表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

637/753

予定調和と予想の範囲外と

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、9/23です。

 予定調和、後は粛々とかくあれかし。

 決まっていた予定通りに各所が調整に入って、帝国から「シュタウフェン公爵の当主夫妻と、次期当主が人事不省。これよりその次男が、その代理を務める。隣接する獅子王公爵家当主が申し入れた支援を受け、シュタウフェン公爵領は直ちにロックダウンに入る」という正式発表がありまして。

 獅子王公爵家から伝手で要請を受け、防疫対策並びに封じ込め対策に一日の長がある菊乃井家が援助を行う。

 空飛ぶ城でシュタウフェン公爵領へと向かう。これはシュタウフェン公爵領の領民達を、国も指揮を執る次男坊さんも決して見捨てないっていう意志を示せて安堵させるため。だから上空を通る領地のお家にはお国がちゃんと許可を取ってくれている。

 ここまで実にスムーズに流れて翌日。

 菊乃井家からシュタウフェン公爵領に入るのはマンドラゴラ医療班とブラダマンテさん。そして大根先生。

 疑似エリクサー飴の研究をしている大根先生をシュタウフェン公爵領に行かせるのは正直痛手だけど、飴の方は大根先生のお弟子さん達と美奈子先生とでもう大分量産化の目途が立っているからって。

 本人が「研究者ならば病の根治を考えねば」って言うんだもん。

 大根先生も旧いエルフの一人だから、この程度の疫病ではどうにもならないらしいけど。

 で。


「次男坊さんとは会わないほうがいいんですか?」

「繋がりがあると思われると、色々面倒なので。ここは獅子王閣下の仲立ちでの協力という形にしておきましょう」


 まあ、痛くない腹を探られるなんて何度もあったからな。

 新年のパーティーでは獅子王閣下が私側に付いてくださったことは、貴族社会では周知のこと。そして獅子王閣下とシュタウフェン公爵家があまり仲良くないのも暗黙の了解。

 獅子王閣下は今回のことで、新年のときの私側に立った借りを返させた形になり、更にシュタウフェン公爵家に貸しを作った形になる。

 得しているのは私じゃない。

 そう見せることで、私に集まる耳目を散らす目的があるそうだ。ようは「まだ子どもだから、大人に良いように使われてるとこもあるんだよ」って思わせるというか?

 庇ってくれるのは有難いんだけど、子どもを良いように使ってるって思わせる方がイメージ悪くなる気がするんだけど。

 ぷちっと頬っぺたを膨らませると、中に溜まった空気を出すように、ロマノフ先生が突いてくる。


「損して得取れという言葉があるでしょう? 獅子王家にもそれなりに有益だから、今度のことに乗ったんです。大丈夫、あの乙女閣下は転んでもただで起きるような人じゃありません」

「そうなんですか?」


 ロマノフ先生の笑顔に、正月の獅子王閣下のお顔を思い出す。

 凛々しい美人のお姉様だった。でもラーラさんと類友って雰囲気だったしな。

 公爵の位を長く預かる家の、それも若くして継いだ人なんだから一筋縄ではいかない人だとは思う。だったら、ここは大人の皆さんの用意したルートに大人しく乗っておこうか。

 現在シュタウフェン公爵領ちょっと手前。

 静かに、でも確実に凄い速度で城が空を移動しているのは解る。窓から雲が凄い勢いで流れてくのが見えるから。

 この人員を送り込むのでさえロマノフ先生だけで大丈夫って言われたんだけど、そういう訳にもいかない気がして城に乗り込んだんだよね。

 因みにレグルスくんはお留守番。いつもみたいに一緒に来たがったんだけど、奏くんに「今日は家にいた方がいいと思う」って言われて。

 アンジェちゃんの両親がまだ菊乃井にいるから、多分その警戒のためだろう。レグルスくんも納得してたし。

 アンジェちゃんのことはレグルスくんに任せるからっていうのを、きちんと守ってくれている。頼もしいことだ。

 閑話休題。

 シュタウフェン公爵領は昨日のうちにロックダウン。

 更にその理解を得るため先もって配っておいた遠距離映像通信魔術用のスクリーンで、次男坊さんがその必要性とこれから帝国から助けが来る旨を、何度も繰り返し煩いくらい説明したそうだ。

 マグメルの聖歌隊の歌も聞けるようにした。

 その効果が出ているのか、町は一応の平穏を保っているそうだ。そして菊乃井からも助けがくるけど、これはちょっと変わった助けだから驚かないようにって。

 蜘蛛と大根と人参と蕪とぬいぐるみだもんな。

 ちゃんと楼蘭教皇国の聖女様が一緒に来て統率を執ってくれるから心配しなくていいって放送しているとのこと。

 流れるような雲の動きが緩やかになって来た頃、長い耳を揺らしてうさおがやってきた。


「そろそろ到着です。大賢者様、聖女様、マンドラゴラ医療班、各員降下準備が調いました」

「解りました」


 って訳で、いざ中庭に。

 ここから下にあるシュタウフェン公爵邸に降りる。

 準備が調って私がやってきたのを見て、大根先生とブラダマンテさんがそれぞれ手を振ってくれた。


「それではよろしくお願いします。お二人とも、決してご無理はなさらず」

「ああ、勿論」

「はい。マンドラゴラ医療班の皆様と無事に帰還いたします」


 大根先生とブラダマンテさんに悲壮感とかそんな物は無い。お散歩に行くみたいだ。

 一緒に行くマンドラゴラ達もぴぎょぴぎょそれぞれ、手のような枝? 根っこを振ってる。

 マンドラゴラ医療班のリーダーを務めるござる丸とタラちゃんも、いつもどおりだ。


「ござる丸、タラちゃん、危ないときはうさこに言うんだよ?」

「ゴザ!」

『はい』


 私の言葉にござる丸は敬礼を、タラちゃんは意思疎通のために渡してある単語帳の単語を、尻尾で示してくる。

 大丈夫だ、皆帰って来る。

 力強く頷くと、大根先生がブラダマンテさんの手を取った。


「ブラダマンテさん、準備はいいかね?」

「はい、フェーリクス先生。よろしくお願いいたします」


 いうが早いか、大根先生はブラダマンテさんを抱きかかえると城の中庭から一気に駆け出して空へと身を投げる……ように見えて、しっかり飛行用魔術使ってるんだよな。下を見ると二人がゆっくり降下していくのが見えるけど、心臓に良くない。

 続いてマンドラゴラ十匹が降りるんだけど、蜘蛛蜘蛛ネットワーク構成員と一対で。

 タラちゃんがござる丸を背に乗せて、やっぱり城から飛び降りた。その姿に続いて他のマンドラゴラ医療班達も飛び降りる。

 先に飛び降りたタラちゃんが、自分で織った布をパラシュートにして上手いこと着陸。他のマンドラゴラを背負った蜘蛛達も同様だ。

 そして最後にうさこが。


「ついでにシュタ何とか家のご当主、きゅって言わせます?」

「次男坊さんが益々大変になるから、やめたげてよう……」


 つぶらな瞳で何てこと言うんだ、このウサギ。

 まだ春は遠いから風が冷たいんだけど、更に空気を冷やしていくことを口にしつつ、うさこが城から下りる。

 傘を広げてトランクケースを持ってゆらゆら降りていく姿は、何かを思い出しそうだ。なんか、ほら、アレ、ナニーのお姉さん。スーパーカリ何とかかんとかドーシャス。

 城に付いた通信魔術でうさこから全員無事に降下して、きちんと次男坊さんと合流した連絡が。

 そこで城は領地に帰還したんだけど。

 帰った菊乃井家の庭には、メタリックグリーンの大きなドラゴンがちょんと座ってた。


「え? なんて?」

「だからね、あにうえがうたってる、このあいだのていとのおまつりのきねんこうえん? ドラゴンさんにみせたよって」


 ロックダウンが明けたら訪ねてくるといった言葉通り、いつかの歌好きドラゴンさんがおいでになったそうで。

 私が留守だったから、代理でレグルスくんが対応したんだってさ。凄いなぁ、賢いなぁ。

 なるほど、レグルスくんが家にいて正解だった。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] マンドラゴラ医療班の降下シーンで「ワンダバコーラス」が脳内に鳴り響いたのは私だ!(ꈍᴗꈍ)
[一言] 私も「きゅっ……」ってなったことありますよー、高校生の時、通学途中の電車の中で。あの時、とっさに隙間を作って下さった周囲のサラリーマンの皆様、ありがとうございました。 では。
[一言] 鳳蝶以外にもおかしなモン有るんじゃないかなあ? 良いにしろ悪いにしろ偶然の起き易い特異点・グランゾンのブラックホールエンジンみたいなの 流石に色々短期で起き過ぎや、菊乃井領
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ