祭りの前のこもごも
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次回の更新は、10/14です。
どうにかこうにかムリマさんのオリハル箪笥を私の部屋に運び込んだ後、皇子殿下方は早速ソーニャさんと連れだってブラダマンテさんのところに出かけてしまった。
フットワーク軽すぎだし、いくら菊乃井の治安がいいっていってもそんなホイホイ……。
そうは思ったんだけど、護衛は近衛の副隊長がいるし何よりソーニャさんがいる。
ソーニャさんはああ見えて、めっちゃ強い。
ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんが「あの人こそ外見詐欺」っていうくらいだからお察しだ。
ブラダマンテさんとソーニャさんはご友人だし、積もる話もあるかも知れない。
こそっとエリーゼに影から護衛を頼んだけど、あれだとソーニャさんには気が付かれてるかも。
で。
皇子殿下方がお出かけの間、ちょっと私の方でやらないといけないことがある。
それは皇帝陛下とそのご家族専用マンドラゴラのお披露目だ。
皇室の皆様方のための疑似エリクサー飴を作るのと、その他流通させるための疑似エリクサー飴を作るマンドラゴラは分けないといけない。
お貴族様方の中にはそう仰る人がいる訳だよ。
薬効に違いが出るならそういうのも必要だろうけど、量産化というのは原料の質いかんに品質が左右されず、一定の成果を確実に出せるものを大量に作れる状況を目指すこと。
それと専用マンドラゴラの準備というのは、正直流れと逆行してて非効率だ。
だけど皇室に忠誠心を持つって自称する人ほど、その非効率なことを声高に言い立てるんだよね。
面倒臭い。
とはいえ、生きているマンドラゴラを飼育するメリットがないわけじゃないんだよなー……。
そのメリットのために皇室専用マンドラゴラを準備するのは吝かじゃない。吝かじゃないんだけど、ここでも煩い人がいて。
皇室と菊乃井の距離が近くなることを望まない人達だ。じゃあ菊乃井じゃなくて、協力してマンドラゴラを育ててくださってる梅渓家ってなると、これもまた煩い人が多い。
梅渓家は宰相家。これ以上皇室への発言権が強くなると面白くない人達がいるんだよ。
そこで考えた。
菊乃井じゃダメ、梅渓家でもダメ。
それならその両家以外のマンドラゴラを献上してしまえってね。
即ち、以前新年の参賀でお隣になった人の良さそうな侯爵おじさん・リューネブルク卿が送ってくれたマンドラゴラを。
リューネブルク領から送られてきたときはしおしおの大根や蕪だったマンドラゴラ達も、我が家の家庭菜園の土に埋まることしばらく。
最初は栄養を吸収することが精一杯だったリューネブルク産マンドラゴラカルテットだったけど、ようやく脱皮できるようになったのが今日! やったね!
初めて脱いだ皮は記念に、脱いだままの形で干して、皇子殿下方がお帰りになるときにお土産として渡すつもり。
因みにもらったマンドラゴラの使い道については、ちゃんとリューネブルク卿にはご報告してる。
凄く恐縮されてたけど、ぶっちゃけ「政争とか面倒ごとに巻き込まれたらどうしよう?」っていう心配が四割、でも「陛下やそのご家族が病に脅かされなくてすむなら」っていうのが六割くらいの表情だったそうな。報せのお手紙を届けてくださったヴィクトルさん談。
リューネブルク家は忠誠心は高いんだけど、政争を面倒だと考える側の人らしい。
貴族だし侯爵だから必要ならやるけど、どちらかと言えば自分達は先祖代々預かっている土地と民を飢えさせず安堵出来ればそれでよしって感じというか。
以前に財政難になったのは、領地で大きな地震があって領民のために色々吐き出したけど、それを税に上乗せして回収することを厭うたためだった。領民の生活の立て直し優先した結果だから、羞じてはない。そういうことみたい。
なんだろうな?
リューネブルク家は余人が思うほど、無害ではあっても無毒な家じゃない気がするぞ。あくまで予感だけど。
物思いというには散漫な思索をしていた私の耳に、不意に扉を叩く音が聞こえた。
誰何すると扉の外から「あにうえ、はいっていい?」と、可愛い声が。
「どうぞ、レグルスくん。入っておいで」
『はーい!』
応えに素早く扉が開いた。
剣のお稽古が終わった後でこっちに来たみたいで、手には何か封筒を握っている。
「それ、どうしたの?」
「ローランおじさんからのおてがみ。さっきロッテンマイヤーさんから、あにうえにわたしてくださいってあずかったんだ」
「そうなんだ。ありがとう」
手渡された封筒を開ける。中の便箋には、各地の冒険者ギルドの予選を勝ち上がってきた武闘会参加者のリストがあって。
その名前はともかく位階が何か変というか。
「……だから何で一地方の武闘会に、位階が上の上とか上の中の凄腕が出てくるんだってばよ」
皆、本気出し過ぎじゃね?
コーサラにしても、シェヘラザードにしても、帝都にしても。
楼蘭は位階的には初心者だけど、衛士隊の隊長格が出てくると手紙に書いてある。
菊乃井の大会出場希望者なんか見習いから中の上くらいだが?
今回シードを唯一持つバーバリアンの位階が上の上だったか、そのくらい。
眉間を揉んでいると、レグルスくんがニコニコしていることに気が付いた。
「レグルスくんは、どう思う?」
「うん? ゆうしょうするひとのこと?」
「そう。もうお宿に入ってる人、奏くん達と見てきたんでしょ?」
「うん。みてきたけど……まだわかんない」
「分かんない?」
「ジャヤンタたちとはまだあってないし、エストレージャのおにいさんたちともまだあってないから」
「ああ、なるほど」
そういえばバーバリアンの皆さんともエストレージャの皆さんとも、年末からこっち会えてないんだよね。
三日会わざれば刮目して見よっていうのは、何も男子だけの話じゃない。目的があってそこに向かって修練してる人は皆等しくそうだ。
なので彼らのデーターがない以上、判断が付かないっていうのは解る。流石レグルスくん、天才。
納得していると、レグルスくんが「でも」と言葉を継ぐ。
「だれがあいてでも、おれはかつよ?」
「へ?」
「ししょうが『もしも優勝者が褒美に手合わせを望んだら、そのときは他流試合も許可しますぞ』っていってたから」
にぱっと自信満々だ。カッコいいけど、流石に幼児に他流試合望むようやつはいな……くないな。
だってローランさんの手紙の隅にあったんだよ。
エストレージャと私達のパーティー・フォルティスが模擬戦やったってのが、バーバリアンにバレたってさ。
バーバリアンの皆さんが「それならオレらともやろうぜ?」って言ってるそうな。
私達が二割の力でベコベコにした辺りまで彼らに伝わっているらしいから、情報漏洩はエストレージャあたりか。皇子殿下方込みっていう情報は流石に入ってなかったそうなので、ギリギリ見逃せるラインなのがミソだな。
因みにレグルスくんの見たところ、バーバリアン・エストレージャを除いた現段階では各地から来たどのパーティーも甲乙つけがたいそうだ。
菊乃井で出場予定のパーティーもそうなんだけど、シェリーさん達のパーティーに関しては力不足が否めないとか。
それは彼らが初心者から一歩踏み出したところだからって言うのもあるけど、他のパーティーに比べて経験が圧倒的に足りないからだそうで。
それなら識さん・ノエくん・ラシードさんのパーティーもそうだけど、彼らは私達に付き合って越えた修羅場が強みになってるみたい。
「でも、たぶん菊乃井にいるひとにかてないだけだとおもうよ」
にこにこ。
凄く笑顔だけど、それって結構なことなんでは……?
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