かくあれかしと天は言う
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次回の更新は、9/20です。
翌日は朝からちょっと忙しかった。
イゴール様と氷輪様がお知らせくださったシュタウフェン公爵家の話を、先生方や大根先生、療養所から戻ってこられたナジェズダさんに共有。
皆、凄く大きなため息を吐いてた。
でも色んな権限が次男坊さんに移るのだけは、大歓迎って感じ。
そして権限が次男坊さんに移ったシュタウフェン公爵家へとマンドラゴラ医療班の派遣も「首根っこを押さえるのには丁度いい」って。
ただ問題があるのは、派遣する人員なんだよ。
これに関しては、連絡を入れたブラダマンテさんが行ってくれるって話だったんだけど、もう一つ。
どうも「神様の加護がある人は、呪いが効かない分重症化しにくい」という報告が届いたのか、楼蘭教皇国から人員派遣の話が来たそうな。
これは朝の定時報告を入れた皇子殿下方からもたらされた話。
皇子殿下方も皇帝陛下も、えんちゃん様から「そろそろシュタなんとか公爵家がマズいぞよ」という警告を受けられたそうで。
そのついでに楼蘭教皇国の教皇猊下が「神様に捧げられた国」の威信をかけて、疫病に立ち向かうと言っていたと告げられたんだって。
神聖魔術を人知れず臣民にかける役割をマグメルに持ってかれたことが、教皇猊下におかれては多少ショックだったとか。
でも自分とこの巫女さんや司祭さんの神聖魔術が、ちょっと病人向けじゃないのも自覚してるから、それなら看護要員として派遣するということみたい。
あそこはボランティアで災害時には救助要員や看護要員として、巫女さんや司祭さんを派遣することがあるからおかしくはないだろう。
なら人員としてはそっちを当てにするとして、マンドラゴラと意思疎通が出来る人なんだけど、ラシードさんが手を挙げた。
しかし。
「要らないってどういうことだよ?」
「それが……魔物使いが領地にいるんですって。それで訓練されたマンドラゴラを派遣さえすれば何とかなるみたい」
次男坊さんからのギルド経由速達便には、マンドラゴラ医療班派遣に関するお礼が認めてあった。
イゴール様は私と話をした足で、次男坊さんのところに顔を出したみたい。
次男坊さんに色んな権限が移ったらすぐに「菊乃井から働き者の野菜達が来るよ」って言ったそうだ。
それで私のことだから人員も付けようとしてくれてるんだろうけど、それで菊乃井の防疫が疎かになったら心苦しい。
丁度次男坊さんのところに居候してる魔物使いがいるから、その人と協力して病に立ち向かう。
そういうことだって。
「いや、行かなくていいならいいけど……」
「それであっちに派遣する医療班のリーダーは誰がいいか、ラシードさんに聞こうかと」
「うーん、おれが一緒に行くならめぎょちん一択だけどな。でも行かないんなら、マンドラゴラ達の統率が取れるござる丸がいいと思う。強いから誘拐とか出来ないだろ?」
「ああ、まあ、そうだね」
ござる丸は強いよ。
それにレグルスくんや奏くん、紡くんの相手をすることもあるから、人間との戦い方も心得てる。万一マンドラゴラに不埒な真似をする輩が現れても、ござる丸なら軽くあしらえる。
それに物資運搬などは空飛ぶ城を動かして、そこからタラちゃん達にお願いしようと思ってたんだよね。
そう告げると、ラシードさんが首を捻った。
「なんで物資運搬?」
「え? ああ、次男坊さんに権限が委譲されたら、即ロックダウンに入るだろうから。となると、物資は空から運び入れる形にした方がいいと思って」
「地上からだと関所で足止めされるからか」
「うん」
恐らくシュタウフェン公爵領のロックダウンは、菊乃井のような短期間では済まない。現在次男坊さんが把握してるだけでも、患者数がうちより確実に多いから。
そしてこれは増える見込みが高いらしい。
何かのときのためにシュタウフェン公爵領でも一応の食料の備蓄等があるそうだ。それで持つのは三か月くらい。
最低限の経済活動まで禁止するつもりはないけれど、物資の流通なんかは滞るだろう。そのときのために準備を頼みたいってあった。
勿論それはやる。
マグメルの聖歌隊の歌も、領民全てに届くようにこっそり手配をかけているそうだ。これは私が布を手配したのもあるけど、陛下がこっそり次男坊さんに届くようになさってたとか。
それで物質的なものはなんとか。
あとは政治的な体面なんだけど、これは獅子王公爵閣下が整えてくださるんだって。
かねてより獅子王閣下と次男坊さんは面識があって、親はともかく仲良くしてもらってたとか。
その獅子王閣下の伝手で私が今回シュタウフェン公爵領へとマンドラゴラ医療班を派遣する。
新年参賀のパーティーの際、元父の実家であるバーンシュタイン家との相互に円満な絶縁を手助けいただいた恩義を返すため、菊乃井家が動いた。今回のことはそういう形になる。
いい面当てだよね。おまけに当主と次期当主の病まで治してもらったとあっちゃ、今後私に何にも言えなくなるし。
疫病が去った後、シュタウフェン公爵家はとても微妙な状況に突入するだろう。
どう考えても役に立たない当主と次期当主に、なり替わって指揮を執った出来る次男坊。そしてその次男坊は、疫病をしっかり食い止めた功をもってシュタウフェン公爵家から独立する。
彼に与えられる家名は「竹林院」で決定だ。
その際の後見人は父親でなく、彼を見出した獅子王公爵家当主・乙女閣下ときたもんだ。
怖いよね、もうここまで道が出来てるんだから。
丁度三時のおやつの時間を時計が知らせる。
書斎兼執務室の扉がノックされたので、応えを返すと何とも言えない顔をしつつ、ラシードさんが扉を開けた。
入って来たのは宇都宮さんとレグルスくん。
「あにうえ、おはなしおわった?」
「うん。もう終わったよ」
「うつのみやと、おやつもってきたんだ。ラシードくんもいっしょにたべよ?」
「あ、うん。じゃあ、お言葉に甘えて」
よろしくと声をかければ、宇都宮さんが元気に「お任せ下さいませ」と早速お茶の準備をしてくれる。
昨日はレーズンの入ったバタークリームサンドだったけど、今日は胡桃にカラメルをまぶした……クルミのキャラメリゼかな?
こういうお菓子も菊乃井家のおやつとして、お祭りでちょっとだけ売り出す予定。
準備を終えて出ていく宇都宮さんの背中を見送ると、ラシードさんが「それにしても」と呟く。
「魔物使いって珍しいんだよな?」
「うん、まあ、そうだね。でも帝国でもうち以外にも領地経営に魔物使いに携わってもらってるところがあったりするから、いない訳じゃないんだけど」
「オレの実家の一族なんか、皆魔物使いだもんな。いるっちゃいるのは解ってるけど、珍しいって聞いてたからビックリしたな」
それはたしかに。
何となく納得していると、レグルスくんが「どうしたの?」と聞いて来る。
なので次男坊さんのところにも魔物使いがいるらしいことを話せば、こてんと首を傾げた。
「しってるひとかな?」
「えー……や、オレ、一族以外に魔物使いに知り合いはいないから……」
「私も、ラシードさん達以外の魔物使いは知らないなぁ」
「なかよくなれそうなひとだといいね?」
にこっと笑うレグルスくんに、私もラシードさんも同意する。
そりゃ次男坊さんとこで協力するなら、仲良くなれそうな人がいいよね。
そんなことを言いつつ、お茶とおやつを楽しむこと暫し。
壁にかけてある遠距離映像通信魔術用のスクリーンが光り出して、魔術の気配を感じる。
『鳳蝶、いるんだろう?』
統理殿下の声に、ひよこちゃんもラシードさんも背筋を正す。
「はい、御前に」
『シュタウフェン公爵家から当主夫妻と長男が病によって意識不明となったそうだ』
来たか。
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