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拗れた糸の先にあるものが、定めの道とは限らない

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、10/21です。

 何の采配なのか悩んだところで、神様でさえ運命の先は見通せない。まして人間風情が分かろうはずもない。

 こういうのは隠して拗れた方が厄介だ。

 その共通見解の下、さっさとラシードさんに次男坊さんのとこにいる魔物使いがザーヒルだったことを告げる。

 農作業後の片づけをしつつ、ちょっとした雑談めかして。


「……マジで?」

「マジで。ブラダマンテさんや大根先生から聞いた容姿が、どうもそれっぽいから。次男坊さんのところから報告書が上がるのを待ってたんだ」


 私の言葉に唖然としたラシードさんを見つつ、統理殿下が話を引き取ってくれる。


「一応雪樹の揉め事の話は俺達も聞いていたから、報告書を読んだときには驚いた。だからアイツに問い合わせしたら、紛うことなくザーヒル本人で、アイツはそれを知ってて手伝わせたそうだ」


 因みに、次男坊さんは竹林院を正式に継ぐときに改名を予定しているそうだ。なのでシュタウフェン家での自分の名前を覚える必要はないとして、今後もしばらくは次男坊でいくとか。

 貴族名鑑に載ってるけど、本人がそういうなら調べてまで知る必要もなし。

 あっちは今、疫病の事後処理と独立のための獅子王家への出向というのかで、かなり忙しくしているそうだ。

 シオン殿下がうちのお祭りに誘ったら「一日抜けたら、翌日の仕事が三倍になるから無理」って断られたそうな。お気の毒な……。

 閑話休題。

 次兄の消息を思わぬ形で知ったラシードさんは、でも少しほっとしたような顔に。

 それからハッと何かに気付いた様子を見せた。


「これ、神様もお認めになる善行にあたるかな!?」


 そうだよな。

 それは考えないでもなかった。けどなぁ……。

 私も皇子殿下方も顔を見合わせると、ちょっと首を捻った。


「正直いえばよく分からないです」

「うん。神様の思う善行と、俺達人間の思う善行が何処まで同じなのか……」

「今回ザーヒルの行動で助かったのはあくまで一部の人間やドワーフ、獣人だからね。神様にとっての善行に該当するのかどうか……」


 これなんだよ。

 たしかに今回ザーヒルの活躍で、大勢の病人がマンドラゴラ医療班の看病を受けることができた。しかし、それを神様が善行として数えてくれるのかどうか。それはまた別問題なんだよなぁ。

 大きく信仰が増えるようなことに寄与したのであれば、確実に善行っていっていいだろうけど。


「でも死者が増えると氷輪様も仕事が増えるからめんど、じゃない、困るって仰ってたし、次男坊さんはイゴール様の加護をお持ちだし。その人を手伝ったんだから、ちょっと評価が上方修正されることはあるかも」


 自分で言っててどうだろうとは思うけど、下方修正はないだろう。

 それは皇子殿下方も同じだったようで、完全に善行として呪いが一挙に解けることはないだろうけど、その取っ掛かりくらいにはなっただろうと……。

 肩を叩かれて、ラシードさんは複雑そうな顔を見せはしたけど頷いた。


「そうだな。これが最初の一歩になれば、それだけでも大したもんだよな」


 ほろ苦く笑うラシードさんに、こちらも頷く。

 統理殿下が「そういえば」と口を開いた。


「神様の加護を持つ人間には試練が訪れるんだ。そういう物をアイツとともに解決していけば、いずれお怒りの解ける日も来るかもしれないぞ?」


 慰めのために口にしたことだろうけど、ラシードさんはかえって血相を変える。


「え!? やべぇだろ!? 下の兄貴、今、雪樹の一族で言ったら見習いの子どもと同じくらいしか戦えないのに!?」

「んん?」

「菊乃井みたいに次から次に変な奴がきたら困るじゃん!?」


 頭を抱えて「ぎゃー、無事でいてくれよー!?」とか叫ぶラシードさん。一瞬呆気にとられた皇子殿下方だったけど、すっと視線が私の方に向いた。こっち見んなし。

 思わず私も目を逸らす。

 シオン殿下が、真顔でラシードさんの肩に労わるように触れた。


「ここみたいな特殊さはないと思うよ。うちも一家全員加護持ちだけど、そんな酷いことにはなってないし」

「ああ。鳳蝶の周りが特殊なんだ。寧ろ心配されるのはお前の方だと思うぞ?」

「どういう意味ですか!?」


 言い草!

 イラっとして叫ぶと、それを聞きつけたのかとことことレグルスくんがやってくる。

 先に片付けを終えていたレグルスくんだったけど、話してるせいで帰ってこない私達を呼びに来たみたい。


「あにうえ、どうしたの?」


 こてりと首を傾げるひよこちゃんに、ぽりっと頬を掻くとラシードさんが説明を始める。

 ひよこちゃんもどうも次男坊さんのところにいる魔物使いがザーヒルらしいってことは知ってたから、それが確定したと聞いてちょっと複雑な顔をした。


「ラシードくんは、あいにいきたいんじゃないの?」

「うん? まあ、そりゃ。でも、俺、兄貴に嫌われてたじゃん? 別れるときは仲直り、ちょっとだけ出来たけどさ……」


 拗れて縺れた感情は、そう簡単に解けたりしない。

 ラシードさんとしては次兄のことは心配だけど、じゃあ全部なかったことに出来るかと言えば、それは無理なんだろう。次兄の方も恐らく同じ。

 こういうのは当事者間の直接対話も必要だけど、距離と時間が解決するのを待つのだって必要だ。

 ラシードさんのほろ苦い笑みは、兄弟間の感情がどうにもならなくなる寸前まで拗れた皇子兄弟の心に突き刺さったらしい。

 二人してラシードさんを間に挟んで何やら慰めにかかってる。

 ラシードさんのケアは二人に任せよう。私は自分の弟が一番可愛い。

 見上げてくるレグルスくんと視線を合わせると、口角を上げた。


「今回のことで、もしかしたらザーヒルの呪いが解ける可能性が出てきたんじゃないかなって」

「そうなの!?」

「うん、まだ分からないけど。これを切っ掛けに、神様に働きを見ていただければひょっとしたらひょっとするかも」

「そっか。ラシードくんもラシードくんのかぞくのみんなもよかったね」


 にこっと笑顔のひよこちゃんの頭を撫でる。いい子なんだよなー、うちの弟。レグルスくんしか勝たんのだよ。

 朝の癒しの時間はそれで終了。

 レグルスくんは源三さんと剣のお稽古、皇子殿下方は近衛の副隊長を護衛にブラダマンテさんの待つ町へ。ラシードさんも識さんとノエくんとの連携を深めるための修行だ。

 私はぽつんと領主の業務。

 菊乃井の水際対策はまだ続いている。関所での待機者はいるものの、病での隔離者はゼロ。他所の領地ではまだまだ隔離者も大勢出ているそうだ。

 それだけじゃなく、シェヘラザードでも患者が出た連絡が入ったし、コーサラでも出たとか。

 帝国全土でルマーニュ王国からの旅行者や冒険者の入国を制限し始めたからか、ルマーニュ王国からの帝国以外への出国が増えている。

 ルマーニュ王国からの入国制限の緩い国へと渡り、そこから抜け穴的に帝国やシェヘラザード、コーサラへと渡るんだとか。

 この抜け穴って冒険者ギルドの転移陣を利用して行われるものだから、お金持ってる冒険者や商人が使うんだよ。

 お金がある冒険者って強いんだ。そして強い冒険者って大概魔術が使える。あとはお察し。

 感染している状態でよその国に渡るもんだから、結果他の国に病気を撒きに行ってるみたいなことになってしまって。

 とはいえ菊乃井式というか、帝国式防疫対策をやってるところは然程それが脅威になってない。

 報告書に目を通していると、書斎兼執務室の扉が叩かれた。

 入室を許可すると、オブライエンが音もなく机の前に来て一礼する。


「どうしました?」

「北アマルナで件の病が発生しました」


 ぴくっとペンを持っていた指が不意に跳ねた。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
こうやって読ませていただいているとアゲハ君(まん丸ちゃん)自称白豚の執務室での年齢が大人の執務官にかんじちゃいますね~子供をやってる暇がないとも言いますね。
ルマーニュはもう国ごと燃やすか埋めるしかない気がしてきた(゜o゜;
北アマルナってネフェルティティがいる所ですよね。彼女はロスマリウス様の加護があるとはいえ王族で魔力も高いので心配ですね。
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