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距離は心を隔てない

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、11/1です。

 怪我の功名といえばいいのか、このエントリー数が減るという事態は武闘会的にはいい方向にいったみたい。

 あまりにもエントリー数が多くて捌けなさそうだったら、武闘会の予選会を前倒しにするって話が出てたんだよね。

 だけどエントリー数が減ったお蔭で、どうにか一日で準決勝まで行ける目途が立った。

 そしてエントリーを取りやめにしても、お祭り自体は参加していく人がほとんどなので宿屋のキャンセルも出ていないとか。

 アルスターもロートリンゲン公爵領の宿も満員御礼。

 当日はアルスターからもロートリンゲン公爵領からも、菊乃井に乗合馬車の臨時便が沢山出ることになってる。

 あっちもこっちも景気のいい話でなによりだ。

 菊乃井は着々と祭りの始まる熱気が膨らんできている。

 一方、北アマルナにおける彼の病の件に動きがあったのはその翌日のことだった。

 ヴィクトルさんが転移魔術で往復してくださった結果、皇帝陛下の命を受けた宰相閣下が極秘裏に北アマルナの大使と面会したそうだ。

 そこで色んな話し合いがされ、昨日のうちには北アマルナ本国へと帝国の提案、即ちネフェルティティ王女殿下に人心の慰撫を隠れ蓑に、神聖魔術を乗せた音楽的な何かを流してもらうというアレを伝えたとか。

 そして運が良かったことに、あの夏休み以来ネフェルティティ王女殿下はハープを学ばれているらしく、腕前も人前で演奏するに足るくらいときた。

 ただ神聖魔術が何処までそのハープの音に乗ってくれるか。

 こればっかりはやってみないことには分からない。

 それから雪樹のカーリム氏から鳥のモンスター経由連絡網で「何なりとお申し付けください」という返事も来た。

 なので早ければ一両日中に北アマルナの中央から接触があること、雪樹の一族から信頼できる魔物使いをマンドラゴラ医療班のため北アマルナへ派遣してくれるよう頼んでおく。

 幸いというか本当に運がいいことに、ネフェルティティ王女殿下の元でもマンドラゴラがコミュニティーを形成していたのだ。

 ただあちらのマンドラゴラに医療班としてのスキルと経験が足りない。

 だから菊乃井から精鋭のマンドラゴラを雪樹の民経由で行かせる段取りも調えた。

 派遣されるのは大根型マンドラゴラのござる太郎・ござる次郎・ござる三郎の三兄弟で、蜘蛛蜘蛛ネットワークの構成員は今回はお休み。

 雪樹の鳥系モンスターと組んでもらう。

 件の疫病の対策において、一番は病に付加されている呪いの解呪。そして解呪は時間との勝負という側面がある。

 まして魔族は人間より重症化リスクが高い。時が経てばネフェルティティ王女殿下の魔術だけではどうにもならなくなる。

 そのときの手立ては……。

 箏に張った弦をつま弾きつつ、次の一手を考える。

 最初は考え事をしながら箏を弾くなんて器用な真似は出来なかった。でも今は出来る。

 それにふっと口の端を上げると、隣でレグルスくんが「ふふ」っと笑った。


「ひめさま、よろこんでくれるかな?」

「うん。大分上手くなったもんね」

「お庭の姫様だけじゃなく、えんちゃんやロスマリウス様やイゴール様も聞いてるんだろ?」

「がんばらなきゃ!」


 奏くんや紡くんも両手を握ってはりきってる。

 そんな中、アンジェちゃんがモジモジとスカートの裾を握った。


「えんちゃんも、おうちできいてるってブラダマンテさんがいってたの」

「うん、そうだね。一緒にお祭りは行けないけど演奏は見ておられるそうだよ」

「おおきくなったらあえますか?」

「うん。勿論」


 因みにアンジェちゃんは私とお箏の連弾するんだよね。

 小さいので一つ楽器を任せるよりも、私と連弾の方が緊張しないだろうっていう配慮……のはずが、どう考えても私より才能ある気がする件。

 レグルスくんの笛も中々に難易度高そうだけど、奏くんの三味線に似た楽器もかなり難しそう。紡くんも鼓とか叩いてるし。

 いやー、皆芸達者だよ。


「そう言えばネフェル姉ちゃん、ハープ弾けるって?」

「うん。そうみたい」

「あー、あのとき楽器の一つも弾けたら良かったのにって言ってたもんな」


 ロスマリウス様のご家族のお墓で、その安らかな眠りを祈ったときのことだ。

 海の神様であるロスマリウス様の心の痛みに添いたいと思ったからこその、彼女の言葉なんだろう。そういうところを見込んで、ロスマリウス様はネフェル嬢を養女になさったんだろうな。

 人の心に寄り添うというのは言葉では易くとも、実際の行動はとても難しい。自分に出来ることから始めた彼女は、やっぱり人の上に立つ人なのだ。

 今、彼女も正念場。

 私達もタイプの違う正念場だ。

 そんなことを考えていると、奏くんがふっと真面目な表情を作った。


「そんで、ネフェル姉ちゃんの神聖魔術が効きにくいときは菊乃井の祭りの音楽聞かせるんだろ?」

「……それも考えてるよ」


 言い当てられて、誤魔化す必要も感じないから頷く。

 菊乃井のお祭りではマグメルの聖歌も聞けるし、マリアさんや歌劇団の歌だって。

 人心の慰撫を目標に掲げるのであれば、祭事の様子を配信してもおかしくはない。

 帝国と北アマルナの友好を深めるための、人心安定を目的とした支援という名目で押し切ることも可能だ。

 煩く騒ぐ国内の貴族にだって、いち早く病を克服した帝国の国力を見せつけるためだと仄めかしておくこともできる。

 これが私に出来るネフェル嬢への最大の援護射撃だ。

 けど、もう一手。怪しまれない何かがほしい。

 北アマルナの主神は氷輪様だから、氷輪様への祭事を厭うことはないだろうが、もう一つ何か……。

 考えていると、レグルスくんが「あにうえ」と私を呼んだ。


「ネフェルじょうもおまつりにさんかするの?」

「え?」

「だってロスマリウスさまからごかごもらったんでしょ? おまつりでハープ? ひけばよろこんでもらえるとおもうよ?」

「それだ!」


 凄い! 流石レグルスくん、閃きが半端ない!

 わしゃわしゃとひよこの綿毛のような髪を撫でまわすと、きゃっきゃと可愛い笑い声。

 一方通行であれば疑われるだろうけれど、双方向であれば神事ということにしてしまえる。

 ここはお国から菊乃井で六柱の神々を祀る神事をやるので、同盟国の友好の証として菊乃井の神事に遠距離映像通信魔術を使って参加してほしいと声掛けをしてもらえば。

 なにせ帝国には大きな氷輪様の神殿がない。やはり本場は魔王領なのだ。そして北アマルナでは王族が氷輪様の司祭を兼ねる。

 思いついたが吉日、善は急げだ。

 アンジェちゃんの名前を呼ぶと、何かを察したのかきりっと彼女がお顔を上げる。


「アンジェちゃん、大至急お庭でお稽古してる皇子殿下方呼んで来てもらえる? 廊下を走ってもいいし、ロッテンマイヤーさんに何か言われたら私が『大至急!』って言ってたって」

「はい! いってきます!」


 すくっと雄々しく立ったアンジェちゃんが、返事と同時に部屋を駆けだす。

 それを見つつ奏くんが立ち上がった。


「おれとつむは空飛ぶ城の方に行ってる先生達呼んで来るな?」

「うん、よろしく!」


 声を掛ければ奏くんと紡くんがサムズアップして、部屋から出ていく。

 レグルスくんはといえば、書斎兼執務室から宰相閣下へのお手紙を書くための便箋と封筒を持って来てくれて。


「おてがみかくんでしょ?」

「ありがとう、レグルスくん。助かるよ」

「これくらいならおれもおてつだいできるんだから、なんでもいってね?」


 にこっと笑う弟の可愛さよ。

 こうやって傍で励ましてくれる人が、願わくば彼女の傍にもいますように。

 遠く離れた場所でこれから戦いを始める友達のために、今ここで私達が出来ることをしなければ。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
アンジェちゃん姉妹も芸達者ね。 もしかしてあの遊び人風両親も隠れ芸達者? 「自分で稼げるなら娘にタカらんでも金に困らん」と気付いて一念発起して作曲家とかにならんかな。
色々思惑やらなんやらあるけど ひとまずそれはそれとして、皆で仲良く演奏会ですね! 絶対にいるまんまるちゃんに縁談仕掛けようとしてる面々はネフェル嬢をみて戦々恐々としそうだけど まだまだ皆お友達
なんか良い方向に回りだしたと思ってたら一気に走り出した!
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