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白豚貴族だったどうしようもない私に前世の記憶が生えた件 (書籍:白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます)  作者: やしろ


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招くも招かざるも

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、8/16です。

 シェヘラザードで開発されたのは、あらかじめ木材を組んで現地で組み立てる方式の住宅だった。

 なんでもシェヘラザードの工房で壁だの窓だのになる部品を組んでおいて、現地に運んで組み立ててしまえっていうアレだそうな。

 現地で部品や壁を組んで一から建てるよりは、遥かに時間的短縮になる。

 今回提供してもらえることになったのは、シェヘラザードで試験的に組み上げたもの。

 シェヘラザードに話をもってった際、偶然試験的に使ってくれる場所を探していたそうだ。

 ラーラさんがいたから建物ごと関所に転移して、庭の邪魔にならない場所においてるんだって。

 建物はあと二つほど組み上がっていて、何処かに売り込みをかけるためにまた解体する寸前だったというから、実にタイムリーだった。

 一つは関所、もう一つは冒険者ギルドに待機所として設置、後一つは療養所として使用する。

 早速で申し訳ないけど、ルイさんに連絡して契約を結んでもらうことに。

 ついでっていうとアレだけど、この療養所と待機所は運よく使わなかった、或いは病が沈静化した後はお祭りのときの仮設宿泊所に幾ばくか支払って転用する。そういう契約も添えさせてもらった。

 彼方としては売り込み先とその有用さを証明できる場所を探していたから、菊乃井からの申し出は渡りに船だったようですぐに契約が締結されることに。

 あとはそれぞれ先生達が動いて下さって、土台をどうするとか水回りの整備とか、色々やることはあるにせよ、その日のうちに冒険者ギルドにも関所にも待機所が設置され、街の外れに療養所が設置された。

 ここまで僅か一日、進むときはトントン進む。

 来てほしくはないけど、病に対する一応の対応はなんとか。

 それでもやらなきゃいけないのが、今度は領民に対する説明だ。

 これはなぁ………。

 最悪の場合ロックダウンをやって、他都市に一切疫病を出さずに鎮圧しないといけないわけで。

 その最悪の事態でロックダウンをやるっていう説明と、何のためのロックダウンなのか、それからロックダウン自体が何であるかっていう説明がいる。

 しかしこれは疫病対策を考え始めたときから、対策を取ってたんだ。


「というわけで、速やかにアレを設置してもらって」

『既に準備は出来ております。あとは決められた時間に我が君が収録したものと、菊乃井歌劇団に依頼して作っておいた映像を流すだけです』

「ありがとう。準備が早くて助かります」

『我が君が先んじてこういう準備をしておくよう、ご指示くださっていたからです』

「それでも貴方や役所の人達が手足のように動いてくれるからだ。どうか皆を私の代りに労ってあげてください」

『は、お言葉必ず皆に伝えます』


 画面の向こうのルイさんもちょっとお疲れが見える。

 件の流行り病の症状がどう考えても兵器転用の成れの果てですってのが解ってから、ここまでで怒涛の一日。

 正確にいうと、先生方のお蔭で待機所と療養所用の建物が菊乃井に来た辺りで次の日に持ち越し。今は次の日の昼前だから一日半ということになる。

 独裁制の強みは、こういう速さだ。これが議会制になると一々審議しないといけないから、そこは良し悪し。

 この対応も記録に残しておいて、後々の資料とする。今の段階で出来るのはこんなところだろう。

 溜息を吐くと、丁度時計が区切りよく正午を告げる。

 すると通信を終えて真っ白な布に戻った筈の、遠距離映像通信用スクリーンに私の顔が浮かんだ。

 これ、私の準備。

 町の集会場や広場、集落の人通りの多い場所に、遠距離映像用のスクリーンを設置して、あらかじめ記録させておいた映像を、魔術式で時間設定して定められた時間ごとに再生するやつ。

 画面に映った私が丁寧に「ロックダウンとは何か?」「なぜそうするのか?」「ロックダウンがあった場合どうなるのか?」という説明を、領民に向かって話している。

 これは朝昼夜の三回の予定。

 でも私だけじゃなく、病気予防の方法とか体調が悪かったら病院に行くように、お金は気にしなくていい旨を、歌劇団のお嬢さん方が説明してくれる動画も流すことになってる。

 それでも待機所や療養所も準備が万全に出来てるとは言い難いから、この間に感冒が菊乃井に入ってこないことを祈るばかりだ。

 更に次の日、ナジェズダさんも予定を繰り上げて菊乃井に来てくれた。

 本来なら町中に住居を構える予定だったんだけど、状況が状況だからと空飛ぶ城に仮住まいすることに。

 待機所や療養所には城から転移魔術で行き来してくれるそうだ。


「それで人形奇術なのだけど」


 執務室兼書斎のソファーに寛ぎつつ、ナジェズダさんが切り出した。

 今のところ人形奇術が使えるのは私しかいない。

 術式の難易度や使用魔力的なことでいえば、ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんも使えるんだけど、お三方はそれが使える人形や編みぐるみを所持してないから確かめようがないんだよね。

 ナジェズダさんはきちんと自分が作ったぬいぐるみや人形を持って来てくれた。だから早速試してみようということで。

 私が準備をお願いすると、隣に座っていたレグルスくんが心得たとばかりにテーブルの上にひよこちゃんの編みぐるみを並べた。

 陣取りゲーム用に編んだ編みぐるみは十六個。その全てに魔力を通す。するとピヨピヨと囀り始めて、編みぐるみが円陣を組んでよちよちと踊り始めた。


「こんな感じなんですけど、術式は……」

「ああ、はいはい。分かりました、これなら大丈夫よ」


 頭に王冠、身体にマントと飾緒を付けたひよこ隊長に触れると、ナジェズダさんが頷く。

 それから自身が持ってきたエルフの女の子を模した布で作った人形を鞄から取り出した。ほっそりとした指先で人形の額に触れると、ゆっくりとたしかめるように魔力を通す。


「こんな感じ?」


 そう言って人形の額に触れていた指先を離すと、たちまち人形が可愛らしく踊り始めた。


「あにうえ、おにんぎょうさんがおどってる!」

「本当だ、可愛いね!」


 言葉も解るのか、可愛いという言葉にエルフの女の子がはにかむように布で作られた手で顔を隠す。

 これなら看病でも活躍してくれるだろう。

 顔を見合わせると、ナジェズダさんが力強く頷いた。


「これならお手伝い出来そうね? 病気のことはアリョーシュカから聞いています。最近の人間の常識も帝都でソーネチカに教わったし、世界樹の巫女として培った知識もある。きっとお役に立てると思うの」

「ありがとうございます。危険を承知でお願いするのは心苦しいですが……」

「いいえ。菊乃井には彼女、シェリーさんがいる。そのお仲間のグレイさんやビリーさんも。菊乃井を病から守ることは彼女達を守ることです。望むところですよ」


 ぐっと握り拳を固めてそう言ってくれる。

 レグルスくんも私もその頼りになる言葉に、「ありがとうございます」と心から頭を下げた。

 やっぱりエルフの皆さんって私とか菊乃井からすると、物凄く頼りになる皆さんなんだよね。何とかしてその呪いを解けないもんだろうかとか、そもそも人間が誠実だったらエルフは善き隣人でいてくれたんじゃないかとか、そういう気持ちを持つくらいには。

 あー、氷輪様は「放置しろ」って仰ったけど、やっぱり無理。なんか考えよう。それでも何も出来ないかもだけど、そのときはせめて菊乃井だけでも「エルフの皆さんが助けてくれたよ」っていう記録を残して、それを積み重ねよう。ちょっとは何かの足しになるかもだし。

 ナジェズダさんはエルフの女の子のお人形以外にも、他にも十体ほど人形やぬいぐるみを持って来てくれたそうだ。

 何とか態勢が調っていく。

 ほっと息を吐いたときだった。

 バタバタと廊下を走る足音に、急に胸騒ぎが。

 来る。

 予感というよりは最早決定事項の悪寒が背中に走った。

 なんだ? 何が来る!?

 足音が部屋で止まる前に、レグルスくんがソファーから走りおりて扉を開ける。


「旦那様! 宿屋から蔦の痣が浮いた病人が出たと、ローラン様から報せが!」


 ロッテンマイヤーさんの悲鳴のような言葉が、部屋に響いた。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ああ~奇病が来たか!! [一言] 非常に蒸し暑い中の著作には頭が下がる思いです。 今回のような病気関連なら、なろう仲間の「異世*薬局」の高山先生の出番ポイ内容に突入しそうですね。(笑…
[一言] 一番身近なエルフが先生たちだからこそ良き隣人と思えたんでしょうね。最初の接触が阿呆どもだったら悲惨だったでしょうね…
[一言] 最低限の準備は間に合ったか...な? あとはパンデミックや 予想外の事が起こらなければ(>_<) がんばれ菊乃井領!
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