々酔わせの実を使ったお菓子」の開発計画が立ち上がって。
そして何も知らされないうちに、うちの料理長も巻き込まれることになっていた。頑張ってね、料理長……。
一応それは菊乃井においての研究として対応するってことで、ジュンタさんの猩々酔わせの実を使ったお菓子や猩々酔わせの実を販売する契約もついでに結ぶことに。
祭りの準備のために何でも市場会場にいたヴァーサさんを捕まえて、これこれこういう理由でって説明するとすぐに準備を調えるって言ってくれた。
「商会長、これはチャンスだと思います」
「そう?」
「はい。歌劇団で丁度オリジナルのミュージカルの片鱗をお見せすることになっていますよね? 題材はウイラ様とラトナラジュ様。そしてその伝承を伝える村の、稀少な果物を使った稀少な菓子。歌劇団の演目に基づいたお菓子、お土産物の一つとして売り出せます!」
「ああ、なるほどぉ」
言われてみればと、手を打つ。
前世の菫の園のグッズというか、そういうのあったわ!
彼の地はレストランで演目にインスパイアされたオリジナルメニューのコースを出していたり、定食セットやデザートやスイーツを考案してた。さらにお土産物のお菓子なんかも、時には何処かのお菓子会社とコラボしてたような……。
なるほど、これは商機だ。素晴らしい。
そういうことならここからはヴァーサさんにお任せしよう。
ジュンタさんにヴァーサさんを紹介して、このお祭りの最中のお菓子の売り方などについて話し合ってもらうこととして。
私やレグルスくん、ロマノフ先生は視察の続きだ。
他にもトリッパ風の煮物の屋台や、甘辛いタレで漬けたお肉を焼いておにぎりに巻いたものの屋台とか、色々とバリエーションに富んでいる。
お菓子だけでなく食事系も充実してるのは、ここの一角で武闘会を観戦しながら、あるいは歌劇団の公演を観劇しながら食事できるからだろう。
お店でも出来るようにはなってるけど、席数は外の方が多いからね。
そんな中えらいファンシーな飾りつけの屋台があって。
看板を見れば帝都で有名なクッキーのお店の名前が書いてある。なんか出張してきたそうだ。
更にその隣にはコーサラの有名なお饅頭のお店の看板を持つ屋台が。なんと人魚の集落からわざわざ海老やカニの肉を詰めた饅頭を売りにきたそうな。
他にも結構有名なお店が出張して来てるんだ。それも本店では考えられないくらいの安価で。
え? 凄いな?
何となく真顔になっているとロマノフ先生が笑う。
「ここで沢山のお客を集めると、君の目に留まるかもしれません。すると支店を菊乃井に出せるかも、という?」
「うん? 菊乃井に出店しちゃ駄目なんて、私言ったことないですよ?」
「ええ。でも商業ギルド加入を断っているでしょう?」
「ああ、はい。だって Effet・Papillonの商品の値段を勝手に決めようとするんですもん」
そもそも Effet・Papillonの商品は初心者冒険者向きの価格帯のものが多く、値の張る商品は貴族用の物でしかなかった。
一般市民に広く売り出したってわけじゃない。今だって菊乃井以外で商品が買えるのは冒険者ギルドの購買と、ジャミルさんの出張販売だけ。
それは商業ギルドが Effet・Papillonの商品を、既存の商品と横並びの値段でしか扱わないし、初心者冒険者ですら買える値段にするのなら取り扱いを何処にも許可しないなんてほざいたからだ。
そりゃ商業ギルドは値崩れとかなんとかを防がないといけないってのは解る。
解るけど、一旦私が出した条件で了承したくせに職人ギルドからの圧力に負ける――外圧と戦えない上に不誠実な組織なんか菊乃井には必要ないの。
必要とあらば、身内と戦うことも辞さないって姿勢を持てない連中なんか信用できるか。
という訳で、菊乃井は商店街からして商業ギルドに加入してない。去年だったか一昨年だったかに、加入のお誘いがきたけど笑って蹴ったんだよな。
そこからは特にぶつかってない……はず。
「君と商業ギルドが反目しているのを、大店や老舗の主人や番頭格は知ってるわけです。理由もね。だから商業ギルドに義理立てしつつも『新進気鋭の菊乃井侯爵にどうしても出店してほしいといわれて断れなくて』という、もっともらしい出店の理由を手に入れたいんですよ」
「えー……、私、御用達の看板なんか何処にも許してませんけど? しいていうなら菊乃井の商店街のお店にはそう名乗っていいと許可してるだけで」
実際使ってるしな。
お肉や野菜や果物は料理長が直接商店街で買い付けてるし、細々としたものはメイドさんがお使いで商店街に買いに来てる。
なので御用達といえば、そう。
何だったら床屋さんにだって、レグルスくんを連れてってるくらいだ。
来てくれるっていうけど、私の髪の毛は精霊の溜まり場になってるらしくて迂闊に鋏を入れられない。レグルスくんしか切ってもらう人いないのに、一日商売を休ませるなんてあり得ないでしょ。
因みに、いつだったか氷輪様に髪を切るなって言われたことがあるんだけど、そういうことだったらしい。
私の髪の毛に精霊が埋まって寝てたりするそうだ。
そういうことをするからには、髪が痛んだり枝毛が出来たりしないし、魔力がガンガン貯まるようにしてくれるんだとか。なお、奏くんは諸事情あって精霊に髪の色をコロコロ変えられる代りに、将来において毛根を死守する約束が出来ている。
若干関係ないし変なことを思い出しつつ、今度は服飾関係側を視察に向かう。
広場を通る大通りを挟んで右が食べ物関係、左が服飾関係に分かれてるんだ。
「あにうえ、かざりつけがんばろうね?」
「そうだね。可愛くしたいな」
「なごちゃんもおみせでおかいものしたいんだって」
「そうなんだ? 一緒にいけるといいね」
二日あるんだから、一日くらい何処かで買い物できる時間があるんじゃないかな……。いや、あってほしい。
そう考えつつじっとロマノフ先生を窺えば、こくっと頷いて下さる。
「初日であれば見て回れるようですよ? ただ、武闘会の間は会場にいないといけないので、その後になるみたいですけど」
「ですよねー……」
実の所、一番武闘会の会場にいたくないんだよなー……。
人が殴り合ってるのを見るのは、心臓に悪いんだよ。自分が痛いのは自分でどうにかできるけど、人の痛みは何となく分るだけだからしんどいんだ。
でも救護班として、いないとダメなんだよなぁ。
大きくため息を吐くと、レグルスくんが握っていた手を引っ張る。
「あにうえとなごちゃんといっしょはむり?」
「あー……どうかな?」
和嬢は二日目に参加するんだよね。
二日目は武闘会の決勝もあれば、歌劇団の特別公演もある。勿論なんでも市場も。
「和嬢の保護者さんが許可をくれたら、二日目の夕方も回れるんじゃないですかね?」
歯切れの悪い返事をする私に代わって、ロマノフ先生が答えてくれる。それにひよこちゃんの顔が輝いた。
「そっかー! じゃあ、にっきでなごちゃんにおつたえしてみる。いいっていったら、あにうえとおれとなごちゃんでおまつりみてまわろうね?」
「うん、いいよ。私も楽しみだし」
にこにこのひよこちゃんが「やったー!」と両手をあげて喜ぶ。
その姿を見つつ、ロマノフ先生がニヤッと笑う。
「え? なんですか……?」
ちょっと不気味、いや、顔じゃなく雰囲気。
なのでドン引きしつつ尋ねると、先生がニヤニヤしたまま。
「和嬢のお祖父様が来ちゃうかも知れないですね?」
……マジ?
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