柵があるようでないようである関係
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、10/25です。
北アマルナは帝国やシェヘラザード、コーサラ、楼蘭教皇国とも国交はあるんだけど、ルマーニュ王国とは交渉中だったはず。
抜け道は何処にでもあるとはいえ、どういうルートで入ったか気にかかる。
いや、それ以上に彼女は大丈夫なんだろうか?
あの瑠璃と水宝玉の目をした彼女、ネフェルティティ王女殿下は。
オブライエンの報告は続く。
「どうやら何処かの町でいきあたったルマーニュ王国からの旅人から感染したようで、患者本人は『人族だけがかかるものだと思っていた』と基本の感冒に対する予防策すら取ってなかったようです」
「なるほど」
患者が件の病に罹っていると気が付いたのは、お国から「外国でこういう病が流行っているので気を付けるように」と通達を受けていた町医者だったそうだ。
どうも北アマルナでも、件の病は話題にはなっていたらしい。お国も注意喚起に励んでいたし、感冒と同じ対策で予防できるとし、その対策を訴えていたとか。
しかし国民の大半は患者第一号と同じく「人族が罹る病で、自分達には無関係」と楽観視していた。それが仇となって、呪いが重篤になった証の蔦が出るまで放置だったそうな。
魔族は総じて人間より魔力が量も多ければ質も高い。
放っておけば感染は瞬く間に拡大するだろう。それが帝国の予想だと、オブライエンが言う。
なんてこった。
私だって北アマルナはノーマークだった。
だって国交はあれども、北アマルナの人がこっちに出てきている様子がないというか、聞かなかったから。
さて……。
ざわつく心を落ち着かせるように、ほんの少し深めに息を吸う。
「それで帝国の上層部はどう動くつもりか、掴めていますか?」
「いえ、流石に守りが固く」
「そうでしょうね。臣下に簡単に情報を抜かれるようでは困ります。あちらも菊乃井が動いているのも解っているだろうけど」
これは多分、正攻法で聞いて来いってサインだろうな。
いや、正攻法でお尋ねすることに異議はないんだけど、聞いたが最後なんかやらされそうな気がするんだよ……。
国とか何とかおいて、個人的にネフェル嬢に手助け出来ることはしたい。けど、そこに御国が絡むと上手く動けなくなる。だってお互い国益ってものを考えないといけない。
友達を助けたいだけなのに、上手く動けない。
昔、エルフの友人を守るために苦労した初代の皇帝陛下が、そのための方策を立てるのに「なんでこんなややこしいことせにゃならんのだ」って愚痴ったらしい。分かる。凄い分かる。
だけど背に腹は代えられない。
もう一度大きく息を吐くと、引き出しから便箋を取り出す。
事務用だけど目上の人に差し上げる用の便箋だから、物凄く上質だけど華美に過ぎないやつ。
これもさー……。
ロートリンゲン公爵閣下に「侯爵家だから、その辺りも気を配らないと」って教えてもらって特注したやつ。
侯爵家でさえ物入りなのに、この上公爵とかどんだけ出費が嵩むやら。
お金は欲しいけど地位はもういらないんだよ。
サラサラとカーバンクルの宝石筆で、時候の挨拶と用件を認める。宝石筆は前世の硝子ペンに似ているようで、紙に引っ掛かりが少ない。
あて先は宰相閣下。
これを冒険者ギルドを通じて早馬で出して、転移陣を使えば今日中には届く。
オブライエンに言いつけようと思ったんだけど、書斎兼執務室の扉がまた叩かれた。
『あーたん、ちょっといい?』
「はい、どうぞ」
扉が開くとヴィクトルさんが入ってきた。
「どうされました?」
「いや、ちょっと帝都にいる友人から連絡が来てさ」
「ご友人?」
こてりと首を傾げると、ヴィクトルさんが頷く。
ヴィクトルさんのご友人って大概芸術家さん。そのうちの一人が、急遽お祭りに参加したいと言い出したそうな。
そしてこれから帝都に迎えに行くって。
「名の知れた画家でね。放浪の旅に出てたんだけど、この疫病騒ぎで旅をいったん中止して帝都に戻ったらしい。それで菊乃井のお祭りの話を聞いて、見たくなったって連絡が来てね」
「ああ、そうなんですね」
「それで出来れば菊乃井の砦の方にお泊りさせてほしいんだ。その許可が取れたら迎えに行こうと思ってて」
なるほど、今から帝都を立っても間に合わないもんね。
私としては拒む理由もない。
ただ砦の開いている兵舎は武闘会出場者にも貸し出すことになるから、人は多いかもだけど。中にはちょっと荒っぽい人もいるだろう。それでも良ければと伝えれば、ヴィクトルさんも頷く。
「それは承知の上だし、友人も旅生活してるからね」
「それなら私の方は問題ないですよ」
あそこには知られて困る機密なんてないしね。
そういう訳で、ヴィクトルさんは帝都に行くという。そのついでに、私の手紙を宰相閣下に届けてくれることに。
北アマルナの状況やそれにまつわる情報が固く秘匿されていることを話せば、ヴィクトルさんは肩をすくめた。
「そりゃ間違いなく、あーたんに『知りたければ尋ねておいで』ってことだよ」
「ですよねー……」
「北アマルナの対策に知恵を出せって話じゃないかな? 帝国や周辺国みたいにマグメルの歌って訳にもいかないだろうしね」
「ああ、それは……」
そうだな。
北アマルナは帝国とその周辺国と違って、マグメルの聖歌に重きを置いていない。そこの歌を聞かせるっていうのは、ちょっと状況にそぐわないかもしれない。
とはいえ、あちらの文化を私だって理解してるわけじゃないしな……。
でもここでアレコレ考えているよりは、手紙をお届けいただく方が余程建設的だろう。
お願いすると、ヴィクトルさんはさっそく転移魔術で帝都に飛んでくださった。
それから、私はもう一枚便箋を取り出す。
こっちは平素の知人兼事務用。
凄く簡素に菊の花がちらっとあしらわれているやつで、それにも色々認める。
「こっちは雪樹の麓の村へ。冒険者ギルドに即日で届けてもらってください」
「承知いたしました」
根回しに手回しは早い方がいい。
オブライエンは恭しく手紙を受け取ると、音もなく執務室から出て行った。段々所作が蛇従僕に似てくるの、なんなん?
まあ、いいか。
そんな感じで執務をこなすと、お昼ご飯。
今日は皇子殿下方もご一緒。
そんないつもより賑やかな席で、ちょっとどうかと思ったけど北アマルナの件を話す。
「させたいことがあるというか、表立って菊乃井家ばかりに声をかけていると思われるのも……というところだろうな」
「北アマルナと帝国って微妙だからね。国交はあるけど、だからって全然近いわけでもない。まだルマーニュ王国のほうが人間同士分かり合えると思ってる連中も多いし」
「なるほど」
統理殿下とシオン殿下も、測りかねてるって感じ。
帝国と北アマルナは民間レベルの交流も珍しいくらいだから、微妙な関係であることは間違いない。
結局、お互いをよく知らないってことが原因なんだ。
それは魔王領に住まう全ての人達にいえることでもあって。
ネフェル嬢との繋がり、雪樹との繋がりをもつ私が、帝国において今一番あっちに近いってことになる。
帝国内部の関係・勢力図でお腹いっぱいなのに、外国のことまで追い切れないんだよなー……。
「この際だから防疫対策を通じて相互理解を進めたい。そういう思惑があるという理解でいいですか?」
「ああ、仲が悪くてメリットがあるわけでないしな」
「何だったら防疫対策の不備に関して、一緒にルマーニュ王国に外圧をかけてもらえたらなぁくらいじゃない?」
皇子殿下が二人してそういうのであれば、そこはそうなんだろう。
顎を擦っていると、ひよこちゃんがこっちをじっと見ていた。
「どうしたの?」
「うぅん。あにうえはやっぱりかっこいいなぁっておもってただけ」
えー? そう? 照れるなぁ。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




