外側と内側の風景は違う
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次回の更新は、10/4です。
キョトンとする私に二人が説明してくれたことには、ラシードさんがイフラースさんに武闘会に出ようと声をかけたときには、既にイフラースさんは臨時パーティーを組んでたそうな。
それで振られてしょぼんとしていた時に、偶々ノエくんが「うち二人だから、バランスを考えて三人目を入れたい」って話をして、三人パーティーが結成されたそうだ。
まあ、色々あらぁな。
因みにこっそり教えてくれたことには、イフラースさんが組むパーティーのうち一人は冒険者ギルドの初心者冒険者講座の教官・シャムロック教官だって。
お祭りだなぁ。
さて日々は順調に過ぎていく。
菊乃井のお祭り準備は滞りもなく、件の病の患者も出ない。
お祭りに参加する人々がやって来て、菊乃井のお宿はどこも満杯。
あの病の折封鎖した宿屋も、その宿屋夫妻が病に倒れず、病人たちを快癒までブラダマンテさんやナジェズダさん、マンドラゴラ医療班ととも支え続けたことから、親身になってお客のために頑張ってくれる宿として有名になったらしい。災い転じて、常に繁盛しているそうだ。
シエルさんとアンジェちゃんの父親と継母は、ロートリンゲン公爵領で食い逃げをしていたという余罪が出たため、罰金の上に所払い、向こう数年菊乃井出禁としてロートリンゲン公爵領に引き渡した。
平和なもんだ。
一方でシュタウフェン公爵領だけど、何とか病は沈静化しつつある。
ただ、その沈静化の度合いが緩やかに下がっていると、うさこからの通信で報告があった。
ブラダマンテさんによると、マグメルの歌で浄化されるより住人の数が多いだけあって、呪いが蓄積されて強化される速度の方が速いんだと。
そのせいでもう歌では解呪効果が薄くなりつつある、という。
それでも楼蘭教皇国からやってきた巫女さんや司祭さんが、呪いの吹き溜まりになってそうな空間を見つけてはお得意のグーパンで散らしているから、まだましなんだそうで。
こういう対処をしていない地域や、ルマーニュ王国なんかは目も当てられない状況になっているそうだ。これは皇子殿下方からのご連絡。
「なので、今日から私の歌もシュタウフェン公爵領で聞けるようにします」
「あーたん、結局助けてやるんだね」
「だって煩いんですもん」
朝食を終えた後、お茶を飲んでいるとそんな話になった。
ヴィクトルさんが微妙な顔をする。
煩いっていうのはアレだ。
シュタウフェン公爵領がとんでもない状況になっているし、他の領だって病人が大勢出ているところもあるのに、お祭りだなんだと不謹慎じゃないかって声がでてるらしい。
喧しいんだよ。
病を理由にするなら、うちは初期で鎮圧成功したんだ。
領民の快気祝いを盛大にやって何が悪い。
だいたい帝国全土に病が波及したとして、それで経済活動が滞ったら帝国が弱っていくんだ。少しでも賑わって経済基盤を支えることだって、帝国のためには必要だっての。
うちが賑わえば隣のロートリンゲン公爵領にも余波が行くし、天領だって潤う。それだって立派に帝国の役には立つ。
だけど外野が煩いのはたしか。
武闘会に出場する人達にも、なんでも市に出店する人達にも雑音は届くだろう。誰に何の気兼ねもなく楽しめるのがお祭りの良いところなんだ。
水を差すようなことはさせない。
そのためにはシュタウフェン公爵領の病を鎮静化させることに協力するのが一番だろう。
そんな説明をするとロマノフ先生とラーラさんがにやっとする。
「まあ、いいんじゃないの。次男坊クンと大っぴらに仲良く出来る理由ができるじゃないか」
「そうですね。次男坊さんはこの件が片付いたら独立準備として、お家を出ることが決定しましたし」
「そうなんですか?」
思わぬことを聞いた。
なんでも「竹林院という名跡を継がせるに足る教育を施すため」っていう名目で、獅子王家預かりになるらしい。
とはいえ必要な勉強をするとき以外は、今までどおり。
次男坊さんは彼が利用している拠点で生活できるし、気にかけてる妹も獅子王家へ一緒に出されるそうな。
対外的にはシュタウフェン公爵家が獅子王家に対して敵対行動をとれないような人質。実質は妹さんを保護するため。
シュタウフェン公爵が次男坊さんに対して何らの影響力も行使できないように、弱点の妹さんもこの際シュタウフェン公爵家から引き離そうっていう。
もうこの扱いで分かるだろうけど、帝国はシュタウフェン公爵家を本気で細らせにかかっている。細らせることは既定路線だったんだろうけど、それを早めたみたいだ。恐らく次期当主の代で公爵ではなくなる。
これで騒がしくなるのが私の周りなのが嫌すぎる。
つまりアレよ。
シュタウフェン公爵家を外す代わりに菊乃井家を……みたいな。うちにそんな気は全くないんだけどな!
でもこういう陰謀論めいたことを囁かれるのは今に始まったことじゃない。放置しておこう。
という訳で、このお話は終わり。
代りと言っては何だけど、以前氷輪様やイゴール様からお預かりした服の話になった。
晴れ着ということだから、渡された翌日にはレグルスくんにも奏くんにも紡くんにも渡したんだよね。でも奏くんからは「父ちゃん母ちゃんが腰抜かすから預かっておいて」って頼まれて、当日まで私の部屋のクローゼットでお預かり。
一度サイズ確認のために皆で着て見せてくれたんだけど、なんというか豪華だった。アレはもう芸術品だわ。
付与効果に関してはヴィクトルさんが「目が痛い」って呻いてたので、まあ、うん。
「なごちゃんにもみせたいな!」
「うん。お祭りの日に見てもらおうね」
ぐっと両手を握って意気込むレグルスくんのおめめがキラキラしてる。尊い。可愛い。
因みに私達の古楽器楽団の練習は、追い込みに入っていた。
菊乃井歌劇団の楽団の皆さんにも時々聞いてもらってて、楽器のプロの人達からも色々と見せ方とか間違えたときの立て直し方とかも教えてもらってる。
何でもそうなんだけど、間違えたからってそこで終わりじゃない。冷静に間違いを繰り返さないことが肝心なんだって。
「人生も同じでござるよ」って、イツァークさんが言ってた。
そんなことを思い出していると、レグルスくんがハッとする。
「ドラゴンさん、どこでおうたきくの?」
「ああ、砦の屋上を使ってもらうようにしてるよ」
「そうなの? なごちゃんがドラゴンさんにあいたいんだって」
「じゃあ、一緒にご挨拶に行こうか?」
「うん。なごちゃんにもおしらせするね!」
輝くような笑顔でレグルスくんが頷く。
そういえば、あのドラゴンさん。ずっとドラゴンさん呼びだけど、個体名ってあるんだろうか?
でも個体名があるってことは名前付きってことだよね? 実はめっちゃお強いんでは……?
ぎぎっと錆びたように固まった首を動かして、今思ったことをロマノフ先生に尋ねてみる。
「強いでしょうねぇ。私が昔倒したのと同じくらいかなぁ……?」
「え? そんなに?」
「ええ、そんなに。脅威には感じないでしょうけど、わりとかなりお強い感じですよ」
しれっとそんなことを言う。
なんで言ってくれないのさ!?
思わずジト目になったけど、逆にヴィクトルさんが驚いたような視線を向けてきた。
「え? 気付いてなかったの? 本当に? あのドラゴン、かなり強いよ?」
「いや、だって、敵意も悪意もなかったですし……!」
ぶちっと唇を尖らせると、ラーラさんが肩をすくめる。
「キミとひよこちゃんの二人がいれば余裕で鎮圧可能だから、気が付かなかったんじゃない?」
「やだー、それだと私達兄弟が名前付きのドラゴンより危ないみたいじゃないですかー、やだー」
ぷすっと零した言葉に先生達が爽やかな笑顔を浮かべた。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




