怖さにも種類があってな?
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次回の更新は、8/9です。
「なんですか?」
こういうときは尋ねたほうがいいんだ。じゃないと後々爆弾を落としてくるのがロマノフ先生だから。
すると先生が凄く爽やかな笑みを顔に浮かべた。
「優勝したあかつきには、君にお願いがあるそうですよ」
「私に?」
「はい」
なんだろう?
一応菊乃井冒険者頂上決戦の優勝者には、私の出来る範囲で願い事を叶えることになってるけども。
ここで「私に」って言って来るところが多分みそだ。
首を捻っていると、ロマノフ先生がくふんっと口角を上げる。
「破壊の星を浴びてみたいんだそうで」
「………………は?」
「正確にいうと、猫の舌も喰らってみたいし、その他のレクスの使っていた珍しい魔術、しかも遺失魔術を中心に喰らってみたいそうです。沢山浴びれるだけ浴びたいそうなので、手加減はしてほしいらしいですよ」
「………………………………と、特殊な趣味の人なんですね」
「ええ。でもパーティー全員じゃなくて、ジャヤンタ君と張り合っている彼だけですから。そこは安心していいですよ」
「そうなんですね、良かった……ってならないですよね? どんな趣味なんですか!? 怖いんですけど!?」
腕に鳥肌が一気に出た。
まだ見たいなら解るし、理解も出来る。でも浴びてみたいは解らない。
だけど今日も私の腰にいるヤツには理解できるようで、脳内に勝手に「やだー! 同輩!? 同朋!? 解ってるじゃないですかー!」とか大歓喜を垂れ流してくる。煩いんで、ちょっと黙ってもろて。
因みにそのパーティーも三人組だそうで、残りの二人の望みは「菊乃井家の料理が食べてみたい」だとか。
「え? うちの料理ですか?」
「はい。ジャヤンタ君達から菊乃井家の料理は格別って教わったからって」
「? 張り合ってても仲が悪いわけじゃないんですね?」
「ええ。どっちか言うと仲がいいから張り合っている的な」
「ああ、なるほど」
まあ、それくらいならいいか。
料理長にも話はしておかなくちゃいけないけど、うちのご飯が美味しいのは事実だ。
帝都の新年パーティーで食べた皇居の料理人達のご飯だって悪くなかったけど、私はやっぱりうちのご飯がいい。料理長のご飯しか勝たん。
それはさておき、他の冒険者ギルドでも選考が進んでるんだって。
なんか勝ち抜き戦みたいな予選会をやってくれてるギルドもあるらしく、帝都の冒険者ギルドからエントリーする冒険者パーティーもそういうのを勝ち抜いたとか。
楼蘭教皇国は衛士隊でまず選抜戦をやって、そこで選ばれた衛士衆がパーティーを組んで冒険者ギルドに登録しての参加に相成った。
シェヘラザードは晴さんが菊乃井でエントリーしてるから、他の冒険者パーティーがくるらしい。ここも結構有名な人を考えてるって噂。
コーサラはバーバリアンがシード枠なんだけど、エントリーしたい冒険者パーティーがあるらしく今地域予選みたいな感じになってるんだそうだ。
皆一地方のお祭りってことを忘れている気がする。
それだけ娯楽に飢えてるっていうのもあるのかもしれないな。
これならイシュト様への供物としての武闘会は成功しそうだ。
一人頷いていると、コンコンと書斎の扉をノックする音が。
応えを返すと、開いた扉からロッテンマイヤーさんが姿を見せた。
「お手紙が届きました。差出人はマリア・クロウ様です」
「ありがとう。なんだろうな?」
手紙を受け取るとペーパーナイフで封を切る。
綺麗な淡い色の封筒から出てきた同じ色の便箋を開けば、ふわりと柑橘系の香りが広がった。
マリアさんの凛とした爽やかさが思い起こされる香りに包まれながら、手紙を読む。
「えー……、いいのかな?」
「どうなさいました?」
「うん。マリアさんがお祭りのときに菊乃井歌劇団の前座で歌わせてほしいって……。だけどマリアさんに前座……」
ロッテンマイヤーさんに答えつつも悩む。
前座。
帝都の即位記念祭のときもマリアさんは歌劇団の前座を務めてくださったけど、本来マリアさんは前座だけで終わらせるなんて勿体ない歌手さんなわけだよ。
贅沢だけど、マリアさんをそんな使い方していいものか。
これはヴィクトルさんとユウリさん、エリックさんにも相談しないといけないことだな。お返事をすぐ返せなくて申し訳ないけど、一旦保留。
というわけで、ロッテンマイヤーさんにはヴィクトルさんと相談する旨を告げると「承知いたしました」と一礼して部屋から出ていく。
なんでも市のほうも出店希望に関しては順次ヴァーサさんが捌いてくれてるから、こっちは心配ないかな。
そういえば源三さんの幼馴染で、奏くんの鍛冶の師匠のモトお爺さんも、今まで作ったけど趣味に走りすぎて売りに出せなかったのを、なんでも市で売ってみたいとかで出店することが決まってるんだって。
アクセサリーも作っているそうだから、当日は見に行かせてもらおう。
お祭りに関してはこのくらいか。
着々と進んでるんだよね、色々。
私やレグルスくん、奏くんに紡くん、アンジェちゃんの古楽器の演奏も一応なんとか形になって来たし。
防疫絡みで他国の整地計画なんか立ててる暇ないんだよ。暇があっても他国の整地なんかしないんだけど。
とりあえず今日はこれで一段落かな?
そんな風に考えていると、また書斎の扉がノックされて外から「ゴザゴザ!」と聞こえてきた。
ござる丸だ。
入るように声をかけると、タラちゃんも一緒に並んでた。そのタラちゃんにオン・ザ・うさお。
どんな構図だと思っていると、うさおが分裂した。
「え?」
突然のことに目を丸くした後、ハッとする。
分裂じゃなくて、うさおが二体いるんだ。
いや、違う。
うさおはいつもタキシードだけど、もう一匹のうさおはタキシードじゃなく燕尾服だ。
私がさっき感じた違和感の正体はこれだったわけで。
「うさお、じゃないんですね?」
水を向ければ、二匹ともこくっと頷く。
そして燕尾服を着た方がぺこっと頭を下げた。
「わたくし、うさおのプロトタイプのうさこと申します。うさおと同じくお城の管理、庭の整備、動物のお世話など。それから」
一旦言葉を切るうさこに猛烈に嫌な予感がする。
そういえば、まだ見つかってない魔術人形があったんだよ。しかも役割がちょっと物騒なヤツが。
あれは流体金属で出来ているせいか、自在に形を変えられるよう設定してあってて。だけど負ってる役割的に、警戒心を煽らない小動物っていうコンセプトがあってだな。
顔面が引き攣る。
私のそういう顔を見てか、ロマノフ先生も笑顔で固まった。
色々忙しくてうっかり違和感を見過ごすとこれだよ。ちくせう。
でも私達のそんな内面を考慮することなく、うさこは改めてお口を開く。
「レクスから指示された誰かをきゅっていわせることです」
うさぎさんのお口って可愛いよね、出てきた言葉は全然可愛くないけど。
つぶらな瞳でなんてこと言ってくれるんだ。
小さなお口を動かして、うさこ……って言うからには彼女なんだろう。
レクスにかけられた封印が解けた理由を話してくれた。結論からいって犯人はぽちだった。
ある日、ぽちがうさこの眠っていた屋根裏にきたそうな。
動物の世話を任されていたうさこは、ぽちの気配に反応して目が覚めて、ずっとぽちの世話をしてたらしい。
なんで私達の前に出てこなかったかっていうと、そこはレクスの言いつけ。まさにレクスはうさこに「影に潜みて悪を討つ」という指令を与えていたらしい。ので、陰ながらずっと私達を見守ってたんだってさ。
私はともかく先生やレグルスくん、奏くんの気配察知を掻い潜るってどんだけ……。
と思ったんだけど、それはこの城のせいらしい。
うさこは城の内部防衛も任されてたから、城全体がうさこの気配遮断を支援する魔術をかけられているんだと。
「あの、レクスって何と戦ってたんです……?」
「強いていうなら世界ですね」
しれっと答えたうさおに、こくこく頷くうさこ。
私とロマノフ先生は顔を見合わせると、明後日に視線を飛ばした。
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