戻りつつある平穏、高まりつつある期待
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次回の更新は、10/7です。
結論からいえば、シュタウフェン公爵領に私の歌も流すようにしてから状況が激変した。
神聖魔術がより浸透したらしく、重症患者が軽症レベルまで改善されたのだ。
そのカムフラージュに、イゴール様のお守りを同時に配ってもらったんだよね。
シュタウフェン公爵領の人々は、普段から次男坊さんがイゴール様を信心してるのを知ってる。
実際は信心というかズブズブなんだけど、彼の日頃の信心のお蔭でお守りの効果が増した。そういうことになっているそうだ。善きかな。
ついでに菊乃井歌劇団のメンバー達の歌も流しているので、菊乃井領は人心安定のために娯楽でも協力っていう印象もついたみたい。
協力し始めてから七日ほどは必要だったけど、全ての重症患者が回復し、最早単なる風邪レベルまで疫病は落ち着いた。
あとは残りの軽症患者から症状が消え、大事を取って菊乃井より長めの待機期間を乗り越えれば、シュタウフェン公爵領のロックダウンは解けるだろう。そういう見通しもついた。
その間にマンドラゴラ医療班はリーダーのタラちゃんとござる丸以外のメンバーを一度入れ替え、新たにしゃてーやめぎょ姫、ラシードさんのライラやイフラースさんのアメナを中心とした精鋭を送りこんだ。
それもいい具合に働いて、すっかりシュタウフェン公爵領の民達もマンドラゴラと蜘蛛のモンスターに心を開いてくれたらしく。
シュタウフェン公爵領から帰ってきたマンドラゴラ医療班メンバーは皆、お礼のリボンやシュタウフェン公爵領のお土産物を抱えてた。
中には子どもの字で「ありがとう」っていうお手紙を持って帰ってきた子も。
これを受けて、やっぱり親シュタウフェン公爵派が崩れた。
まだ疫病が流行っていない所はお国から勧められる防疫対策を受け入れ、流行ってしまったところは素直に助けを求めるようになったそうだ。
だからってうちの医療班はすぐには動けない。
だって全てを助けるには数が足らないし、うちの防疫対策だって疎かには出来ないもん。
なので行けるところは楼蘭教皇国がカバーしてくれてるけど、これもなぁ……。
帝国と楼蘭教皇国はそれなりに仲が良好だけど、頼りすぎるのはいけない。
人手不足はどこでも問題なわけだ。
それはそれとして帝国の一部の貴族が調子に乗っているそうだ。
ルマーニュ王国に対して「あの国は徳がないからいつまでも病が治まらない」的なこと、何処かの国の大使の前で口にしたそうな。それも一人や二人でないとか。
何にもしてない奴がよく吼える。
でも実際ルマーニュ王国の状況は、もう本当に酷いそうだ。
件の病に罹患した八割が重症化し、その内の七割ほどが死に至るくらいになってきたらしい。
ただ麒凰帝国との国境付近は、マグメルの聖歌が漏れ聞こえるおかげか、そこまで深刻な状況ではない。
そうなると感染を恐れた人々が、国境の町に集まるんだよ。
するとその人達が、今度は国境付近の町に病気を持ち込むことになる訳で……。
良くない連鎖が起こりつつある。
国境付近には対策として、私の歌も流れるようにするそうだ。勿論菊乃井歌劇団のメンバー達の歌も一緒に。
国境付近の人々の不安に寄り添うため、そういう名目だ。
外もバタバタしてるけど、菊乃井だってバタバタだ。
冬の気配が少しずつ遠ざかって、ちらほらと気の早い草花が蕾を膨らませる。
春を感じさせるように、風だってぬるんできた。
菊乃井の町の広場はもう、後は品物を並べるだけって状態だし、続々と出店する人達が準備をするために自分の店になる場所を見に来てる。
飾りつけも職人さん達によって豪華にされて、旗や吊るし飾りで町中がとても華やか。
武闘会挑戦者もそれぞれ、砦近くに用意した仮設宿泊施設に入ってコンディションを整えているそうだ。
空飛ぶ城も燃料になる私の魔力を満タンになるまで注入しておいたし、舞台設備の点検も終了。
歌劇団の通し稽古も空飛ぶ城の舞台で行われている。
マリアさんもそれに参加しているから、通りかかると凄く素敵な歌声が聞こえるんだ。
『俺達もブラダマンテ様が菊乃井に帰還された三日後にそちらに入るよ』
「はい。準備は滞りなく」
『僕達でどこまで勝ち上がれるか解らないけど、全力を尽くすよ』
定期報告の画面の向こう、皇子殿下方が穏やかに頷く。
本当だったらもっと遅く菊乃井入りしてほしいところなんだけどな。
ブラダマンテさんと一緒に武闘会に出場する辺り、自分達の実力をブラダマンテさんに知ってもらいたいのと、逆にブラダマンテさんがどう戦うかを見て、出来るだけすり合わせをしておきたいんだって。
で、今回は護衛は近衛の副隊長さんで、彼は隊長に続いて菊乃井で修行してべこべこにへこまされて何とか復活した人だそうな。
隊長はまさかの休暇……と思いきや。
『武闘会に出るんだそうだ。もし当たっても手加減しかねるのでお許しをって言われた』
「おぉう……」
なんでよ。
内心で白目を剥く。
隊長はかつて模擬戦でレグルスくんに軽くあしらわれたことで、再戦を密かに希望しているらしい。
隣にいるレグルスくんに目を向けると、にぱっと笑って。
「ししょうがいいっていったら、やります」
「ですって」
『優勝したら許可がおりるかもしれないな』
『無理ですね。優勝するのは僕達ですから』
統理殿下の言葉に、シオン殿下がふんすと鼻息荒く胸を反らす。
本来こういうイベントに乗り気なのは統理殿下だと思ったんだけどな、ちょっと違うみたい。
やる気に溢れるシオン殿下にひよこちゃんが「がんばってください」と声をかける。
『勿論だよ。ここで「月のない夜に出歩けると思うなよ」って示さないで、何処で示すのさ!』
「うちでそんな物騒な決心を示さないでいただきたいんですが……」
ドン引きだよ、この皇子様。怖すぎる。
まあでも、エストレージャやバーバリアンもいるし、頑張るだけは頑張ってほしい。なおエストレージャには二人の身分は口外しないように言ってるし、当たっても全力でやっていいって言ってある。
勿論、皇子殿下方の正体を知ってるラシードさん、識さんやノエくんにも同じように伝えた。
エストレージャはやや恐縮してたけど、ラシードさんに識さんとノエくんは「何を当たり前のことを」って顔だったな。皆血の気多すぎ。
そういえば。
「思い出したんですけど、シェリーさん……私達がリュウモドキから助けたパーティーも出るんだそうですよ」
『そうか。新人だと聞いていたが、どんな感じなんだ?』
「いいせんいけるとおもうって、ローランさんがいってました。おれもちょっとみたことあるけど、なかなかつよいです!」
ひよこちゃんが元気にご報告する。
これは私もびっくりしたんだけど、ナジェズダさんのお手製の小物を身につけてるシェリーさんはともかく、パーティーメンバーの二人も着実に強くなってるらしい。
っていうか、奏くんとか紡くんが時々一緒にダンジョンに魔物討伐に行ってるそうだ。それで自分の実力以上の相手と戦う経験を積んで、それが彼らを大分と鍛えてるんだって。恐るべし、さすらい仮面兄弟。
『他は……識嬢とノエシスか?』
「ラシードさんと組んでるそうなんで、手強さが増しましたね」
『でも使い魔は一匹までなんだろう? ラシードの実力が十分に発揮できないんでは?』
統理殿下が画面向こうで首を捻る。
こういうとき好機って思わないのが育ちの良さなんだろうな。しかし、だ。
「大丈夫ですよ。ラシードさんの魔術と戦術、誰が教えてると思ってるんです?」
『……そう、なんだ』
げそッとシオン殿下が目を逸らす。
その反応でどう考えたか解ったから、ラシードさんには後で「当たったらシオン殿下は先に潰せ」って言っとこう。
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